その4
二人が掃除していた場所は、騎士団の詰め所の中でもかなり奥まった場所に位置している物置部屋として扱われている部屋で、現状としては何も置かれていないところだった。また、王立騎士団の建物自体の床は非常に音が立ちやすい材質が使われているために外部からの侵入者に気づきやすい場所でもある。
そのため、2人は外部からの盗み聞きはないであろうけども多少用心しておくことに越したことはない、と用心しながら話してはいたが、それは全くの杞憂に終わった。
部屋の中の掃除が終わることには起きてきた先輩騎士たちによって、掃除の終了が告げられる。ちなみに、騎士団には女性と申告はしてあるが、周りから見れば少年のようないでたちをしているのも相まって、ある程度背が高いリサは、青年と見間違えられることが多く、先輩たちから通常の青年騎士と同じ扱いをされることが多く、何故か『リサ坊』と呼ばれることが多かったが、彼女にとってみれば、警護官時代と同じような扱いだったので、大して気にならなかった。
その日も、岩のような体格をした騎士――コンスタンティン・ミリアス。36歳独身、同期の騎士によると、戦場では『最期の騎士』と呼ばれているらしい――に掃除の終わりを告げられ、朝の掃除は終了した。リサとルミナールは何食わぬ顔をして、掃除を終え、朝食に向かった。
「そういえば、まだお前らの実戦演習を見てねぇが、来月行われる昇進試験は受けてみるか」
コンスタンティンは食堂に行くまでに、そう言えば、と二人に尋ねた。一般枠で入った王立騎士は二年間、騎士団に所属しないと昇進試験を受けることはできないものの、推薦枠で入った騎士は、それだけの力を持っている、という事でその次に行われる昇進試験から受験することは可能だ。だが、今まで新人期間、と呼ばれる入団してからの半年間に昇進試験を通ったものは少なく、もっとも最近の合格者は、10年近く前にまで遡ってようやく一人、現騎士団長であるらしい、と別の先輩騎士から聞いたことがあった。
「そうですね。俺はやめておきます。まだ、昇進したいと思う時期ではないので」
ルミナールは迷いなく答えた。その答えにコンスタンティンは、
「そうか。また、次は半年後だ。それまで訓練しておけよ」
と言い、ルミナールははい、と返した。
「リサ坊はどうすんのか」
コンスタンティンは返事をしなかったリサに尋ねた。
「私は、受けます。いえ、受けさせていただけませんでしょうか」
とはっきり答えた。
「自信あんのか」
その答えにコンスタンティンはいきなり止まり、リサの方を振り返った。普通、リサと同じくらいの婦女子が見たら、逃げ出したくなる体躯だが、リサは全く動じなかった。その近くで、ルミナールが目を細めたのに、リサは気づいた。
「自信はありません。日々素晴らしい相手がいるので、この騎士団の強さは知っています。しかし、一度昇進にするにはどのような強さが必要なのか知っておきたいのです。だから受けさせていただけませんか」
リサは、自分の目標をしていることを淡々と述べた。それを聞いたコンスタンティンは、少しため息をついたものの、分かったと言って、彼女の受験を了承した。
「お前には特訓をつけてやる」
そのうえ、彼女の試験の手伝いをしてくれるという申し出に、今度はリサの方が驚き、礼を言った。
「よろしくお願いします」
『王立騎士団の階級・地位』
騎士団長、騎士副団長:言わずと知れたトップ2。推薦枠を持つ人の合議によって決まる。王立騎士団長は近衛騎士団長と大体仲が悪いのがお決まり。地位としては、騎士団長が文官で言う宰相と同等、副騎士団長は宰相補佐と同等。騎士団長は大隊の隊長の指名を行い、副隊長以下の任命を行うことが出来る。また、入団試験の統括を行う。
現騎士団長のヴィルヘルムは伯爵、副騎士団長のハロルドは平民出身。
隊長:9つある大隊の長。騎士団長からの指名制。副隊長、伍長を推薦することができる。
副隊長:隊長のお守りも兼ねる役職。2人まで任命できる。
伍長:通常入団後3~4年で就任。小隊の長。1大隊につき9小隊まで持つことが出来、それの長。最初の昇進試験で合格し定員以内であれば、即任命される地位。この『伍長』が誰かである、というだけで大隊の性質は変わってくるので、隊長・副隊長はやきもきしながら昇進試験を見守り、昇進試験後の合格者が確定した後はすぐにドラフト会議を行う。(ひと昔前は、決闘によって配属を決めていた。)





