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毒花

 武力をチラつかせて要求を徹すという黒船式交渉術で城門をくぐった僕たちは、大勢の監視のもと謁見の間へと通されることになった。

 複雑な紋様があしらわれた赤いカーペットが敷かれた廊下を先導されるがまま歩く。後ろに控えたプレイヤーを合わせると二十人ほどに囲まれている。まるで犯罪者の搬送だ。


 案内人の中には、いつだったか僕に絡んできたシラギクもいた。強引すぎる手段を用いたためか、注がれる視線は非常に冷たい。

 針のむしろというやつだね。すいませんねほんとうちの相方が。


「うわーすごい豪華! さすが生産職が集まってるだけあるねー。あの絵画とか壺とか、用意された内装じゃなくて一から作ったやつだよね? 雰囲気出てるなぁ。壊してみたいなぁ」


 騒ぎを大きくした当の本人は、クルクルと回りながら廊下に飾られた調度品を観察し、狂った感想を漏らしている。


 意味不明な発言を真に受けたプレイヤーの一人が飾られている風景画に駆け寄りインベントリへと収納した。おそらく絵を描いた本人なのだろう、射殺さんばかりの視線をシリアに向けている。ほんとすいませんね。


 親の仇のような視線を浴びてなおシリアは平時と変わらない態度だ。しかしその目は小刻みにうごめき、周囲のプレイヤーの挙動を観察している。

 奇襲の警戒。わざとらしく回っているのも視野の確保のためだろう。調度品を褒めそやしていてその実、視線はプレイヤーの手足を捉えている。


 切った張ったの世界に身を置く狂人は常在戦場の心構えに忠実だ。そこに在るのは人を信頼することを知らない悲しきモンスターである。覚悟が違ぇや。


 これ以上『花園』のプレイヤーを刺激しても状況が好転するとは思えない。僕はシリアに注意を促した。


「馬鹿なこと言うのやめなよ。僕たちは頼み事をしに来たんだからさ。平和に行こうよ、平和に」


 ここにいるのはこれから仲間になってくれるかもしれない人達だ。ただでさえ暴力の誇示という最悪のファーストインプレッションを植え付けてしまったのに、殊更に悪化させることあるまいて。


 僕の言葉を聞いたシラギクがグリンと振り返り、眦を吊り上げて叫んだ。


「どの口が言ってるの! 平和とか言うならまずはその爆弾を仕舞いなさいッ! 説得力が欠片も無いじゃない!」


「え? いやだよ」


 仕舞うわけ無いじゃんね。僕は呆れた。

 爆弾を仕舞ったが最後、僕は一瞬で斬り捨てられてポリゴンへと変わるだろう。この人数だ、逃げられるとも思えない。


 シリアが物騒なやり方で交渉の口火を切ってしまったため、僕は爆弾を手放すわけにはいかなくなってしまったのだ。

 僕のことを害するなら、こちらにだって考えがある。そういうスタンスを貫かざるを得ない状況なのである。抑止力とか、相互確証破壊とかそういうお話だ。


 僕のことを斬ったらラストワードでギルドハウスを吹き飛ばす。パワーバランスを均衡に保つことで平和は成り立つのだ。

 世の中っていうのは綺麗事だけでは回らないのである。悲しいね。


 至極当たり前の考えで要求を断ったのだが、何が気に入らなかったのやら、シラギクはわなわなと肩を震わせて鬼の形相をしている。

 そんな睨まないでよ。悪いのはシリアだから。


「ライちゃんってさ、人の神経を逆撫でする天才だよね」


「え、シリアにだけは言われたくないんだけど」


「どっちもどっちでしょう!」


 終始賑やかな行進がしばらく続くこと数分、僕たち二人は『花園』のトップが待つ謁見の間へと足を踏み入れた。


 ▷


 僕が『花園』の創始者について知っていることはあまり多くない。

 高レベルの『裁縫師』であることと、狩りが不得手な引きこもりということくらいか。実際に顔を合わせたことは無いし、これからも無いと思っていたので特に気に掛けたこともなかった。


