類は共犯者を呼ぶ
正義のために街一帯を更地にし、民度を刷新する方針で一致した僕たちであるが、とある深刻な問題に直面していた。
「シリアに伝手はないの?」
「ちょっと見当たらないかなー。ライちゃんは?」
「うーん。ケーサツはアテにならないし、検証勢は反対するだろうし、廃人達はむしろ妨害してきそう」
今回の計画はどうあっても目立つ。段階が進むに連れて警戒、包囲網が敷かれることになるだろう。ちんたらしていたら『ケーサツ』や廃人連中に捕捉される。ゆえに同時多発的にやるべきだ。
そうなると人手が圧倒的に足りない。二人というのはあまりにも無謀。最低でも二、三十人は欲しい。それ以上は情報漏洩のリスクが勝つ。多ければいいというわけではない。
条件としては、それなりに腕が立ち、結束が固く、現状を憂いている連中がいい。銃器にさして興味がない、もしくはその恩恵に与れていないような連中だ。
こちら側につく理由があり、寝返る危険がなく、予想される妨害を対処出来るような人材だ。高望みかもしれないが、万全を期すならば外したくない条件である。
僕は計画遂行にあたっての雑感を述べた。シリアが首を傾げて呟く。
「ライちゃんって現実で犯罪者だったりする?」
面白くない冗談だ。僕は無視した。
「食物連鎖あたりから引っ張ってこれないかな」
「んー。無理じゃない? わりと一枚岩に近いし、都合のいい人数だけ引っ張ってくるのは厳しいんじゃないかなー」
『食物連鎖』。最古参ギルドである彼らの結束は固い。
結成当初、『食べ物の名前がネームに入ってるプレイヤー限定』という条件で集ったプレイヤーは、そのゆるい募集条件に見合わない強固な結束力を発揮した。
ギルド機能が解放された当初、ギルドとは騙し合い殺し合いを効率化させるために作る犯罪者コロニーのような扱いであった。
そんな殺伐とした雰囲気が蔓延していた所に突如として現れたゆるい募集。それは反世紀末派にとってのオアシスのようなものだった。
ネトゲのネームを深く考えないプレイヤーは多い。ふと目についた物や、本名を適当にもじった程度のネームが大半だろう。
その中でもなぜか多いのが食べ物の名前のプレイヤーだ。『食物連鎖』は、そんなプレイヤー同士で集まってゆるくやっていこうという方針を掲げた。結果、希望者が殺到し一躍最大手ギルドになったという歴史がある。
あまりにも大勢の希望者が殺到したため、わりと早い段階で食べ物ネーム縛りを解除して広く門戸を開いている。
煩わしい縛りが無いというゆるさが、むしろ強固な結びつきとなった稀有な例だ。そんな彼らを崩すのは現実的ではないか。
「だとしたら、やっぱケーサツを説得するしかないかな。頭数はいるし、再生数をチラつかせれば動かせる……かも?」
「どうあっても烏合の衆にしかならないでしょー。……はぁ。気が進まないけど、花園の力を借りようかー」
「花園に? それはまた、意外だね」
唐突に出てきた名前に僕は虚を突かれた。
『花園』。食物連鎖と同じ最古参ギルドで、結束だけならどのギルドよりも固いだろう。
最大の特徴は男子禁制の鉄の掟だ。めんどくさい男女間トラブルを未然に防ぎ、悪質な出会い厨から身を護るために結成された背景を持つ。
『花園』は徹頭徹尾、女性プレイヤーによる、女性プレイヤーのためのギルドなのである。
そんな閉鎖的な彼女たちから助力を得ることが出来るのか。それともシリアに何か策でもあるのたろうか。
僕は視線で続きを促した。
「もろもろの条件には合致してるんだよねぇ。花園ギルドスレ見てみたけど、銃器解放で暴れてるプレイヤーに迷惑してるみたいだし」
結束力は言うに及ばず、サービス開始から今に至るまでほぼ身内でギルドを回しているので実力はある。おまけに現状に不満あり、と。
あれ? 意外と悪くない?
