あの時歴史は動いた――王立騎士団視点(中編)
そして、昇進試験当日―――
朝の各隊の訓練を終えた騎士たちは、闘技場に集まっていた。それぞれの隊のお偉方から『今回の昇進試験はかなり見ものである』という、話を聞き付け、会場となっている闘技場を集団で訪れており、エメもまたそのうちの一人だった。もっとも彼の場合は、上司である隊長は何もこの昇進試験について言っておらず、朝早くこの昇進試験のために出て行っていたため、彼からは何も聞いていない。加えて副隊長も空席だ。そのため、同じく位階である伍長に任命されている騎士しかおらず、他の隊の騎士に聞くまで行くかどうか迷っていた。
「今回の昇進試験の見どころというか、確実に合格、と言われているのは、マルセル・ブロワ――商家の出身、ただ一人だな」
エメは闘技場で、昇進試験の観覧に誘ってくれた第6大隊の伍長を務めている騎士サムソンと落ち合い、彼から昇進試験受験者の具体的な名前を聞いていた。確か第8大隊所属の騎士だったよな、とサムソンが続けていた。
「うちの隊長が言うには、結構な槍の使い手だ。うわさでしか聞いたことはないが、あの近衛騎士団長サマが嘆いていたらしい」
「どういうことだ」
同じ伍長といえども、情報を教えてくれる隊長は羨ましいなと思いつつ、彼の話を聞いた。
「どうやら家格のせいで近衛騎士団に引っ張っていくのを断念したらしい」
「なるほど」
確かに近衛騎士団に入るためには、伯爵以上の地位と見目が必要らしい、というのをエメも聞いたことがあるが、もともと伯爵とは言っても、子爵に近いくらいの没落伯爵である彼自身には縁のない世界だったので、すっかり忘れていた。
「しっかし、合格できるかどうかは不明だが、新人騎士も今回は出ているらしい」
サムソンの言葉に、エメはぎょっとした。
「いくらなんでも、それはありえないんじゃねぇのか」
かつて習った王立騎士団の歴史を思い出してみると、現王立騎士団長が新人騎士の時期に昇進しているが、その前は確かない。
「ありうるらしい」
サムソンはそう言った。エメが言った言葉の語尾に『らしい』という語句がついているのは、彼もまた、上官から聞いた話であり、彼自身もまた、嘘だろう、としか思えなかった事実だからだ。
「どんな奴なんだろうか」
エメはそう呟いたが、サムソンはその答えを持ち合わせていなかったため、黙った。
しばらくマルセルの昇進試験の模擬戦を見ていた二人だったが、ふと違うフィールドを見ていると、異彩を放つ戦いが目に飛び込んできた。
「何なんだ、あれは」
どちらが呟いたのかわからなかったが、二人以外にも同じ方向を見ている騎士たちは、同じことを思ったのか、かなり呆然としている。
「あれは普通の騎士でもあそこまで捌けないぞ」
サムソンがそういうと、他の騎士が同意した。昇進試験を受けている騎士は腕に赤いハンカチーフを巻いている。そのハンカチーフを巻いている騎士は、対戦している近衛騎士にひるむことなく剣をふるっている。その姿はまるで軍神のようだった。結果は昇進試験の受験者の辛勝だった。
その騎士の勝利後、観覧席は無言に包まれた。
「なんか俺、自信無くしたかも」
誘った張本人であるサムソンは茫然自失としていた。しかし、他の騎士もまた、同様の状態であり、ほぼ影響を受けていなかったのは、エメとコンスタンティンという第3大隊長と同期らしいおっさん伍長だけだった。