 ただ、口さがないプレイヤーが漏らす噂はいくつか耳にしたことがある。

 曰く、女性プレイヤーを集めたのは自衛のためではなく自分の趣味である。

 曰く、部下のプレイヤーに日常的にセクハラを繰り返す悪質なプレイヤーである。

 曰く、セクシャルハラスメントペナルティを一切の接触無しに他人に課すことができる。


 馬鹿らしい噂だ。おおかた、目的を邪魔された出会い厨達が腹いせに流した根も葉もない噂だろうと、そう思っていた。


 もしかしたら事実だったのかもしれない。


 豪奢な玉座に腰掛けた薄桃のウェーブがかったロングヘアーの女プレイヤー。ネームはユーリ。

『花園』の創始者でありトップに君臨するプレイヤーは、膝に小柄な女プレイヤーを乗せて僕たちを出迎えた。その両手はしっかりと腹へと回されており離す気配がない。


「あの、マスター……さすがに人前だと恥ずかしいです……」


「んー? 恥ずかしがってるの? ヒマちゃんはかわいいなぁ〜」


 ユーリは膝に乗せたプレイヤーの髪をわしゃわしゃと撫でたあと、その首筋に顔を埋めた。


 明らかにセクシャルハラスメントペナルティの項目の過度な身体接触に引っ掛かるラインなのだが、どういうことなのか慌てた様子はない。あのままだと二分経過でペナルティを食らうはずなのだが……周りのプレイヤーも止めに入らない。


 なんだこれ。僕らは一体何を見せられているんだ。

 戸惑っているのは僕だけらしい。眼の前の光景をさらっと流したシリアが交渉を開始した。


「久しぶり、ユリちゃん。相変わらず頭おかしいねぇ。さっそく本題なんだけど、ちょっと人手を分けてほしいんだよね。聞いてると思うけど、この街をブッ壊すことにしたんだぁ。だからそのお手伝い要員を融通してくれるとありがたいなーって。断られたらこのギルドハウスをブッ壊す予定だからそれも踏まえて返事をくれると嬉しいなぁ」


 初手から飛ばすなぁこの狂人。

 軽い口調でテロをほのめかしたシリアに対し、ユーリはようやく視線を膝に乗せたプレイヤーからシリアへと向けた。

 髪と同じ薄桃の虹彩がシリアを射抜く。酷く優しげなアルカイックスマイルを湛えてユーリが言った。


「久しぶり、シリアちゃん。銃器解放で暴れてるプレイヤーにはこっちとしても迷惑してたから乗ってあげてもいいけど、条件があるの。それ次第では考えてあげる」


 おう、まじかよ。絶対に突っぱねられるかと思ったが、やはり暴力は全てを捻じ伏せるということか。


 脅迫による一点突破を敢行したシリアは、交渉に前向きな姿勢を見せたユーリに対して渋面で応えた。

 ふむ、あまり歓迎していないようだ。無条件で従わせるつもりだったのだろうか。


「一応、聞くだけ聞いてみようかな」


「別に変なこと要求しないからそんな身構えないでよ〜」


 警戒したシリアに間延びした猫なで声で説得を試みたユーリは、インベントリから紺色の布切れを取り出した。そのまま両手でその端を摘むと、こちらへ見せつけるように広げてみせた。そこにあったのは、どこからどう見てもスクール水着にしか見えない物体であった。


 下手したらパイルランチャーとか火縄銃以上に世界観をブチ壊しかねないシロモノを掲げた女は、笑みをそのままに要求を述べた。


「これを着て、私が指定するポーズでスクリーンショット十枚。それが協力する条件よ」


 このゲーム頭おかしいやつしかいないな。もうこのギルドハウスごと吹き飛ばしたほうがいいんじゃないかな。

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