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パイルランチャー、起動!

 あれから石人形を破竹の勢いでポリゴンに変えること数度。僕たちのパーティーは遅滞無く目的地の最下層へと辿り着いた。


 今まで通ってきた坑道とは打って変わって開けた空間になっており、廃人三人組が元気に飛び跳ねて邪魔なモンスターを刈り取っている。

 今回は爆薬を使うため、周りにいるモンスターがびっくりして近寄ってきてなし崩し的に乱闘にならないようにするための措置だ。流石の廃人もモンスターを複数相手取るのは避けたいらしい。


 ビュンビュンと石人形の周囲を跳び回る廃人三人組。地形の柵から解放されたおかげか、先程よりも動きが割増で気持ち悪い。

 石人形がどれだけ手足を一生懸命振り回しても廃人を振り払うことは敵わず、やがてその身を削られ果てていく。狩りを終えた廃人達は、その成果を誇るでもなく次の獲物へと殺到していく。その様はもはや昆虫の狩りのそれだ。


 蝗害を彷彿とさせる光景に変化が生じた。今までの相手とは違う新たなモンスターを前にして、三人組が得物を金属槌から大型の盾に変更した。身体を覆い隠すほどのタワーシールドだ。一般的な盾よりも守りに重きを置いたそれは、モンスターの猛攻を凌ぐのに一役買うことだろう。


 相対するのは岩玉と呼ばれるモンスターだ。今回の狩りのターゲットである。

 石人形が人の形を模していたのに対し、こちらは岩が寄り集まって球形を成している。成人の身長程の大きさの玉は到底生き物には見えないが、確固たる意志を持ってプレイヤーを殺害しにくるれっきとしたモンスターである。


 石人形同様に硬質な体は生半な攻撃ではダメージを与えられない。体表の所々には当然の権利のように爆薬が付着しており、不用意な攻撃は死を招くことになる。

 主な攻撃方法は爆発を伴う体当たりや爆発による岩石飛ばしだ。石人形に比べて各種攻撃の予備動作が少ないため、より神経を尖らせて討伐にあたる必要がある。


 岩玉がギャリギャリと音を立てて転がりながら突進してきた。標的となったシンシアはタワーシールドの曲面に角度をつけ、真っ向から受け止めるのではなく受け流すかたちで対処した。衝突と同時に発生した爆発に押され、タワーシールドの底面部とシンシアの踏み締めた両脚が地を抉って跡を作った。


 初撃よりも威力を減じた岩玉の突進をフレイヤたんが迎え撃つ。盾の内側に肩を押し付け、ある程度の衝撃を覚悟した構え。インパクトの瞬間、膝を大きく曲げてショックを逃し、続く爆発の衝撃を大きく後方へ跳躍することで減じた。手に持つ大盾とふくよかボディの重量を微塵も感じさせない軽やかさはVR熟練者ならではの動きだ。年季が違う。


 大きく勢いを削がれた岩玉の前にあっさんが立ちはだかる。いくらか弱まったとはいえ、未だ脅威足る威力を有した突撃に真っ向から突っ込んだ。方向を逸らすのではなく、完全に勢いを殺す目的の構え。衝撃に圧され両の脚が地に線を引く。ガリガリと盾の表面を削る音が次第に小さくなり、勢いが目に見えて弱くなったところで残る二人が加勢した。


 三方向からの大盾による抑えつけ。高レベルに由来する並ならぬ膂力は馬鹿げた力技を許容する。岩玉は未練がましくカリカリと振動していたが、やがて諦めたようにその動きを止めた。攻撃ではなく制圧を主眼においた戦い方はまるで暴徒鎮圧のような光景であった。


「うーん、お見事」


 NGOの戦闘動画は数多く投稿されている。簡単に配信及び録画が出来ることに加え、圧倒的なリアリティと躍動感のある戦闘風景はそれなりの腕でもよく映えるのだ。


 がしかし、ここまで鮮やかな連携はそうそうお目にかかれるものではない。流れ作業のように熟してみせるから勘違いしそうになるが、今の一連の動きは一朝一夕でなせるものでは無い。

