あの時歴史は動いた――王立騎士団視点(前編)
この話以降は、数回王立騎士団視点→近衛騎士団視点の繰り返しになります。
第五月
まだ、リサが昇進試験を受ける少し前―――
第3大隊の面々はいつも通りの日課である王都の一地区の見回りと、各自の鍛錬を行っていた。しかし、彼らはどの日課においてもなぜか浮足立っていた。
それは、彼らの大隊の長であるジョセフが原因だった。彼は通常、毎朝訓練場に入ると、彼の一斉点呼を皮切りに、彼の訓練を兼ねた総当たり訓練があるのだが、彼が隊長に就任してから初めてその訓練が休みになったのだ。しかも、それを知らされたのは、その日の点呼の時だった。隊に所属する騎士たちは、点呼に現れたのが彼らの上司の上司に当たる副騎士団長のハロルドであり、彼から突然の不在を告げられた。
「え、どういう事っすか」
ハロルドから告げられた内容に最も早く反応したのは、現在空席となっている第3大隊副隊長に最も近い男である第1伍長、エメ・ヴィバルデだった。彼は元からの性格なのか、おちゃらけた態度をとることが多く、王立騎士団や第3大隊に入った当初は、先輩たちや同僚騎士から総スカンを食らったが、新人騎士の研修時の一環である模擬戦で、現在の上司であり、当時隊長に就任したばかりであるジョセフと互角に戦えたことから、彼らはエメのことを一目置いた。しかし、エメは見た目(銀髪に近い金髪と青い目の持ち主)や普段の言動は不真面目な騎士そのものであるため、実力を知らないもので、彼になめた態度をとったものは全て痛い目に遭わされてきた。
しかし、彼の実力を知っているハロルドはその砕けた言動には全く動じずに返した。
「ですから、昇進試験の受験者の一人一人の実力を確かめに行っているのです」
ハロルドはあくまでも機械的に答えていた。しかし、ハロルドの口調はともかく(彼も彼で元からこのような口調である)、告げられた内容にそれぞれは驚いていた。
「じゃあ、俺らも今度こそは新人いびりができるな」
「そうだな。前回はエメだったよな」
「うっわぁ。やな思い出だぜ」
エメは同僚の言葉に思いっ切り顔をしかめた。彼は5年前に配属され、この大隊の中では最も新しい騎士である。
前までは昇進試験の後、隊長による決闘によって配属先を決めていたが、ある年の昇進試験の決闘において、当時最強だった隊長が他の隊長を破る際に大けがさせたことにより廃止となり、今のように話し合いによって配属先を決める制度が出来上がった。もちろん、実力の騎士団である王立騎士団の昇進試験に通るものは、尋常ないくらい強い。しかし、いつの世でも年齢が上の者がやりたがるのは、若き者への指導と、彼らへの試練だ。もちろん第3大隊も例にもれずその伝統が残っているが、ジョセフはなかなか昇進した騎士をとることはなかった。もちろん、彼の配下であるボリス達古参の伍長はジョセフのことを分かっていたため、それについて文句を言う事はなかったが、そのため反動で、昇進して第3大隊に配属された騎士たちへの可愛がり様は半端がなかった。そして、ジョセフが昇進試験を受験する騎士の見回り行く、という事はおそらく今度の昇進試験で彼は新しく取りたい人物がいるのかもしれない、とほとんどのメンバーはそう思った。
その中でも最も新しく配属されたエメは、無理矢理毒キノコしか生えていない地域へキノコ狩りに連れていかれた挙句、他の騎士に置いてきぼりにされ、強制的に5日間のサバイバル生活を送らされるというイベントが発生していた。しかし、エメはそののちかなり実力を見せていた。
「いやぁ。あれはなかなか面白かったよ」
エメよりも一回り上であるドニスはエメの肩をたたきながらそう笑った。
「じゃあ、新しく入ってくる奴の行事はそれで決まりだな」
「お前がそういうなら俺らは止めないさ」
エメの提案にボリスが丸投げし、他の騎士たちもそれで、いいじゃないのかと言ったところで、ハロルドが咳払いした。
隊員たちは副騎士団長の目の前でいろいろなことを思わず言ってしまったことに気づいたが、後の祭りだった。しかし、ハロルドは少しため息をついただけで、
「まあ、私も大隊所属になったときは、似たようなことされました。なので、止めはしませんが、ほどほどになさい」
と言った。
そして、彼らは空いている時間さえあれば、その内容について様々検討しあい、昇進試験が行われる頃にはかなり詰めあがっていた。
「よっしゃぁ。これでどうだ」
エメは詳細が書き込まれた紙を見て、にやけた。
(これなら、十分面白い)
しかし、彼のそのたくらみは思わぬ方向に向かって転がっていくことになるとは、この時には思わなかった。





