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陰陽師の異世界騒動記〜努力と魔術で成り上がる〜  作者: 月輪熊1200
二章 神龍王国
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二十八話 祭りの終わり

 

  大武闘大会最期の戦いが終わりを告げた、20分後。


  観客と祭りに来ていたが大武闘大会に来なかったもの、並びに大武闘大会で戦ったものたちは、皆開会式をした中央広場に集まっていた。


  そこで、最期の五人に対しての景品の受け渡しを行なっている。ちなみに渡す役は俺が任されていた。


  最初に演説をした高台の下では、景品を持って立つ俺とその前に立つ五人の戦士たちに聴衆の視線が全て集まっており、自然と緊張する。


  そんな中、リージアさんが一歩前に進み出た。一瞬遅れて俺も前に出て、背後のシリルラたちに見られながら事前に決めてあったことを言う。


「リージアさん。今回の大武闘大会において数多くの猛者を倒し、最期の五人として素晴らしい戦いを繰り広げたことを評して、ここにその栄誉を称え贈り物をします」

「はいよ」


  全長1.5メートルほどの精緻な彫刻の彫り込まれた木箱を、リージアさんに手渡す。彼女はそれを大事そうな手つきで受け取った。


  そして蓋を開け、驚いた顔をした後に嬉しそうな顔をした。中に収められていたのは、例の装備の人物が作った最新式のライフル。


  なぜこんな御誂え向きのものがあるかもいうと、事前にこの祭りにくる者でだいぶ党大会に参加する可能性のある者を調べ、その者が好むものをある程度揃えていたらしい。


「俺のネオ・オールスはやれないけど、これもかなり高性能のものならしいぞ」

「ハハッ、あれを聞いた後じゃあ流石に今すぐ欲しくはないね。せいぜい、もっと腕を磨いてから貰いに行くとするよ。それじゃあね、王様」


  蓋を閉めてロックしたリージアさんは、裏側に取り付けられていたベルトで箱を背負うと、ひらひらと手を振って高台から降りていった。


  最後まで王様と呼ばれたことに苦笑しながらも、次のやつの景品を受け取って前に向き直る。


  すると、そこには悪人ヅラの大柄な鬼人……ドグマが立っていた。同じような文言を言い、景品を受け渡す。


  ドグマに渡したものは、シープドラゴンというこの大陸の一部にしか存在しない、希少なドラゴンの肉。それも特上の品質ならしい。


「おおっ、シープドラゴンの肉じゃねえか!こいつは今日はあいつらと宴だな!」

「いきなりだけど、ありがとうドグマ。お前のおかげで少し、昔の気持ちを思い出せた」

「ん?そうだったのか?がははっ、そいつは良かった。またケンカしようぜ!」


  ドン、と俺の胸をその大きな拳で叩いたドグマは、シープドラゴンの肉の入った木箱を肩に担いで高台から降りた。


  そうするとドグマの次、3番目の最期の五人が壇上に登る。それは言わずもがな、ジェイド改消えた元統括者オグさん。


  そのままこれまでの二人と同じように、彼女にも用意された景品を渡す……のではなく、ある一つのバッヂを差し出した。


「ジェイド、いやオグさん。あなたには最期の五人の中で唯一俺に怪我を負わせ、追い詰めたことから、特別にボディーガードに任命します」


  そう。オグさんには、俺のボディーガードになってもらうことになった。これは彼女自身からの提案だ。


  なんでも、その道を妨げることはもうしないが、無茶をしないように近くで監視させてもらう、ということらしい。


「謹んでお受けいたします、我が王よ」

 

