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黒き甲冑をまとった花嫁  作者: 鶯埜 餡
心の在処

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その4

 王立騎士団が到着してから数日の間は何もなかった。しかし、三日目―――

「敵襲―――」

 見張り番の声に、王立騎士団の面々はこの時が来たか、と剣を鞘から引き抜いた。南部軍は東の方に陣取っており、西の方に陣取っている北部軍の中でも王立騎士団――その中でも精鋭と呼ばれる第1から第3大隊までの3大隊は、騎士団長と共に王都に近い南方を守っていた。そのため、南部軍、特に近衛騎士軍が嫌がりそうな『逃げ帰る』という選択肢をとらない限り、戦う事がないと北部州の州軍の長たちは踏んでいた。しかし、どうやらそれは甘かったらしく、彼らは真っ先にこちらを攻めてきた。

「かかれ」

 ヴィルヘルムの冷徹な一声により、戦いの火ぶた切って落とされた。


 戦いは互角だった。中貴族以上の子弟たちの大半が属する近衛騎士団は、王侯貴族の要人を守るための騎士団だけあってかなり強い。一回だけヴィルヘルムも先に入団を決めていたマックスに連れられて近衛騎士団を見たことがあり、その強さには惚れたものの、考え方を聞いた時に、反吐が出そうになり、入団を断った。それ以来、貴族騎士とはあまり遣り合ったことがないものの、大概は強いだろうとは思っていた。しかし、彼らに対して平民出身の騎士たちもまともに戦っている。

(そうしないとマックスには顔が合わせられない)

 今では、普段、会うたびに罵り合ったり、互いの悪口を吹き込みあったりしていたが、ヴィルヘルムが故郷にいたころは仲が良かった。2人の置かれた環境が違ったのだ、ただそれだけで、周りの捉え方は違ってくるが、だが、彼らはわかっていた。ヴィルヘルムが後続たちの育成ができる立場になり、彼らの育成が可能になること、そして、マックスは実力で(・・・)騎士団を動かせる立場になり、彼の理想とする騎士団をつくる、という事を。そして、ヴィルヘルムは、マックスが近衛騎士団の大将ならば、王立騎士団(自分達)を決着のつくはずのない戦にわざと挑ませようとしていたこともわかっていたし、自分も今そうしている。自分たちの参戦がなくても、恐らくこの戦は泥沼化しただろう。

 案の定、近衛騎士団との戦いは決着が見えなかった。派手な赤と金でメッキされた近衛騎士団団長特有の甲冑はマックスによく似合う、と考えながらも体は勝手に狩り人のように動いた。彼は反対に深みのある王立騎士団団長しか着ることが出来ない青銀の甲冑を纏い、赤と金の甲冑を纏った人物との真剣勝負に挑んだ。


 何度打ち合ったことだろうか。周りの人数が少なっていく中で、自分たちはかなり打ち合っていた。

「退却」

 どこか遠くで、どちらかの兵士が叫んでいるのがヴィルヘルムには聞こえた。どちらの声なのかはわからないが、誰かが叫んでいた。

 最後に何回か打ち合って、マックスは何も言わずに彼らの本陣の方に向かって戻っていった。その様子をヴィルヘルムは呆気に取られながら見ていたが、やがて王立騎士団の誰かがヴィルヘルムを呼びに来て、彼もまた本陣に戻った。

 本陣の中は明るい雰囲気でもなかったが、大敗した、という悲壮感もなく、何とも言えない気分だった。

「首尾は」

 戦の最中は本陣にいたハロルドに、以前より頼んでおいたあることについて尋ねた。彼はゆっくりと首を横に振った。

「あまりよくありません。王都にいる間も情報を集めたり、接触を図ったりしたことがあるのですが、彼らは尻尾を出さないもので」

 ヴィルヘルムはその調査資料を読んだ。ヴィルヘルムがハロルドに頼んだのは、近年急成長を遂げた民主国・シシカーヌ。その背後には何か存在しているはわかっていたが、王国由来の物であるのか、別の物であるのかはわかっていない。その背後関係を調べるように命じてあったのだ。

「しかし、調べていたらこのように面白いものも出てきまして」

「面白いもの?」

 『面白いもの』と言ったハロルドが持っていて書類を受け取り、よく読んでみると、そこにはここ最近の各州における軍事演習の回数と場所、総勢の一覧が乗っていた。

「同じ日に正規軍5万の軍事演習と千人程度のゲリラ演習を別の地帯で行っている」

「はい。そこです。しかも、ここ数か月はその頻度が上がっています」

 ハロルドとヴィルヘルムは同じ場所を見ていた。行われている地域は全てグース州。もっともいうならば、11年前から10年前までも頻繁に行われており、10年前からもことがあるたびに何かしらの軍事演習を行っている。何故同じ日に別の場所で、同じ州軍の軍事演習を行分ければならないのか、その意味が分からなった。