「好条件に見えるけど、気が進まない理由ってなんなの?」
「単純にこっちに付いてくれるか分からないっていうのと、あとはまぁ、嫌われてるんだよねぇ」
酷い理由を述べながらヘラっとした笑みを浮かべたシリア。
嫌われてる。嫌われてるって……。ろくでもないな。完全にプレイヤーキルに熱を上げた結果の自業自得じゃないか。僕は呆れた。
「プレイスタイルにケチをつけるつもりはないけどさ、もう少し人に好かれるように立ち回ってもいいんじゃない?」
僕はそれとなくシリアの人格矯正を試みた。誰もが匙を投げる狂人だとしても、真摯に向き合えばなにかしらの奇跡が起きるやもしれない。
シリアに必要なのは理解者だ。少しばかり人とズレてしまった感性を受け止め、長い目で見守り、正しい方向へと導いてあげられる存在が必要なのだ。
悪を更生させるのもまた正義の役目。屍を積み上げるシリアと違って僕は徳を積み上げるとしようか。
僕の説得に対し、シリアがストンと表情を消した。そのままコテンと首を傾げて言った。
「嫌われてるのはライちゃんだよ?」
面白くない冗談だ。僕は無視した。
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結局、どう転ぶかわからない話をあーだこうだと考えていても埒が明かないという結論に至った。外界との接触を最小限に抑えている彼女らの行動指針は読めない部分が多い。予測するにも限度がある。
そんなわけで、腹を括って『花園』のギルドハウスに突撃し、ぶっつけ本番の交渉に挑む運びとなった。思考停止とも言う。
『花園』は街の南端にそびえる城をギルドハウスに設定しており、平時は門を締め切って他プレイヤーとの関わりを断っている。この門は珍しいことに『解錠』スキルが通じないため、不法侵入が難しい作りになっている。
引きこもるには最適な物件のため、物資が必要な時や狩りに行くとき位しかメンバーは姿を現さない。
その内情は、ギルド結成のきっかけとなったプレイヤーをトップに据え、メンバーはただ一人のトップに尽くすという昆虫めいた生態をしているとの噂だ。クセが強すぎるでしょ。何を交渉の切り口にすべきか見通しが立たない。
僕たちの目の前には堅固な城門が行く手を阻んでいる。まるで先行きの不透明さが形を得たかのようだ。
街中をトップスピードで駆け抜けた僕たちは無事に『花園』のギルドハウス前まで辿り着いた。勿論僕は自力で走ったわけではない。担がれるのに慣れつつあるのが少し嫌になる。
「で、交渉は一任していいの?」
「んー。これで無理なら諦めるっていう策なら考えたよぉ」
個人的な見解だが、交渉というのは釣りに似ている。美味しそうな餌を目の前でチラつかせ、どれだけの大物を釣り上げることが出来るかは腕次第といった具合だ。
下手くそだと餌だけ持っていかれたり、釣り上げた魚が毒を持っていてとても食べられるようなものではなかったり、釣果無しの坊主で終わったりということも珍しくない。
正直僕は苦手な分野だ。持っている手札を叩きつけてYes or Noを迫る方が性に合っている。
その点、人の嫌がる顔を見るのが三度の飯より大好きなシリアは案外巧みな交渉術を持っているのかもしれない。
雀の涙ほどの期待を寄せていると、シリアが嘘くさい笑みを浮かべて言った。
「ちょっと大型爆弾出しておいて?」
「何でさ」
「ちょっとね、ちょっと」
具体性がまるでない頭の悪い会話だ。まるで要領を得ない。
何を意図してるのかは知らないが、逆らっても面倒くさいので僕はちょっと大型爆弾を取り出した。左手にずしりとした重みを感じる。
もしも爆発させようものならギルドハウスの半分ほどを消し飛ばしてしまうだろう。なんだってこんな危険な真似をさせるんだ。
「そしたら親指と中指をくっつけて、導火線の近くに添えておいて。丁度指を鳴らす直前みたいな形で」
「何でさ」
「ちょっとね」
今度はやけに具体的な指示が飛んできた。もう聞き返すのも面倒だから僕はちょっと言われたとおりにした。
素直に従ったところ、満足そうに一つ頷いたシリアがインベントリから小型爆弾を取り出し、指を鳴らして着火すると城門へと放り投げた。
小型爆弾は材料さえあれば誰にでも作成できる。火薬師に転職したら小型爆弾作成のスキルが手に入るからだ。
威力は特殊爆薬調合スキル持ちの僕と比べ物にならないほど低いが、それでも人一人なら爆殺して余りある威力を有している。
程なくして小型爆弾が爆発し、門の一部を爆散させた。
呼び鈴の代わりに爆弾を放り込まれた『花園』ギルドハウス前は、一瞬のうちに蜂の巣をつついたような騒ぎに包まれた。
犯人をブチ殺してやろうと殺気立って出てきたプレイヤー達はシリアを見て立ち竦み、次いで僕を見て顔を引きつらせた。
シリアがパンと手を打ち鳴らす。ざわめき出した空間が一瞬で静まり返り、全てのプレイヤーの視線がシリアに注がれる。
注目を一身に浴びた狂人は目を細め、口の端を歪め、見せつけるように唇を舐めると、当初の目的である交渉を開始した。
「ユリちゃんに伝えて。私達に協力して街をブッ壊すか、それとも私達に住み家をブッ壊されるか、どっちがいいか、ってねぇ」
やべぇなこいつ。倫理もへったくれもない。それは交渉じゃなくて脅迫っていうんだよ。策って、もしかしなくてもこれのことなのか……?
これは更生不可能だな。僕はシリアが現実で犯罪者だったりしないか心配になった。




