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オーバーテクノロジーはバグに似て

 リスポーン地点である鉱山入り口では既に死に戻った三人組が待ち構えていた。あっさんとシンシアがたった今起きた現象についてあれやこれやと推論を交わし、その隣でフレイヤたんが適当に頷いている。

 僕は駆け足で近寄り話の輪に混ざった。グリンと首だけで僕に向き直ったあっさんが言う。


「物権だ」


 彼は長文を喋ると死ぬ呪いにでも罹っているのだろうか。伝わりにくい分むしろ効率悪いでしょ。

 抗議の声は胸に秘め、言葉の意味を考える。


 物権。広義では物の支配権的な意味だった筈だが、NGOでは所有物に対してかかる各種補正やプロテクトの意味合いで用いられる。話し合いの結果、どうやら今回の失敗はそれに由来するものだ、との結論が出たのだろう。

 奇しくも僕と同じ結論だ。


「まぁ、そうだろうね」


「そうだろうねって……ライカン、それはお前のモノじゃないんだぞ! あくまで借り受けているだけだ! 分かってるのか!?」


 声を荒げるシンシアの頬がヒクヒクと痙攣していた。信じられないと言わんばかりの態度だ。隣のフレイヤたんもコクコクと頷いている。よってたかってひどい扱いだ。僕は弁明した。


「ちょっと待ってよ。僕だってそのくらい分かってるって。多分なんかのバグかなんかじゃないかな」


「……例えば?」


「うーん……このパイルランチャーは装着した時点で本人の物と判断されるとか?」


「試し撃ちで失敗した事例はないそうだぞ。完全にお前の認識の問題だ」


 苦し紛れの言い分はシンシアにきっぱりと否定されてしまった。端から人を信じる気など無いのだろう。これだから廃人は。

 ほとほと呆れながらも、自分がこのパイルランチャーという武装をどう認識していたのかを客観的に振り返ってみる。


 脳波。このゲームでことあるごとに出張ってくるシステムだ。


 高い精度を誇るそのシステムは、自身の所有物と認識している対象について通常とは異なる物理判定を下す。

 要は自分の得物で自分、及び所有物を傷付ける事が無いようにするための措置だ。


 まこと馬鹿らしいことに、このゲームには剣を思いっ切り振ったらその切っ先が自分の身体に当たってダメージ判定を適用、即死亡という笑えない仕様の時代があった。さすがにゲームにならないとして運営が改善に動いた数少ない事例である。


 修正項目の中には、爆薬に点火した際の爆発が及ぼす判定も含まれていた。自分が所有する爆薬は、爆発した際に自身、及び自身の所有物に対してあらゆる影響を及ぼさない。だから僕の家は爆発で倒壊することはないし、家の外に逃げた不埒者を無傷のまま大型爆弾で制裁することが出来る。


 例外として、ショップから買える爆弾の容れものなどは独自の判定を適用しているらしく、使用後に消滅するため使い回しは出来ない。ただ、その件は今は関係ないことだろう。


 つまり、だ。

 僕が引き金を引いて点火した爆薬が引き起こした爆発は、僕の所有物とみなされたパイルランチャーの判定をすり抜けて周囲に広がった、というのが事の次第だろう。


 プレイヤーを守るための仕様が悪い方向に働いた形だ。脳波などというよくわからないものを参照したシステムはこういうところで融通がきかない。


 とはいえ。僕は右腕に装着してあるパイルランチャーを見下ろして思案した。

 この武器はヨミさんから一時的に譲り受けたものだ。僕はそういう認識をしている。ならばなぜ僕の所有物判定が下されたのか……。分からない。


「やっぱバグじゃない? 原因がさっぱりだ」


 正直に内心を告白したところ、シンシアとフレイヤたん両名に半目で睨まれてしまった。モンスターとの戦いに明け暮れるうちに人を信じる心を何処かへ置いてきてしまったのだろう。悲しきかな。


 作戦は暗礁に乗り上げたかと思われたが、シンシアと僕とのやり取りを死んだ魚のような目で見ていたあっさんが口を挟んだ。


「討伐後は?」


 討伐後。十中八九、岩玉を討伐した後のことを言っているのだろう。

 討伐後に、何がどうであるというのか。話の流れから察するに、パイルランチャーの扱いについてだろう。


 そんなものは決まってる。


「まあ、報酬として僕が貰うのは当然だよね。僕以外使えないわけだし」


 武器はなんのためにあるのか。もちろん使うためだ。

 現状このパイルランチャーは骨董品の域を出ていない。それを実用品足らしめるには高レベルの火薬師である僕の力が必須となる。必然、僕の手元にあるべきであると言えるだろう。僕は三人組へとそう説明した。


