パイルランチャー、起動!(二度目)
MMOのモンスター討伐を効率的に熟すにはどうすればいいか。
強力な装備を揃える。プレイヤースキルを鍛える。様々候補はあるだろうが、一番は討伐手順のパターン化だと考える。
相手の一挙手一投足に対して呼吸するように最適解を返すことで、手に汗握る戦闘は所持している情報の照合に成り下がり、突き詰めるところまで行くと流れ作業に落ち着く。
廃人の狩りとは、まさにそういうものだった。
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特にこれといったドラマもなく石人形をしばき倒して坑道を進むこと数十分。僕たちは再び最下層へと舞い戻ってきた。
三人組が石人形を討伐しているとき、暇だったので動画投稿サイトで他のパーティーはどんな感じで石人形を狩っているのかと調べたところ、平均でも三、四分かかっていた。
一方で廃人達は三人で一分と少し。彼らの異常さを改めて実感したよ。
そんな彼らは最下層の邪魔者掃除をしている。ドン引きするような手際の良さでターゲットの岩玉以外のモンスターを殲滅していく。
手持ち無沙汰になってしまったので適当に動画を漁っていたところ、鉱山エリア最下層攻略を目指すパーティーの過去動画がヒットしたので見てみたが、複数のモンスターがリンクして暴れまわる地獄のような光景が繰り広げられていた。
真っ当に攻略しようとすると難易度が高いエリアなんだろうけど、眼の前であまりにもあっさりと駆逐作業が行われているのを見ると感覚がおかしくなってくる。
当の三人組は、弱った岩玉を金属槌で思いっ切り弾き、ピンボールのように壁にぶち当てて爆散させた。
「低ポ2晶1」
「中ポ1稀石1」
「……」
リザルト照会を終えた三人組が【踏み込み】でギュンと寄ってきた。
スキルの連続発動は疲れる。全力疾走したあとのダルさを弱めた感覚がじわじわと身体を蝕んでいくのだ。慣れていないと十回を超えた辺りで辛くなり、そのまま続けようものなら重しを括り付けられたかのように動けなくなる。
この疲れは慣れによって軽減出来るのだが、最終的にどれほどまで軽減できるかは個人のセンスによって変化する。僕なんかは初心者と同じくらいしか動けないだろう。
恐ろしいことに、三人組の顔には疲労の色が見えない。当然のような顔をしてあっさんが言った。
「準備しろ」
スキルの連続発動には慣れないが、この態度には慣れたものだ。右手に装着したパイルランチャーを軽く挙げると、一つ頷き返して三人組が駆けていった。
そこから先は一回目の再現だ。大盾を構えた三人が順繰りに岩玉の攻撃を受け流し、勢いが衰えたところで三方向から抑え込む。ダメージを与えてはいけない状況下で相手を無効化するために編み出されたフォーメーションだ。
盾に押さえつけられて身動きが取れない岩玉に近付き、パイルランチャーを突き付ける。今度こそは前回のような失敗は無いはずだ。
「撃つよ」
各々が衝撃に備えた構えを取った。僕も脚を前後に開き、下げた左脚のつま先を立てる。左手をパイルランチャーに軽く添え、照準を再度合わせる。
この後に取るべき行動を頭の中で反芻しながら深呼吸一つ。
トリガーを引いた。身体を貫く轟音と衝撃。腕が四散したかと思った。
「ンンーッ!!」
撃発の衝撃で右腕が肩から持っていかれた。自由が効かなくなった右腕に引き摺られるように身体が後方へ吹っ飛ぶ。撹拌された世界の中、前後不覚に陥る感覚はモンスターに轢かれた時のようだ。
地に背をガリガリと削られることでようやく勢いが止んだ。状況確認しようと立ち上がろうとしたら、右腕がまるで動かなくなっていた。これは……部位ダメージが蓄積したときの行動阻害判定だ。
いやダメージ受けてるじゃん! じゃじゃ馬とかいうレベルじゃない。なんてものを作ってるんだ検証勢は。こんなの欠陥品だろ。
仰向けで倒れている僕の上を岩玉がすごい勢いで飛んでいった。上体を起こして確認したところ、フレイヤたんが大盾を坂にするように構えていた。さりげなくテクニカルなことするよね彼。
大玉がこちらへ転がってきたということは、先の一撃でヘイトが僕に移ってしまったのだろう。逆に考えれば、ヘイトを奪えるくらいの威力はあったということか。
