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ドラマチック&ヴァイオレンス

「ンンーッッ!!」


 パイルランチャーをぶっ放すこと都合六回。身体を芯から破壊するような衝撃が二回連続で叩きつけられる。撃発の反動と三回目の必中攻撃のコンボだ。どうやら岩玉の残り体力が四分の一を切ったらしい。


 体の自由がきかず、なすがまま地面をゴロゴロと転がっていたら先読みのようにポーションを投げつけられて僕の体力は回復した。


 廃人は戦いの中で成長する。僕が自分で回復するのを待つよりも、ポーションを投げつけたほうが早いと学んだのだろう。ノールックなのにピンポイントでポーションをぶち当てたフレイヤたんは、こちらに一瞥もくれずに岩玉の抑え込みに走った。さりげ無しの職人芸が光る。


 討伐作戦は順調に進んでいるように見える。見えるが、僕には一つ懸念点があった。


 パイルランチャーが装着されている右腕を軽く振る。無骨な金属装置が、まるで酷使される現状に抗議の声を挙げるかのようにキュリキュリと鳴った。新品の状態の時は鳴らなかった異音。


 これガタきてない? 耐えうるのか?


 不安を後押しする要因はもう一つある。明らかに撃発の反動が強くなっているのだ。衝撃を殺す機構がイカれてるんじゃないかと考えたが、素人考えなので正誤のほどは知れない。


 体力的にはあと二発で岩玉は倒せる。

 二発か……。創作物の世界だったら確実に一波乱ありそうな展開だ。そういうお約束とか今はいらないんだよなぁ。


 差し当たっては、この不安材料を三人組に知らせるかどうかが問題となる。通常の狩りだったら知らせたほうがいいんだろうけど、今回は事情が特殊だ。よく考えねばならない。


 もし現状を打ち明けた場合。万全を期すのが信条の三人組は撤退を視野に入れるかもしれない。撤退したらどうなるか。検証勢は絶対に諦めないだろう。

 更に費やされることになる物資と人手。パイルランチャーの改良だって必要になる。どれほどの時間が湯水のように消えていくのか想像もつかない。


 おまけにリベンジだってあるはずだ。こんな戦いをもう一度……正直ごめん被るところだ。廃人達だって暇じゃないだろう。次があるとしたらいつ都合がつくか……いや、彼らはいつだって大丈夫かな。なんかいつもログインしてる気がするし。


 それに、報酬が先送りにされるのも困る。僕は現在無一文なのだ。成果なしで帰って報酬がなかったら餓死してしまう。一千万ほしい。


 なんてことだ。もしも知らせたら悪いことずくめじゃないか。これは良くない案だな。僕は不安材料報告案を白紙に返した。


 なあに、倒せばいいんだよ、倒せば。それで全て丸く収まる。わざわざ知らせて三人組に不安の種を植え付けるようなことをしなくてもいいだろう。僕は知らぬが仏の真の意味を知った。


 決意を新たにパイルランチャーに杭を装填する。が、なかなかうまくハマらない。固定された感触がしないのだ。

 おかしいな、さっきまで杭を押し込んだらカチッとなったんだけどな。こう、カチッと。角度や押し込む強さを変えてみるがうんともすんとも言わない。


 もう固定されてるのかと試しにパイルランチャーを斜め下に傾けてみると、杭は重力に従って頭をひょっこりと出した。おぉこれは……。いけるか……? 僕はとりあえず出る杭を優しく押し込んでおいた。


「ライカン、早く来い。計算上あと二発で倒せる。もう必中攻撃も無いし討伐失敗の心配はない。安心して撃て」


 シンシアはなんでそういう余計なこと言うかな。完全に前振りのそれじゃんね。


 討伐失敗の可能性がムクムクと膨らんできたが、僕は心配をおくびにも出さずに駆け寄った。

 杭の頭を抑えながら走るという怪しさ満点の格好になってしまったが、幸い三人組は抵抗の激しさを増す岩玉を抑え込むのに必死でこちらに顔を向けていなかった。知らぬが仏ね。


 速やかに岩玉に杭を突き付け、引き金を引く。これで七度目。慣れるどころか激しさを増す衝撃で右腕がおしゃかになって身体が吹っ飛ぶ。VRでない生身だったら腕がもげていそうだ。


 地面をゴロゴロと転がりながら、僕は出るはずのない冷や汗が出ていないかどうか心配になった。


 三人組は聞こえただろうか。轟音に紛れて確かに響いた金属が軋む致命的な音。ミシリともパキリとも表現できない、内部に何か亀裂でも走ったかのような不吉な悲鳴。


 これは……そういうことか? 討伐前におしゃかになってしまったか? やはりさっきのは前触れだったのだろうか。いやいや、違う。発想を逆転させよう。ポーションが投げつけられて冷えた頭で僕は考える。


 これは、ドラマだ。


 相棒である武器がその命を賭して宿敵の息の根を止める。これはそういう演出なんだ。持ってくれ! あと一発! っていうアレだ。

 なんだ、成功フラグじゃないか。僕は相棒歴数時間のパイルランチャーを労うようにポンと叩いた。持ってくれよ、相棒。


 命の灯火が消えかかった岩玉の攻撃が俄に激しさを増す。三人組の表情が険しいものに変わっていく。


 このゲームのモンスターは軒並みパワー馬鹿なので、討伐手順は"やられる前にやる"が基本だ。そもそも守り、抑え込むという手段そのものが下策も下策。今回は討伐条件が特殊なので無理を通している形だ。


 いくら廃人といえど易々と熟せるわけではないようだ。待っててくれよ、みんな。必ず僕が奴を倒して見せる!