  優雅な動きでお辞儀をしたオグさんは、俺の差し出したバッヂを受け取り胸につける。そして俺の肩を叩き、「またね」といって台から降りた。


  オグさんも終わり、ついに次はあのコモノ……といきたいところだが、高台のどこにもあの少年の姿はなかった。下にも姿はない。


  なんでも自分からこの閉会式に出ることを拒否したらしく、試合が終わったら早々に帰ってしまったらしい。


  まだ何か諦めていなさそうだったから、もう一度釘を刺しておこうと思ったのだが。少し残念な気分になる。


  複雑な心境もそこそこに、気分を切り替えて最期の五人目を迎える。そう、こと俺限定での危険度で言えば1番の女を。


「……えー、シドさん。あなたには俺の手で一ヶ月の間、言うことを聞かせられる権利を与える」

「はい!よろしくお願いします!」


  キラキラと、それはもう輝かしく両目を光らせたシドは、満面の笑みで頷いた。自分の頬がひきつるのがわかる。


  そんなシドは、幸いこれ以上何か爆弾を投下することなく、上機嫌な様子で台を降りていった。これで全員、終わったな。


「みなさん、今一度この場で数々の戦いに勝利した、強き者たちへ拍手を!」


  俺の言葉に従い、聴衆はコモノを除いた最期の五人に対して拍手喝采を送った。流石にこれほどの数に褒められるのは恥ずかしいのか、少し顔を赤くしている。


「はぁ、はぁ……これだけの人数を前にしてご主人様に甚振られていたと思うと……じゅるり」


  ……若干一名、別の意味で頬を赤くしていたものもいたが。もういちいち反応するのも面倒なのでスルーだ。


  拍手が止んだのを見計らって、四人は高台から降りていく。対する俺は、聴衆の方に向き直った。


『さて。数時間前、俺はここで言った。力を示し、皆を守れる存在であることを証明すると』


  手すりに設置された拡声器に顔を寄せ、ゆっくりとした口調で語り出す。自然と、それまでちらほらと聞こえていた声はなくなった。


  誰もが口をつぐみ、静寂の訪れた中央広場を見渡す。そして全員の目をしっかりと見ると、次の言葉を吐き出した。


『そして、俺は言った通りここにいる四人、そして今この場にはいないもう一人の、とてつもない力を持った相手と戦い、なんとか打ち勝つことができた』


  そういうと、おそらく試合を見ていたであろう聴衆の大半から声が上がった。どうやら楽しんでもらえていたようだ。


  残る少数の大武闘大会を観戦していなかった者たちも、これだけの反応を見せるのならよっぽどだったのだろうと納得した顔をしている。


『ありがとう……その上で、俺は皆に問いたい。俺は、皆を守るにたる力を持つと信じてもらえただろうか?皆の先頭に立ち、率いる……王として、ふさわしいだろうか?』


  王という言葉を発した瞬間、体に緊張が走る。同時に、心の奥底からどうしようもない不安がこみ上げてきた。


  もし拒否されたらどうしよう。こんな俺を、皆は受け入れてくれるのだろうか。そんな考えが頭の中をひたすらぐるぐると巡る。


 ドクドクと心臓の高鳴る胸を抑えて、じっと聴衆の反応を待つ。それは果たして数秒か、はたまた数分か。どちらにせよ、永遠に等しく感じた。



 ワァアアーーー!!!



 だが、俺の予想に反して聴衆は明るい声でそれを肯定してくれた。思わず瞠目し、そのあとホッと安堵のため息を漏らす。


 安心するのもそこそこに、顔を引き締めてもう一度言葉を紡ぐ。先ほどよりも強く、頼り甲斐のある声をイメージした。


『ありがとう。本当にありがとう。皆に認めてもらえて、心の底から感激する思いだ。そんな皆の期待に応えられるよう、これから頑張っていこうと思う』


 そう言うと、頑張れー!という声がどこからか聞こえてきた。声の下方に笑って軽くお辞儀をして、演説を続ける。


『無論、政治的なことにはまだ疎い。それはこれからしっかりと学んでいくつもりだ。そしてそれができた時、俺はもう一度皆に問おう。俺を王として認めてくれるかを……では、これにて演説を終了する。今日この日皆に出会えたことに、今一度心からの感謝を』