壁に当たって跳ね返ってきた岩玉の突進をシンシアが大盾で受け止めた。本来はもっと勢いを削いでから受け止めるはずだったのだろう、脚が浮きかけるほどの衝撃を受け表情に苦味が走っている。振り返ることなく言った。
「ダメージは通っている筈だ! もう一度やるぞッ! 回復と次弾装填急げ!」
怒声に似た指示。
あまりの衝撃に頭から飛んでいた討伐手順を思い出し、インベントリを操作して中級ポーションを取り出して左手で握り潰す。
右手が動くようになったのを確認し、立ち上がって【踏み込み】を使用して杭が積んである場所へと急ぐ。後方で響く衝突音を意識して無視する。あの三人組なら大丈夫だろうという信頼があった。
広間の一角に置いてある杭を射出口にセットする。非常に手間がかかるが、インベントリに入れると誤作動するので致し方ない。次いで火薬を装填すればこちらの準備は完了だ。
あれほどの衝撃を受けたにもかかわらず、パイルランチャーは未だ健在でしっかりとした手応えを返す。耐久性は充分のようだ。これならあと何発撃っても平気だろう。
あと何発、何十発やらなきゃいけないのか。あの衝撃を何十回も、かぁ。
「ライカン! 何ぼさっとしてる! 抑え込んだから早く来い!」
シンシアの声が背に浴びせ掛けられる。どうでもいいけど、残る二人がほとんど喋らないってのはどうなんだろう。シンシアの負担凄そう。
よしなしごとを考えながら歩いて岩玉の元へと向かう。ダメージを加えたからか、先程よりも強く抵抗している。盾と岩が擦れてキリキリと不快な金属音を奏でていた。
杭の先端を突き付ける。明らかに無機物にしか見えないこのモンスターはどういう思考をしているのだろうか。目は、耳は、痛覚は、感情は。積んでいるAIが優秀なのだろう、これからまた攻撃されると理解したのか岩玉が激しく抵抗し始めた。
「ッ! 早くしろ! 長くはもたない!」
急かされて引き金に指をかける。あとは引くだけなのだが……どうにも気が進まない。痛覚は無いけど、あの右腕がおしゃかになって身体が引きずられる感覚はあまり気持ちのいいものではないのだ。
「……やっぱりやめない? なんか弱い者いじめしてるみたいでかわいそうになってきた」
僕は岩玉を理由に言い逃れを試みた。三人組がすごい勢いでグリンと首を回して僕を見た。みな一様に困惑と憤怒をブレンドしたような表情を浮かべている。
シンシアが目をひん剥いて言った。
「おま、お前ッ! ほんといい加減にしろよッ! どういう心境の変化なんだそれは!」
「いやー、無抵抗の相手を痛めつけるのは正義に反するっていうかね。それにこのパイルランチャー反動エグいし」
「絶対にそれが理由だろ! こっちだって必死こいてるんだからそのくらい気合で耐えろ!」
「でも僕は生産職だし」
戦闘職と生産職では同じレベルでも身体能力に多少差が出る。おまけに廃人達はレベルが高い。どちらが辛いかといったら僕の方だろう。
傍観していたあっさんが珍しくため息を一つ吐いて言った。
「一千万やる」
「撃つよ」
僕はパイルランチャーの引き金を引いた。
使用者の被害を一切考慮しない反動が奔り右腕がぶっ壊れる。吹っ飛んだ身体に追い打ちをかけるように衝撃が加えられた。体力がごっそりと削られ、動きが大きく鈍る。
これは……必中攻撃。恐るべきことに、パイルランチャーは一発で岩玉の体力を最低でも12.5パーセントは削ったことになる。そりゃこんな反動食らうわけだよ。人が扱える武器じゃないでしょこれ。
僕は吹き飛ばされて地面をゴロゴロと転がりながらパイルランチャー作者の脳みそを心配した。
「ぶへっ」
ようやく動きが止まったところでポーションが顔面に投げつけられた。額に当たった瓶が割れ、降り注いだ液体が顔面を濡らすと同時に体力を回復させていく。
ふと見上げると、シンシアが傍らに立って見下ろしていた。その目には光が宿っていない。
「回復したなら早くしろ」
「シンシア、もしかして怒ってる?」
「早くしろ」
「さっきのは冗談だよ、冗談。和ませようとしたんだって」
「……」
シンシアは何も言わずに岩玉の元へと駆けつけていった。ちょっとした冗談だったのにひどいなぁ。
身体が問題なく動くことを確認した僕は急ぎ杭の装填に向かった。一千万。なかなかの大金だ。しばらくは金に困ることはなくなるだろう。さっさと終わらせるとしようか。僕は決意を新たに口端を吊り上げた。




