二十一話 本戦 第4ブロック
『えーみなさん、第3ブロックは驚きでしたね!最後の五人の最有力候補のうちの一人とはいえ、まさか怒愚魔選手があそこまで非常識な実力とは思いませんでした!』
『かなりイかれた格好と実力の持ち主、という噂はかねがね聞いていたが、あれほどの力とは驚きじゃな』
『そんな噂立てられてたのか……』
隣でマイクを持ちながら、少々引きつった笑いを浮かべているセレアさんと、やれやれと首を振るエクセイザー。かくいう俺も、苦笑気味である。
現在、大武闘大会は第4ブロックの試合を延期して、会場の修繕に当たっている。そのため休憩時間が30分に延長されていた。
というのも、最後のドグマの拳撃であの壁の出入り口を動かしていた、制御装置の一つが盛大にぶっ壊れたのだ。
幸い、このような状況を想定して、予備のパーツを用意していたらしいので、取り替え作業を行なっている。その割合は、約八割。
どんだけだよと思ったが、亜神であるエクセイザーの結界を軋ませるほどの拳圧だ。むしろ、完全に壊れなかっただけでも幸運だろう。
ただ、次の試合を待っている間ずっと俺たちが話すを聞いていても、流石に飽きて眠くなってしまうだろう。
なので、不慮の事態の時のために招待されていた他国の魔法使いが、召喚魔法で従魔になった魔物を召喚した。
そしてその魔物と、すでに負けた中から抽選で選ばれた選手と戦うショーを行うことで、観客を楽しませる。
なかなか白熱した戦いになり、やがて魔物が選手の武器を破壊して降参させたところで、ちょうど取り替えが終わった。
『皆さま、お待たせいたしました!出入り口の修理が完了したとのことです!よって……これより、第4ブロックの試合を開始します!』
それを聞いた瞬間、長い時間待たされていた観客たちはワッと声をあげた。そして一気に熱気が会場に戻る。
それに驚く間も無く、見事に修理された壁が滑らかな動きで開いて、選手たちが入場をしてきた。
そして入場した五人に、少しどよめきが広がる。なぜなら、五人いるうち、三人が人間だったからだ。
これまでの3試合で、人間が出たのは二人だけ。ひと試合で一気に三人同時に出るというのはなかった。
それは、ほとんどの人間が予選の時点で落ちたことに起因する。予選が始まった時、人間は百数十人くらいはいたのだ。
しかし、彼らが相手するのは、誰にも知られず、独自の進化を遂げた数々の秘境の、屈強な魔物や亜人、魔人など。
地上の種族と比べ、秘境の生物はレベルアップによるステータスの伸びも、潜在能力も天と地ほどの差がある。
それは言い換えれば実力の差であり、どれだけ地上で自信があっても、秘境の生物の中でも更に一握りの強者を相手するのは難しい。
事実、予選の時点でほとんどの人族の参加者は次々と、まるで当たり前だと言わんばかりにやられていった。
つまり、秘境の生物たちを押しのけ、本戦に進んだ人間はその時点で、相当の実力だと証明されているようなものなのだ。
まあ、それは本戦に進んだものたちが、秘境の生物の中でもさらに一握りの強者だということを意味するのだが…
そんな人間が、三人同じ試合で戦う。驚きと同時に、どんな試合になるのだろうという期待が高まっていた。
『エントリーNo.49!両腕に光るのは鋭い鎌!無機質なその瞳には何が映る!?キラーマンティスのシェヴァ!』
「シュウゥ……」