 深く、己の気持ちが伝わるようお辞儀をする。するとその姿は見えねども、聴衆は万雷の拍手をしてくれたのだった。


 しばしその体勢のままでいると、ゆっくりと頭をあげる。そしてもう一度拡声器を通して声を出した。


『その感謝の気持ちを示して、一つこの閉会式を彩る。もう少し、俺のわがままに付き合ってくれ』


  言い終えると、コートのアイテムポーチの中から座布団を取り出し、台の上に置いてその上にあぐらをかいた。


  そうするとまたアイテムポーチに手を入れ、あるものを取り出す。それは小さい頃から慣れ親しんだ、一つの楽器。


  三味線。地球でそう呼ばれる楽器を取り出した俺は、バチと指を弦の上に置くと拡声器で不思議そうにする聴衆に説明する。


『これは三味線といって、俺の故郷に伝わる楽器の一つだ。少しの間、どうかこれの音色に耳を傾けてほしい』


  一言断った俺は、三味線に目線を戻し、バチを絶妙な力加減で傾けて弦を震わせた。その途端、不思議な音が三味線から零れ落ちる。


  その音をはじめとして、俺は三味線を弾き始めた。最初はゆっくりと、まるでそよぐ風のように穏やかに。


  家業の一つとして長年鍛えたスキルを巧みに使い、指とバチを代わる代わる弦に押し当て一つの歌を奏でる。


  演奏をしながら聴衆を見ると、最初は懐疑的な顔をしていたものの、今やすべてのものが三味線の音に心地よさげな表情を浮かべていた。


  それを見てニヤリと笑い、一気にバチを打つ速度を速める。指使いはより荒々しく、まるで戦場に響く武者の雄叫びのごとく。


  突然変わった曲調に、音色に意識を預けていた聴衆は驚いたように閉じていた目を開ける。しかしすぐに面白そうな顔をした。


  その期待に応えるべく、さらにスピードアップ。荒野をかける荒馬のように力強く、しかし繊細さを併せ持った音を醸し出す。



 ラ〜〜♪


  すると突然、どこからか美しいソプラノの歌声が響いた。今度は俺が驚き、歌声のした方を振り向く。


  そこでは、見目麗しい一匹の歌鳥(セイレーン)が翼を胸にあて、瞑目して世にも美しい歌を三味線の音色に乗せていた。


  一見全く合わないはずのそれは、しかし絶妙にマッチして三味線の音色をより華やかなものへと昇華させている。



 ドンッ!ドドンドンッ!



