その11
リサは目の前にいるどちらの騎士が出てくるのか、気が気でなかった。
「では、互いに前へ」
彼女はその言葉に一度目を閉じ深呼吸してから、しっかりと前を見て馬を進めた。前にいる二人は驚きの表情をしていた。そして、それに気づいたカインはリサよりも後方だったので、表情は見えなかったものの、おそらくはニヤリとしていることだろう、と思った。
そして、一言も喋らない騎士の登場に驚いていた相手方だったが、慌てて彼らも顔を見合わせ、片方が出た。前に進んだ方を見た瞬間、リサは思わず左手を右手で押さえてしまった。
(嘘でしょ)
この戦いに参加してから、いつかは彼と戦うことになるのではないだろうか、と思っていた。だが、前の全軍衝突の時は回避していたので、今回も回避できるのではないかと甘く考えていた。
ここまで来てしまった上、引き返すことは出来ない。リサは覚悟をした。皮肉なことに、ヴィルヘルム・リュヴィークとは模擬戦含めて初めて戦う。
「構え」
審判役の言葉に、リサは自分がこの場にはふさわしくない考えをしていたことに気づき、剣を鞘から抜き、上段で構えた。対するヴィルヘルムは、彼が得意だと言っていた中段での構えだった。
「はじめ」
審判役の言葉とともに、互いに切りかかる。相手のことを知っているリサでさえ、当然、手加減はしていない。そして、ヴィルヘルムもしかりだ。
(強い)
リサは内心舌を巻いていた。『実力の王立騎士団』の団長を務めており、当時最年少、入団後最短で昇進試験に受かっているだけのことはある、とつい思ってしまった。このような形でもなければ、敵として向き合いたくない人物だ。時には真っ向勝負で、時にはフェイントをかけあいながら、剣を打ち合っていく。気づいた時には、周りも息をのんで見守っている。
そして、戦い始めてから十分弱。一回の間合いでは、勝負はつかなく、仕切り直しを数回行ったが、それでも、勝負はつかなかった。数回仕切り直しを行ったところで、思いもよらない人物により、その試合は中断させられた。
「ここから先は俺と勝負してもらう」
その人物はリサの方に剣先を向けていた。リサもヴィルヘルムも驚いて、一瞬動きを止めたものの、双方ともに、
「何を考えている」
と、その人物に言ってしまった。その人物は初めてリサの声を聴いて、やっぱりか、と呟いた。リサはその時初めて声を出してしまったことに気づき、しまった、と後悔したが、遅かった。
「やっぱり君は、声を出さないように気を付けていたんだね」
彼は最初に会った時から、変わらない口調でそう言った。ただ、そこにはかなりがっかりした感情が入っていた。
「どういうことだ、マックス」
試合を中断させられたヴィルヘルムは、リサの声が聞こえていなかったみたいで理解できていなかった。
「最初、久しぶりに女性が入ったからって言ってあいつから聞いていたから、気になっていた。そして、昇進試験の時に、ヴィルから誘いがあったからどんな子だろうって思って、身分かくしてのぞいてみちゃったんだ」
マックスは歌うように言った。何をお前は言っている、というヴィルヘルムの声が聞こえていたが、マックスはそれを無視して、続けた。
「ただ、ヴィルは昔から有名だったから、ヴィルに惚れて騎士の真似事やっているんだったら、少し痛い目に遭ってもらわないと、と思っていたんだけれど、君は強かった」
マックスはリサの方に近づいた。その様子に、リサの背後で殺気を感じた。恐らくはカインだろうが、リサはそれに動じることなく、前を見た。
「その強さはどこから来るのだろう、ってずっと考えていたよ。でも、ベルニア公の推薦によって入団した、という事を聞いたから、グース州の出身だという事もわかっていたし、グース州の噂も聞いていたから、今回の君たちの蜂起には驚かなかったんだ。でも、流石に、君がリーダーだとは思わなかったよ」
と言って、リサの正面に馬を寄せた。そして、リサの兜を丁寧にとった。
「やっぱり、だね。子猫ちゃん」
彼は久しぶりに開かれた視界は、何とも残酷な状況だった。
この話のヴィルヘルム側のお話(この話の補足程度のお話です)を入れ、エピローグまで突っ走ります。