両腕の前腕が鎌になっている、二足歩行のカマキリのような見た目の魔物が鋭く息を吐きながら、鎌を研いだ。
『エントリーNo.119!小さな体躯に似合わぬ、勇猛な心!なかまの中で一番最初に飛び出す血の気の多さ!所属は最強傭兵隊『突破林隊』!凛凛ィイイイ!』
「っしゃおらぁあああああ!!」
小柄な体に纏うのは夜露死苦という文字が踊る特攻服。頭に光るは立派なリーゼント。
小柄な鬼人、凛凛が両手を振り上げると、観客たちはキャーと黄色い声をあげた。
「おうてめえら、カシラに代わってサイキョーでサイコーの応援をするぞ!腹の底から声出せやコラァ!」
「頑張れ凛凛ィィィイイイイイ!!!」
「自慢のキックで全員ぶちのめしてやれぇ!」
「リ・リ・ィ! リ・リ・ィ!」
……暑苦しい声援も上がった。
『凛凛選手、凄まじい応援です!ではエントリーNo.18!他大陸、鬱蒼とした樹海に住まう、女だけの部族からやってきた人族!アマゾネスのチィケァ!』
「みんなー!よろしくねー!」
胸にサラシと、パレオのようなものを巻いただけの、ぺったんこの少女が天真爛漫な笑顔で手をすれば、観客席の男たちが大声をあげて倒れた。
『エントリーNo.98!戦士枠ではなく、一般枠からの参加!皆様もご存知ではないでしょうか、他大陸にすらその名を轟かせる大農園、『ダンテ農園』のカシラ!と同時に、頑張る6児のお父さん、レイジオ・ダンテェエエ!』
「うむ!」
筋肉の塊のようながっしりとした体に、麦わら帽子と作業服。片手に大斧を持つ、無精髭の似合うおっさんが仁王立ちしていた。
「「「父ちゃん頑張ってー!」」」
『おっと、会場にお子さんたちがいらしているようです!大好きなお父さんの応援をして……ってちょっと、手すりから身を乗り出しちゃダメですよー!?』
おろおろと慌てるセレアさんの見ている方を向けば、六人の子供が手すりから身を乗り出して、キャッキャとはしゃいでいた。
幸い、すぐに後ろにいたやけに綺麗な女性が拳骨を落として回収して、ことなきを得た。それに苦笑しながら、リングの上のレイジオが手を振る。
『えー、では最後にエントリーNo.39!今大会最年少組であり、予選では気づかぬ内に多くの猛者たちをのしていたダークホース!コモノ・ナアク・ヤーク!』
「ひひっ……」
豪奢なローブをまとい、ゴテゴテに装飾された長杖を持った少年が、卑屈な笑みを浮かべる。
そしてダーサ・イー同様、名前が酷かった。こんな名前をつけた親の顔がちょっと見てみたい。
それはともかく、紹介された五人の選手が向かい合う。全員が全員、強気な笑みをその口元に浮かべていた。
「くひひっ…」
ただ一人、コモノがどこか嘲るような、余裕そうな笑顔を浮かべているのが気にかかるが……
『それでは、第4ブロック、スタァアァァァトッ!!!』
その違和感について考える前に、大きく銅鑼が鳴って試合が始まった。
「先手必勝じゃコラーー!!」
「オゴッ!?」
と同時に、ジャンプした凛凛の真空飛び膝蹴りが、正面のダンテの顔面にめり込んだ。一切の迷いがない、それはそれは綺麗なフォームで。
それでもダンテは簡単には沈まず、よろめいて後退したものの、鼻を押さえながら凛凛を見る。
「くっ、油断して……」
「かーらーのー、かかと落としィ!」
「ドゴスッ!?」
が、容赦のないかかと落としが脳天にぶち込まれ、今度こそ崩れ落ちた。無音の中、スタッと着地する凛凛。
「っしゃぁ!やってやったぜ!」
お 前 も か !?