 僕は宿敵歴十分少々の岩玉をキッと睨み付けて決意を燃やした。


 ドラマの下準備はこんなものでいいだろう。討伐ルーティーンに従い杭の元へと駆けつけ、杭を射出口へと装填する。


 杭が半分程しか入らない。


 力一杯に押し込んでみるがびくともしない。まさか、内部の金属が歪んだのか……?

 おいおい相棒冗談きついよ。僕はダメ元で相棒を地面に叩きつけた。駄目みたいだ。


 いや、もっと押し込む力を強くしてみたらどうだろうか。僕は中途半端に入った杭を垂直に地面に突き立て、相棒を両手で握ってガンガンと押し付けた。メコッという音とともに杭は内部まで引っ込んだ。先ほどとは違い、重力に負けて落ちてくる様子もない。やればできるじゃないか相棒。


 次いで火薬を装填する。内部にヒビが入っていたけど些細な問題だろう。傷は勲章だってどっかの誰かが言ってたし。


 つつがなく準備を終えた僕は岩玉の様子を伺う。三人組のパス回しがうまいこと決まり、ようやく動きが鈍りつつある。決着は近い。


 僕はすっくと立ち上がり岩玉の元へと歩み寄った。現在進行系でヘイトを集めている僕に向かって飛んできた岩玉を、【踏み込み】からの【空間跳躍】を駆使したあっさんが真正面へと回り込み、タワーシールドでガツンと受け止めた。


 無機物にしか見えない岩玉はしかし殺意をひしひしと放っている。更に回転を強めた岩玉は盾を強引に駆け上がり、中空で爆薬を炸裂させて岩片を飛ばす。僕だけは殺すという確固たる意思の表明か。


 だが慌てない。慌てる必要性を感じない。盾はまだ二つある。


 僕の平静を裏付けるように、左右から盾が駆け付けた。盾の側面をピタリと合わせ、岩の一欠片、アリの一匹すら通さない構えだ。練度が違う。双璧を前に、降り注ぐ岩片はその役目を果たせぬまま朽ち行くのみ。


 僕にあって岩玉になかったもの。それは強力な仲間だ。

 僕はドラマチックな演出のために、仁王立ちしながらそれらしいことを心で宣言した。


「流れ弾に当たったらどうする! 屈んでろ!」


「はい」


 僕は大人しく膝を抱えた。


 ▷


「いよいよだ」


 万感の思いを込めてつぶやく。眼前には動きを封じられた岩玉。突き付けるは穿つ杭。指を掛けるは終幕への引き金。


 シンシアが頷く。フレイヤたんが珍しく口角を上げる。あっさんはいつもと変わらぬ表情を浮かべ、ただ一言。


「やれ」


 これで終わる。終わらせる。

 間違っても外すことのないように再度照準を整える。岩玉がふるりと震えた。それは恐怖か、それとも抗う意志か。


 関係ない。僕と相棒で捻じ伏せる。撃つ前の一呼吸。この短い間ですっかり癖になってしまったルーティーンの一つだ。

 肺の中を空にし、土臭い空気を吸い込んで一言。


「撃つよ」


 返事を待たずに引き金を引いた。相棒は四散した。


 中途半端な勢いで射出された杭は岩玉にトドメを刺すには至らなかった。


 ですよねっていう。


 ▷


「退け! 回復は自分でしろ! あとはなんとか、なんとかしろッ!」


 パイルランチャー爆発四散の結果、爆発の煽りと吹き飛んだ金属片を強く受けたフレイヤたんは死んだ。僕も瀕死だ。


 シンシアとあっさんはなんとか被弾を免れたようだが、盾役が二人になってしまった結果安定を欠いて押されている。


 これは詰んだのでは? 言われるがまま体力を回復させたが、打開策が見えない。

 フレイヤたんの合流を待つか? ……厳しいな。岩片飛ばしが防ぎきれていない。回復したそばから僕にダメージが蓄積されていく。合流まで十分はかかるだろう。近いうちポーションが切れそうだ。


 勢い付いた岩玉の猛攻が止まらない。死にかけとは思えないほどアグレッシブなドリフトをキメて迫ってくる。【踏み込み】で強化した脚力で咄嗟に横っ飛びをするも、ピタリと追従されて撥ねられる。盾のフォローが間に合っていない。当然と言えば当然か。


