その9
そんな悩みはさておき、伍長以上の騎士は毎月一回王都全体の見回りに駆り出される。見回りは通常二人一組で行い、通常はその大隊内で組むのだが―――
「騎士団長、この人事の意図は―――?」
昇進式の日の夜に行われた役職会議の中で配られた新しい組み合わせに、リサ含めて誰しもが疑問に思った。普段なら、質問などは許されないこの決定に、代表で質問したのは、第6大隊の隊長だ。噂を聞くところによると、どうやらそもそも彼はリサの副隊長就任にも難色を示していたらしい。
「俺はリサ・アシュレイ第3大隊副隊長の実力を見ていない。だから、副隊長としての実力が備わっているかを確認する、という意図も含めてこの組み合わせにした。何か異議はあるか」
ヴィルヘルムの返事に質問した隊長は押し黙った。それ以上ヴィルヘルムに誰も突っ込むという度胸をリサ含め、この会議に出席した全員は持っておらず、その見回りに関する人事は決定された。ちなみに、リサとヴィルヘルムの見回りは、この次の一斉休暇の日であった。
(なんか違うような気がするのは、気のせい?)
リサは、ヴィルヘルムの先ほどの答えに含まれていた感情を知るのが怖くて、騎士団長の方を向けなかった。
翌日から、リサは第3大隊の詰め所での勤務になった。
各大隊の詰め所は一見、普通の民家にしか見えないような作りになっている。あまりにも『王立騎士団』という看板を大きく掲げすぎていると、ただでさえ不安定なこの国において、有事の際には真っ先に狙われやすい。さらに、近隣の住民はある程度王立騎士団の詰め所のことを知っており、彼らから狙われる可能性もなきにしもあらずなのだが、一番厄介なのは王都内の刺客(特に近衛騎士団派の連中)に狙われることだ。今のところは彼らとやりあうつもりはないため、あえて刺激しないようなたたずまいなっている、らしい。
大隊内での仕事は様々だった。階級的には副隊長だが、新米の騎士だ。リサは自ら進んで掃除などの雑用を引き受けた。
「流石嬢ちゃん」
「全くだ。男所帯じゃ全然気づかないこともやってくれる」
彼女の仕事ぶりは好評で、他の隊員からはかなり重宝された。それもそのはず、警護官時代は全て自分でこなしており、同僚の連中は金もない、生活の力も低い男が多かったので、そう言った連中のヘルプもしていたので、あまり苦にならなかったのだ。なので、実力だけで王都に出てきた男たちにとっても、彼女は救世主だったのだ。
そして、当然日々の訓練にも精を出しており、彼女の実力を改めて見たジョゼフは、
「うん、君を引き取ってよかったよ。コンスタンティンにはあとで礼を言っておかねば、な」
と言った。コンスタンティンは、彼女が『女』であるという事を気にして、ある意味後見人、保護者として見られるように、彼女の上司になることをジョゼフに頼んだらしい。
「全くです。私からも今度お会いした時にお礼は言います」
「ああ、そうだな」
そう言った彼女の頭を撫でたジョゼフだった。まだ両親は生きてはいるが、王都に出てきてからの親みたいに彼のことは思えていたリサだった。
そんな会話をした日の晩、リサは手紙を両親に向けて書いていた。
『お父様、お母様、お元気でしょうか。
まだ、こちらに出てきてから日は浅いですが、今のところ、順調です。
何とか伯爵様にも話はつけましたので、ご安心くださいませ。
また、例の件ですが、半年後、いえ、五か月後までに何とか算段を
つけていただくことは可能でしょうか。
可能であれば進めてしまってください。あと「黒羽」については、今のところ、お母様に
すべてお願いしておりますが、帰郷をめどに再び指揮をとらせていただきます。
リサ』
その手紙は、非常に複雑な暗号となっており、普通に読んだだけでは単なる買い物リストに見えるようにしておいた。恐らく、検問はないはずだが、万が一引っかかってしまっても、問題の無い内容にしておかねばならない。
手紙を書き終えた後、すぐに王都下町の伝書鳩屋に行き、長距離飛べる鳩に手紙を託した。
「頑張って」
鳩の大好物のえさを与えると、鳩は喜びすぐさま食べきった。上機嫌なハトはすぐさま飛び立ち、遥か彼方へと旅立った。