「まるで、王家に謀反を起こしている、と宣言せんばかりの所業だな」

「全くです」

 2人ともその事実に唖然としていた。


 その夜、非常食を交代で食べた後は、上官士官問わず交代で寝ずの番をとった。連絡は取れていないが、他の軍も同じような結果に終わっているのではないのだろうか、とちょうどヴィルヘルムが考えた時、天幕に北部州軍の目印を付けた歩兵が入ってきた。

「夜分遅くに申し上げます。リュヴィーク団長」

「私だ。なんだ」

 兵士はヴィルヘルムの目の前に膝をつき、首を垂れた。

「申し上げます。ベルニア公爵子息パトリック様の陣が西方に後退した報告をさせていただきます」

 その兵士の言葉に、ヴィルヘルムやハロルド、三人の大隊長は顔を見合わせた。隊長たちは頷きあった後、

「一度、裏手の山に偵察を飛ばしましょうか」

 と代表して第1大隊の隊長がそう言った。しかし、ヴィルヘルムはそれを断り、自ら見に行く、と言い出した。

「しかし、団長」

 ジョセフは彼を止めた。しかし、ヴィルヘルムの決意は固く、あっという間に言ってしまった。


 結局、少し経った頃にヴィルヘルムは何事もなく戻ってきた。

「確かにベルニア公の息子は軍を移動させた。それが何を意味するのかは俺にも意味は分からない。だが、しばらくは戦いで誰しもが精神的に消耗する。だが、申し訳ないが近衛騎士団に勝たねばならない」

 ヴィルヘルムは戻ってくるなりそう言い、頭を下げた。大隊長たちはそれに一瞬驚いたものの、すぐに頭を上げるように言い、

「もちろんです。同志たちのことは我々も許せませんので、必ずこの戦いに勝ちましょう」

 と言った。




 しかし、事態は思うようにはいかず、翌日翌々日共に戦の状況は動かなかった。

 その間に、オーランディア州軍とミリランディア州軍がベルニア公の軍を追うような形で西進したと聞いた。


 ヴィルヘルムとマックス、この2人が刃を交わらせてから四日後の晩に、事態は悪化(・・)した。


「焼けただと――――」

 彼らの目の前に広がるのは、燃え盛る赤い炎。

 燃えているのは、『アッヘンベゼリア』の木々だった。夜中にはまぶしいくらいの明るさになっていた。

「全くです。ここまで来てしまった以上どうしようもありませんが、人的な被害はどれくらい出たのでしょうか」

 呆然とするヴィルヘルムの隣にはハロルドがいたものの、彼もまた、顔が真っ青になっている。




 そして、翌朝、朝靄の晴れる瞬間という効果を使って、それらは現れた。

「黒き甲冑―――?」

 誰かが呟いたが、その場にいるすべての軍の兵士・騎士誰もが思ったことだろう。


 彼ら(・・)は、見間違えることもなき黒い甲冑を纏い、そして統一された鹿毛の馬にまたがって乗っている。その数、ざっと千騎程度(・・・・)。中央には二人の兵士がたたずんでいる。

「何者だ」

 どこからかの陣から誰何の声が聞こえてきた。そして、中央にいた人物は、誰にでも聞こえる程度の声ではっきりと言った。


「我らはグース北部、シシカーヌとの国境を守る民間出身の警備隊(・・・)『黒羽』である」


 警備隊か、と心の中でヴィルヘルムは思った。どの州にも持っている組織であり、ある意味一種の私兵だ。だが、その存在は正規の州軍からは質が下がり、下手をすると、本来ならば破落戸だったのを、それでは内聞外聞共に困るから、ということで、名目上は、という場合が多いため、他の領地で隠匿されていない。しかし、グース州だけは違った。

 そして、彼らの中でも最高の地位にいる人物なのだろう、長身の人間がこちらにやってきた。

「一番貴様が渡しやすいから、これを渡しておく。明後日だ。それまでに決めろ」

 その兵士はヴィルヘルムに手紙を渡し、踵を返した。そして、一度もう一人の兵士と合流した後、そのまま、軍の方へ引いて行った。

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