  さらに一つ、音が加わった。今度は巨大な豚人(オーク)たちが自分の腹太鼓を平手で叩き、まるで太鼓のような音を出している。


  三味線、歌声、太鼓。三つに増えたその調べは、調和して中央広場を包み込む。それを皮切りに、ほかの聴衆も演奏に参加し始める。


  木人形(ウッドドールマン)が自らの体を震わせ、妖精たちが独特の踊りを披露し、虫型の魔物が機械な声を掛け合わせ奇怪かつ陽気な歌を作り出す。


  蜘蛛女(アラクネ)が糸を張ってそれを弾き琴のような音を乗せ、狼人(ワーウルフ)鬼人(オーガ)が肩を組んで足を踏み鳴らし、ハイゴブリンが棍棒を打ち合わせる。


  他にもさまざまな魔物がそれぞれの力で独特な音を重ね、最初は一つの音から始まった演奏はやがてすべての魔物が音を奏でる大演奏へと変貌を遂げた。


  今、この場にいるすべての者の心が一つになっている。それに俺はたまらないほどの楽しさを覚えて、一際強く弦を弾いた。


  そして顔を上げた時、ふとこちらを優しげな微笑みで見るシリルラと目があった。


 その瞬間、自然と俺の口が動き出す。




「ーーある日一人の少年に 瑠璃色の救いが舞い降りた」




  その歌を聴いた瞬間、シリルラは心底驚いたような顔をした。それに構わず、俺はただ一心に浮かんだ言葉を声に変える。


「弱く 脆く 罪深き 許しを得られぬ少年に


天より現る瑠璃色の 慈しみ深き女神様


あの日染まった真っ赤な手 胸に刻むは拭えぬ罪


幼きその手を握りしめ 心閉ざして俯いた


ああ恐ろしや 我がこの手 ああ恐ろしや 我が力


誰も罰さぬと言うのなら 自ら我が身を戒めよう


暗く 昏く 闇き場所へ」


  天下りの恋詞という歌がある。それは、俺が初めて恋をした少女がいつも隣で歌い続けた歌だ。


  今思えば、それは彼女自身の思いを言葉にしていたのだろう。ある孤独を己に戒めた男への、愛の歌。


  それを理解した時に感じた嬉しさと、それをはるかに凌駕する恥ずかしさ。どうしようもない、しかし大切なこの気持ち。


  今この瞬間、その気持ちをこの歌に込めよう。彼女がくれた強く、美しいその愛に、醜い俺が送れる唯一の想いを。


「独り 孤り ただ一人


誰もいない 誰も要らない


そのはずなのに 寂しくて


ある日 その人は現れた


灰を被った心を洗い 醜いこの目を見てくれた


透き通る瑠璃のその瞳に いつしか僕は恋をした」


  なあ、君は知っていたかな。君の悪戯げな笑顔が、優しい瞳が、暖かいその手が、どれほど俺を救ってくれたかを。


  あの歌を聞くたびに、一人でなきゃいけないという思いが、誰かと一緒にいてもいいんだと、この手で誰かの手を握っても良いという思いに変わったことを。


  ああクソ、ダメだ。どれだけ言葉にしても、思えば思うほど、幸せな今に潰されそうになる。本当なら許されないこの幸福に。


  でも、それでも。言葉にしなくてはいけないのだ。強くあらねばいけないのだ。それが、俺にできるただ一つの恩返しだから。


「醜く 汚く 罪深い


許されたくない 許されない


そのはずなのに 掴みたい


気づけば膝から手は離れ 愛しい君に手を伸ばす


ああ恋しきかな 我が愛よ


ああ愛しきかな 想い人


もしも許されるのならば その手を取っていいのかな


もしも赦されるならば 前を向いてもいいのかな


行ける気がする 君となら


微笑みくれた 君となら」


  俺は弱い。どうしようもなく弱い。一人じゃなにもできない、前を向いて生きることすらできない弱者だ。


  けど、君がいるならば。この手を握ってくれるなら、俺は弱者に甘んじることをやめよう。強くなるため顔をあげよう。


「ある日一人の少年に 瑠璃色の救いが舞い降りた


共に行きたい何処までも 命尽き果てるその日まで


願わくば共に 永遠に」


だから、できればずっと一緒にいてほしい。その思いを、この歌に込めて。


「これは一人の少年の 儚き小さな願いの歌……」


  気分が最高潮に高まったその瞬間、歌い終えるのと同時にこれまでで一番強くバチを振り切った。示し合わせたように、他の音も終わりを迎える。しばし、沈黙が訪れた。




 ワッーーーーーーーーーー!!




  それを破ったのは、張り裂けんばかりの歓声。思わず耳を塞ぎたくなるほどのそれは、夜の闇を吹き飛ばすほどの力を持っている気がした。


  弦から手を離し、ほっと息を吐く。そしてシリルラの方を見て……思わず苦笑いした。


  なぜかって?だって……シリルラらしくもなく、泣いてたから。隣にいたエクセイザーの肩に額を押し付け、肩を震わせていたから。


  その涙が恥ずかしさからか、はたまた怒りからかはわからない。俺はシリルラや エクセイザーのように読心能力なんかないからな。


  でも、できればこの思いが伝わってくれるといい。かっこつけな上に自意識過剰な、控えめに言って気持ち悪い願いだが。


  シリルラから視線を外し、聴衆の方に向き直る。皆一様に、楽しそうな笑顔を浮かべて互いの演奏を褒め合っている。






  そんな彼らを見て、俺はこれから全力でこの国を、この溢れんばかりの笑顔を守ろうと、そう誓うのだったーー。

これで二章は終わりです。

ただ、あまりにも感想がこないので続けるかどうか迷っています。

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