 高いレベルと強力な武具、豊富な知識、経験に裏打ちされた確かな実力が渾然一体となった結果生み出された賜物だ。再現は容易ではないだろう。


 見物料の代わりにパチパチと拍手をしていると、シンシアが眉を顰めて声を上げた。


「見てないで早く来い。試しに一回それを撃ってみろ」


 見とれていたら急かされてしまったので、僕はそそくさと三人組のもとに駆けつけた。


 今回の目的は岩玉を討伐するだけではない。試作撃発式徹甲杭射出機構、通称パイルランチャーを用いた攻撃()()で討伐しきらなければならない。


 僕は右腕に装着してある無骨な金属装置に視線を落とした。射出口には大きな金属杭が既に装填してある。杭の先端が威容を誇るかのように鈍く輝いていた。

 今回の問題となるのは、使用する火薬を変えたことでどのくらいの威力を発揮できるようになったかという点だ。火薬師の職業レベル7で入手出来るスキル、特殊爆薬調合。色々な素材と組み合わせることで効果の幅を広げられるスキルだ。


 通常の火薬では威力不足だったとのことなので、火力を盛りに盛ったカスタマイズを施した。どれほどの戦果を挙げてくれるのか期待に胸が高まる。


 シンシアとフレイヤたんの間に割って入り、杭の先端を岩玉に突き付ける。

 対面にいるあっさんが一番衝撃を受ける立ち位置だが、この男ならどんな状況に陥ろうとも機械の如く冷徹な判断で最適解を導き出し、その後のフォローに動いてくれるだろう。削ぎ落とした人間性を効率とEXPで埋めた廃人には無条件で信頼を寄せるに足る風格がある。


 当然ながら一発で倒せるなどという幻想を抱いているものは誰一人としていない。無論、僕もだ。特製の火薬の威力は普段の活躍を鑑みると今更疑いようもないのだが、それ以上に運営のデザインセンスに対する信頼が強い。この程度で倒せる調整にするはずがない。


 深呼吸を一つ。落ち着いたところでこの後の流れについて整理する。

 発射と同時に後退。高確率で岩玉が暴れるので距離をとらなければならない。ヘイトは僕に向くはずだ。その後は三人組が再び岩玉を抑え込むまで逃げ回り、安全が確保でき次第次弾装填、同様の流れを繰り返す。


 もし必中攻撃が放たれた場合、受け取ったポーションで回復する。戦闘職ではないとはいえ、僕は火薬師レベル12。必中攻撃を受け切る体力はある筈だ。

 あっさんが潤沢に保有していたポーションを事前に貰っているので、よほど戦闘が長引かない限り在庫切れの心配はないだろう。


 一通り作戦会議の内容を脳内でなぞり終え、引き金に四指を掛ける。相当の反動が予想されるのだろう、人差し指だけで引く銃とは構造が根本的に異なっている。

 もう一度だけ浅く呼吸をした後、脚を前後にひらいて腰を落とし、衝撃に備える。


「撃つよ」


 その一言で緊張が走ったのを感じる。岩玉を抑えつけている大盾の取手からグリップ音が響き、さらなる圧を加えられた岩玉の表面がギリッと鳴った。

 ゴクリと唾を飲み込んだのは誰だったのか。VRでありながら、あまりにも再現率が高い表現に思わず笑みが溢れる。百戦錬磨の廃人であっても初めての試みには緊張するのか、などと他人事のように考えていたらむしろ緊張がほぐれてしまった。


 万感の思いを込めて引き金を引く。反動は無かった。


 パイルランチャーをすり抜けた爆発が辺り一面を吹き飛ばす。石人形や岩玉が引き起こすそれとは比べ物にならない威力の爆発は、岩盤発破工事の只中にいるかのようだ。爆心地にほど近い場所にいた廃人三人組は吹き飛んで死んだ。


「……これはちょっと、予想外だったなぁ」


 ぼやいた直後に衝撃。拘束から解き放たれた岩玉さんによる突撃だ。数メートルふっ飛ばされた僕はろくな受け身を取れぬまま地面に落下し、岩玉さんの無慈悲な追撃で車に轢かれた蛙のように潰されて死んだ。

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