その11
マックスは自分の恋人の隣に立っている女性を見て、最初は誰だかわからなかった。金髪で黒い瞳を持っている女性を彼女の側で見かけたことがない。もっとも、ロザリンドの場合は夜会の時に自分の隣にいるだけで、女性たちの嫉妬をかなりの数かってしまっており、『親しき友人』と呼べる存在がいない(その点については、マックス自身かなり反省している)。そのため、親しげに話す人物を見て、かなり意外に思っていた。
しかし、ある令嬢(おそらくデートに誘ったことのある女性たちの内の数人だろう)がロザリンドに対して、今日も明らかな嫌味を言ってきている。珍しく夜会のエスコートを頼んでこないな、と思っていたので、隣にいる女性は、おそらく親戚か何かなのだろう、とみていたが、その女性はロザリンドよりも背が高く、そして何より女性に詰め寄り何かをささやく姿は青年みたいだった。
そのささやく彼女を見て、まさかと思った。マックスは以前、近衛騎士団と王立騎士団の交流の一環として行われる王立騎士団の昇進試験の相手役として呼ばれて行き、ある少女と戦った。彼女はやはり男性に比べたらかなり華奢な体格であったものの、力は強かった。そこそこの名門である伯爵家出身であるマックスは、本来ならば『家柄・見た目重視の近衛騎士団』の中でトップに立てる存在ではなかった。しかし、華麗な剣捌きとその見た目から先代の近衛騎士団長の覚えがめでたく、あっという間にトップの座に就いた。その彼の剣を、昇進試験の受験者であった彼女はかなり捌ききっていた。条件によっては負けたかもしれない相手だと感じていた。案の定、あの時と同じように『子猫ちゃん』と声をかけると、彼女はびくりと肩を震わせていた。
「あなた、は」
リサは振り向いて目に入った区のある黒髪と、遊んでいそうな雰囲気の姿。いつぞやの昇進試験の時の相手役だったのでは、と記憶の中から掘り起こしていた。そんな彼女の隣にいたロザリンドは、
「あら、ようやく来てくださったのね、マックス様」
と彼の元へ行った。どうやらリサの考えていた人物と一致した。それにしても、騎士団長であるヴィルヘルムの友人であるロザリンドは、近衛騎士団の騎士であるマックス・サロンと恋人みたいな関係であるのをヴィルヘルムは知っているのだろうか、と疑問に思った。
「ロザ、ここにいたんだね」
「ええ。お待ちしておりましたわ」
ロザリンドは彼に抱き着き、2人は人目もはばからず熱い口づけを交わしていた。
「しかし、君の親戚だったとはな」
口づけの後、マックスはリサの方を見ながらロザリンドに言った。ロザリンドはいいえ、と言った。
「彼女はヴィーから預かったの」
「ヴィー?」
「ええ。婚約者としてお披露目したいんですって」
そのロザリンドの言葉を聞いたマックスはうげ、と言った。なんでだろうか。しかし、すぐに気を立て直して、リサに向かって、
「僕はマックス・サロン。ロザの恋人であり、近衛騎士団長も務めている。よろしくね」
と軽く自己紹介した。それを聞いたリサが今度は心の中でだけであるが、うげ、と思ってしまった。目上相手にやってしまったという事か、と後悔した。が、マックスの方はまったく気にしていないみたいで、リサの近くまで来て、
「また、『本気』の手合わせよろしくね」
と耳元で言い、じゃあ僕はしばらくお偉いさんに挨拶してくるから、と言って2人のもとを去って行った。