 地面を転がされながらも、インベントリからポーションを取り出して握り潰す。やられ役が板に染み付いてこんな特技ばかり上手くなってしまった。


 体制を整えて立ち上がると同時に衝撃が奔る。岩片飛ばしだ。避けること敵わず吹き飛ばされた僕はまたも転がされながらポーションを服用する。さっきからこれの繰り返しだ。反撃の目が見えない。


「ポーション残り三つ! もっと貰えない?」


「無理だ」


 こんな状況でも冷静な態度を崩さないあっさん。しかしポーションを受け渡している余裕は無いらしい。


 このままだと制限時間は残り一分も無いだろう。どうする。ダメ元で大型爆弾を使うか?

 ……いや、もしそれで討伐失敗したら目も当てられないことになる。討伐条件の達成も怪しくなる。

 加えて責任を僕に押し付けられるかもしれない。今回の失敗の原因は明らかに不良品を押し付けた検証勢のせいだ。あんなポンコツ渡すなよ。


 眼の前で攻撃を捌き続けるあっさん。ふと気付く。シンシアはどこだ? さっきから攻撃を捌いてるのはあっさんだけだ。


 衝突の反動に身体を硬直させたあっさんは岩玉の急激な軌道変更に対応できず、結果として僕が撥ねられた。残り二つ。


 撥ねられた先に置くようにして飛ばされた岩片が脳天に直撃した。あの岩玉……戦いの中で成長している。そういうのはプレイヤーサイドの特権じゃないのか。残り一つ。


 猛烈な勢いで突進してきた岩玉をあっさんが盾で反らすも、壁を駆け上がった岩玉が、自身を爆発させた衝撃で隕石のように降ってきた。たかが岩の集合体のくせして多才すぎるだろ! 残りゼロ。


「あっさん! 後が無い!」


 シンシア、シンシアは何をしているんだ。逃げたか? これだから廃人は信用ならないんだ。


 地面への衝突の勢いそのままに跳ね上がった岩玉が空を裂くようなスピンを加えながら岩片を飛ばす。死んだかな。


 リスポーンに備えていたところ、あっさんが眼前に躍り出た。今更何を。諦観しながら無駄なあがきを眺めていたら、盾を持つあっさんの腕がブレた。


 あれはあっさんの十八番のラグスイッチだ。だけど、なぜ今その技を……。


 まさか、まさか。ラグスイッチを防御に転用したとでもいうのか!? 


 バラ撒かれる岩片を、二重三重、それ以上にブレた盾の残像が弾き返す。なんかもう人の域を超えてるなこの廃人。グリッチと何ら変わらない挙動だ。そんなことしてるからツール仕様を疑われるんだよ。


「爆薬用意。次で決めろ」


 珍しく二言発したあっさんが地に降り立った岩玉を抑え込むべく駆けていった。

 次で決めろとは。疑問が残るが、言われるがまま爆薬を用意する。


 インベントリから取り出したのは、手のひらに乗る量の爆薬。特別なカスタマイズが施されたそれは、量に見合わぬ威力を発揮する。

 一体これでどうしろというのか。やっぱりあっさんの言葉を端折る癖は直してほしい。ただただ効率が悪い。


 このあとの指示を待っていたところ、横合いから声が掛けられた。


「ライカン! こっちだ! 早く来い!」


 今までサボっていたシンシアがどこからともなく駆け付けた。杭を腰だめに構え、先端を岩玉に向けている。


 そうか、そういうことだったのか。その光景を一目見て、僕はすべてを理解した。

 シンシア、僕は最後まで君を信じてたよ。流石は廃人だ。


 シンシアのもとに駆け寄る僕を岩玉が狙う。【踏み込み】の連続発動で追い付いたあっさんがラグスイッチを巧みに使用した進路妨害で行く手を阻む。


 長きに渡る戦いの中で混ざりあった意思が、想いが、渾然一体となって勝利への道を照らし出す。道は示された。僕はひたすらに駆けた。


 位置取るはシンシアの背後。迫る岩玉が目と鼻の先であっさんの持つ盾と競り合い火花を散らす。死力を振り絞って稼いだほんの数瞬。無駄にはしない。


「やれッ! ライカン! 私のことは気に」

「分かった!」


「ちょっ、お前即答ッ!? 少しはためらブッッ」


 僕は杭の尻に爆薬を押し当て、指を鳴らして点火した。


 爆発を背に受け射出された杭は勝利への道を駆け抜ける一筋の光芒。可視化された一縷の望み。


 杭は吸い込まれるように岩玉に突き刺さり、狙い過たずその身体を爆散させた。シンシアも爆散した。ついでにあっさんも爆散した。


 最下層には身を挺して討伐を為した二人を鎮める鎮魂歌のように、はたまた強敵の健闘を称える歓声のように、木霊の如く爆音が鳴り響いていた。



『銃器作成が解放されました』



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