思わずツッコミそうになったものの、グッと堪える。ツッコんだら負けだと本能が言っている。
ていうか、なんでドグマのとこのやつは皆こんな感じなんだ。思わずこめかみをグリグリとした。
俺が眉間にしわを寄せている内に、銅鑼がなる。正式にダンテの敗北が決まり、先ほどのドグマで慣れていたのか、比較的早く観客は声を取り戻した。
『凛凛選手、開幕速攻ダンテ選手を沈めたァ!やはり、頭が頭なら、仲間も仲間なのでしょうか!ともかく、ダンテ選手、失格です!』
もはや慣れた様子で、セレアさんが声を張り上げる。二度目ともなると、スラスラとセリフが出たようだ。
「シャァッ!」
「っとぉ!?」
と、凛凛の背後からシェヴァが襲いかかった。挟み込むように振るわれた鎌を、しゃがんで躱す。
そのまま裏拳を叩きつけるが、シェヴァはそれを両腕の鎌をクロスして防御する…つもりだったが、当たったところからポッキリと折れた。
「なっ…くっ!」
「逃さない、ぜっ!」
うろたえたシェヴァの腕を取り、一本背負いをする凛凛。しかしシェヴァは残った鎌で捕まった腕を切断すると、羽で飛翔して抜け出した。
凛凛から逃げ果せおおせたシェヴァは着地して羽を収納する。そして自ら切った腕に目を向けた。
そうすると、切断面からボコッと肉が盛り上がって、新しい腕が生えて来る。それを使ってもう一歩の腕も切断すると、壊れた鎌を同じように腕ごと再生した。
『シェヴァ選手、失った両手の鎌を再生しました!そういうスキルを持つ魔物を見たことはありますが、彼もそういった類いのものでしょうか!』
「へえ、面白いことするな」
「…我々は魔力を代償に肉体の欠損を治せる。さあ、行くぞ鬼人っ!」
「私も混ぜてよ!」
凛凛に飛びかかろうとしていたシェヴァに続いて、チィケァも接近する。シェヴァの鎌とチィケァの拳が、同時に迫る。
「ふっ…根性ぉぉぉぉおおお!!!」
「うぐっ!?」
「うわぁっ!?」
そう凛凛が叫んだ瞬間、大きく開けた口から魔力によるものとは違う衝撃波が放出されて、二人を文字通り吹き飛ばした。
シェヴァとチィケァはギリギリ場外にはならなかったものの、かなりの威力だったのか、まとっていた衣装がボロボロになっていた。
特に、チィケァはかなり際どい格好になっている。あと少しでも衣服が破れたら、やばいことになるのではないだろうか。
「どうだ!これが俺っちの必殺技頭直伝の根性咆哮だっ!」
自信満々な表情で言った凛凛に、またぽかーんとした。選手たちも同様である。
「な、なんだそれは……」
「今のが、ただの根性を込めた咆哮!?」
俺も全くの同意見だった。ドグマは仲間に一体何を教えているのだろうか。理不尽にもほどがあるだろう。
「…んで、テメェはさっきから動かないけど、かかってこねぇのかよ?」
振り返った凛凛が、開始してから一切動きを見せない人物……コモノにそういう。
それに対して、コモノはただニヤニヤと不気味な笑みを浮かべるだけ。年不相応なその表情に、どこか薄ら寒さを覚えた。
凛凛も同じように感じたのか、チッと舌打ちをすると、シェヴァたちの方に向き直った。
自分たちに標的が向き直ったことを理解した二人は、雄叫びをあげながら凛凛に攻撃を仕掛ける。
それから、凛凛とシェヴァ、チィケァの三人による、三つ巴の戦いが始まった。激しい攻防がステージ上で繰り広げられる。
シェヴァとチィケァは第1ブロックの二人のように協力するわけでもなく、凛凛に攻撃をしながらお互いのことを倒そうとしていた。
「ド根性パンチ!からのド根性キック!」
で、凛凛はその二人をド根性で圧倒していた。シェヴァが体を再生すればその度に破壊し、チィケァが高速で攻撃すればそれ以上の速度で叩きのめす。
