その6
コンスタンティンの特訓はリサからしてみれば、過去の訓練を含めて最も激しいものの一つだっただろう。また、コンスタンティンにとってみても、リサへの特訓は他の新人たちに与えるものと比較して、激しくならざるを得なかったが、双方ともにその特訓と楽しんでいる節もあった。
「もう少し、だっ――」
昇進試験の前日、臨時で通常訓練はお休みとなりコンスタンティンの特訓にまる一日充てることが出来、午後は槍術の特訓を行っていた。
ちなみに、特訓のリサのコンスタンティンに対する戦績は、昇進試験科目(剣術、槍術、馬術、弓術の実技4科目)の合計で4割5分、各科目では剣術が6割5分、槍術が3割5分、馬術が5割5分、弓術が2割5分という結果になった。恐らく騎士団以前の経歴がものをいうのだろう、とリサは少し唸っていた。
「しかし、やはりなかなか筋が良いな」
コンスタンティンは、特訓修了後、武器の手入れをしながらそう言った。
「そうでしょうか」
彼との特訓で、その淡々とした性格も治るのか、とコンスタンティンには思われたが、未だに全くの無表情で答えられ、すでに、彼は諦めの境地にいた。
「ああ。あとはどの審判と近衛騎士が当たるのか、というところが問題なのだが、伍長の俺はわかっていない」
昇進試験は、剣術、槍術、馬術、弓術の実技4科目と一般教養、実際の戦いを前提とした戦術、後は各隊長以上が面接官となりその人となりを判断する面接がある。実技4科目は、対戦相手の騎士と戦い、審判の騎士(普段は対立している近衛騎士が相手となり、審判は副隊長以上の王立騎士が務める)に認められなければならない。ただし、純粋に勝ち負けだけではない、と師匠であるコンスタンティン、情報通のルミナールやバジリオから聞いた。当たり前なのだが、騎士とて人間でありランダムでのくじ引きで決まると言っていたので、ある意味『運』も必要になってくる、とのことであった。
「まあ、リサ坊ほどの実力ならば必ず昇進できる気がする。だから、頑張れ、リサ坊」
コンスタンティンはリサの頭をくしゃっとした。
「はい」
リサはあくまでも女性だ。少しでも人工的に髪を乱されるのが、あまりいい気分ではなかったが、コンスタンティンは決して悪気はないんだ、と思って、そのまま頭を撫で続けられた。
そして、当日。
今回の昇進試験にはリサのほかに5人の若手騎士が受験していた。ただいずれも、入団後5年以上たった騎士であり、入団後数か月のリサのことをかなり侮っているのが、手に取るように分かった。
(まあ、入団試験の時よりは、ましなのだが)
入団試験の時のような、『女なんて』という視線ではなく、むしろ『新米の癖に』という見られ方だった。その見られ方は、当然居心地は悪かったものの、逆に良い刺激になるかもしれない、という考えができるほど余裕があった。
「では、今から今年度初めての昇進試験を始める」
今回も、昇進試験のすべてを統括するのは副騎士団長だった。次々と対戦相手の名前が読み上げられていき、最後にリサの名前が対戦相手の名前と共に読み上げられた。リサの相手はマックス・サロンという10歳くらい上の近衛騎士だった。彼の近衛騎士内での現在の仕事は、本人は少し言いにくそうだったが、は王太子筆頭護衛らしい。
「よろしくね、子猫ちゃん」
マックスという男はあまりに危険人物だから、近寄るな、という危険信号がなぜかリサの中で点滅した。しかし、黒い長髪の男はニコニコとリサに手を出していた。仕方なく手を握り返すと、なぜかその握った手をぶんぶんと降られた。
「早く始めてください」
名前は明かされていない王立騎士団の紋章が描かれている甲冑を纏った審判の騎士は、彼に向って早く始めるように促した。
「はいはい」
彼は仕方なさそうに返事をして、未だ驚いたままのリサと不服そうな審判騎士を連れて既定の闘技場へ向かい、それぞれ防具を纏い、試合を始める位置についた。二人が位置に着いたのを見計らい、審判騎士は試合開始の合図をした。
最初の試合は槍術。リサは、槍術は長物の中でも苦手で、小さいころから必死で苦手なそれをカバーしようと、頑張ってきたが、未だにそれを克服することはできていない。試合時間は最大10分間。その中で槍を何度も振り落とされ、はじき返されたが、マックスからの攻撃を必死によけ続け、槍を拾い上げ、何度も立ち上がった。試合が終わり、思いっ切り地面とお友達になったリサだった。
そして、少しの休憩をはさんで弓術と馬術。詰め所内の専用コースでの試合となった。ここでは、リサは馬術が得意であったため、少し弓術に不安があったが、何とかカバーするここができ、マックスとほとんど同じような結果を残すことが出来た。
最後は剣術。再び槍術の試合をしたところに戻り、試合を行った。
試合の序盤ではマックスが優勢だった。しかし、彼女は自分の弱点であるスタミナ切れを最近はほとんど克服していたので、どこか弱点を突いて試合をひっくり返そう、と考えていた。もちろん、いつも無表情な彼女であったので、マックスからしてみればただ、応戦しているにすぎない、と考えられていたのだが。
結局、終盤でリサは思いきりがら空きとなっていった脇腹下を攻め、詰みまでもっていった。
「降参」
仰向けに転がったマックスは、まるで黒い毛の大型犬が服従のポーズをとっているようだった。
審判はそんなマックスを見、少しため息をついたが、これで終わりだ、とリサに宣言し、リサの実力試験は終わった。
その後は全て何事も問題が起こることもなく、試験は終了し、1週間後の朝に合格発表があり、半月後に昇進式がある、という事が告げられ、その日は解散となった。
おそらく次回は漸くヒーローの初出です。