 ごく当たり前の考えだと思うのだが、どうやら三人組は納得していないらしい。

 あっさんは目を瞑って黙り込み、フレイヤたんはふるふると首を左右に振り、シンシアが顔を顰めて突っかかってくる。


「どういう理屈だ! なんでお前のものになる前提で話が進んでるんだ! お前ほんと、そういうところだぞ! 結局お前に問題があったんじゃないか……」


 はぁとため息をついて片手で頭を抱えるシンシア。

 うーん、彼女には労働と対価の概念はないのだろうか。僕はたらく。報酬で武器をもらう。何もおかしくないじゃんね。僕は首を傾げた。


 動画では見せることの無い責めるような視線を寄こすシンシア。僕はパーティーを組んでからちょいちょい思っていたことを尋ねてみることにした。


「シンシアさ、なんか普段の動画とキャラ違くない?」


「キャラ作りって結構疲れるんだよ。それがベストだから演じてるだけであって、好きでやってるわけじゃないからな。お前なら別にいいだろ。私にそんな態度求めるタマでもないし」


 うーん効率厨の鑑。

 今にも唾を吐き捨てそうな表情をしているシンシアの実態をお茶の間に届けるべく、僕はメニューを開いて録画ボタンを押した。


 録画、及び配信を開始すると、その瞬間にアバターの瞳が赤く光る。それを目敏く察知した廃人が華麗なる変わり身の速さを見せつける。

 腰に両手を当てて胸を張り、やれやれ仕方ないなとか言い出しそうな嘘くさい笑みを浮かべた。


「失敗は成功の母というからな。まだまだ時間はあることだし、トライアンドエラーで解決策を探っていこうじゃないか! 差し当たっては、パイルランチャーが正常に機能する手法を探すとしようか。弱い火薬で試し打ちすれば安全だろう。よし、やるぞみんな!」


 ひどい詐欺を見た。

 フレンドリーに肩を組んできたシンシアは、笑顔のままで僕の背中を思い切りつねってきている。余計なことをするなという忠告だろう。廃人が仮面の下で醸成してきた闇は昏く、深い。


 これ以上はやぶ蛇か。廃人連中を敵に回すことは得策ではないと悟った僕は大人しく録画を諦め、当面の問題解決に勤しむことにした。


 ▷


 問題はわりと簡単に解決した。どうやら武器そのものをインベントリに突っ込んだのが悪さをしたらしい。


 インベントリには自分のアイテム、もしくは一時的に借りているアイテムしか格納することができない。脳波による検閲が入り、盗難を防止するためだ。


 僕がパイルランチャーを格納した際にシステムがエラーでも起こしたのか、僕のものという判定を下してしまったのだろう。


 解決策として、パイルランチャー及び杭の物権をあっさんに譲渡した。あっさんが自分のインベントリに格納したものをすぐに取り出し、僕はそれをインベントリに格納せぬまま使用したところ、正常に機能することが分かった。


 非常に手間がかかることこの上ない。脳波って、なんなんだ。答えは開発のみぞ知る。


 引き金を引いた瞬間にポスンと音を立てて杭を射出……というより、やんわりと押し出したパイルランチャーを見て不安になる。


「これほんとに大丈夫かな?」


「最弱に威力設定した火薬を少量しか入れてないんだからそんなもんだろ。後は実践で試すぞ。あと数回は討伐失敗することを勘案すると爆薬は無駄にしたくない」


「そうだね」


 爆薬もタダではない。節約するに越したことはないだろう。

 正常に作動するのを見届けたあっさんがギュンと接近してきてパイルランチャーと杭をひったくって言う。


「行くぞ」


 何があろうと平常運転の男は返事も待たずに坑道へと消えていった。僕の中であっさんAI説が俄然信憑性を帯びてくる。


「さっきも思ったけど、よくあれに着いて行けるね」


「感情を殺すコツを掴めばそれなりに楽になるぞ。稀に突拍子もないことを言い出すから未だに反応に困るがな」


 廃人って怖い。改めてそう思いながら、僕は突拍子もないことを言い放ったシンシアの背におぶさった。

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