『凛凛選手たちが、凄まじい三つ巴の戦いを繰り広げている!三人の中で最も優勢なのは、やはり凛凛選手でしょうか!?さすがは『突破林隊』の一員です!』
「オラオラオラァ!そんなもんか!?もっと気合い入れろやぁぁあ!」
「くっ!」
「速いよー!?」
凛凛のラッシュに、徐々に追い詰められていくシェヴァたち。もはや、互いに攻撃する余裕すらない。
これはもう、先ほどのドグマ同様、凛凛が圧倒して、残りの一人も倒して終わりかと思った、その瞬間。
「【略奪封滅 急急如律令】」
「っ!?」
次の瞬間、自らの目に映った光景を見て、俺は瞠目して息を飲み、ガタッと席から腰を浮かした。
なんと、聞き慣れた呪文とともに、エクセイザーの結界の内側から、ステージを紫色の半透明の結界が覆ったのだ。
そして、その力の発生源は…コモノ。彼の手の中で断続的に怪しく光る、派手な長杖にはめ込まれた宝石からである。
『コモノ選手、突如結界を発動してステージを包み込みました!これは一体どういった効果を持つものなのでしょうか!?』
すかさずセレアさんが反応し、マイクを握って熱弁する。その声が、今の俺には右から左に流れていった。
なぜなら、半腰のまま静止している俺は、ある一点を凝視しているからだ。それは、ステージにいるコモノ。
先ほどまでの表情は何処へやら、どこか嘲るような顔で困惑する凛凛たちを見ている。
『…龍人、どうかしたのか?』
しばらくコモノを凝視していた俺だったが、エクセイザーの声でハッと我に返って、慌てて座り直す。
訝しげな顔をしているエクセイザーに何でもない、と目線で伝える。そうすると、もう一度ステージを見た。
「な、なんだ、これ…」
「力が、抜けて……」
「まるで、力を吸われているような…」
すると、コモノ以外の全員がフラフラとしており、立っているのもやっとな状態だった。攻撃を受けたわけでもないのに、だ。
それから数分後、三人ともステージに崩れ落ちた。どうやら立っている力も無くなって胃s待ったようだ。
そんな三人に歩み寄ったコモノは、手に持った杖を振り上げると、凛凛の肩に尻の部分をグリグリと押し付けた。
「ぐっ……!」
「ひひっ…感謝するよ、魔物。お前たちがバカな争いをやってくれてたおかげで、結界を発動する時間を稼げた」
……あいつ。
『コモノ選手、過激な発言だー!それはともかく、どうやらこの結界は魔力や体力を吸い取る効果があるもののようです!これは三人ともなすすべないか!?』
「テメェ、汚ぇ手使いやがって…それでも、男か…!」
「あーヤダヤダ。僕、そういうの暑苦しくて嫌いなんだよね。だから…さっさと眠ってよ」
嘲笑したコモノは、杖の先端を凛凛に向ける。すると宝玉が一層強く、鈍い光を放った。
その光を受けた凛凛の頭が、かくりと落ちる。カメラが近づくと、凛凛の眠り顔が映る。あの光で眠らされたのか。
そのあとも、コモノは残りの二人に同じように杖を向けて、眠らせることで戦闘不能にした。後には、コモノ一人だけが残る。
二人とも眠ったことがカメラに映ると、銅鑼が鳴って試合終了を告げた。
『試合、終〜〜〜了〜〜〜!』
セレアさんが大きく声をあげて、終わりを宣言した。結界が発動し、選手たちの状態がリセットされる。
最初の位置で目覚めた凛凛たちは、悔しそうな、どこか怒っているような顔で小物を睨む。
しかし、コモノはどこ吹く風といった様子で。むしろ、そんな三人を小馬鹿にするように鼻で笑っていた。
『第4ブロックを制したのは、コモノ・ナアク・ヤーク選手です!凛凛選手の圧倒かと思われましたが、まさかのどんでん返し!皆様、どうか拍手を!』
険悪な雰囲気の中、セレアさんが言うが…やはりと言うか、あの発言を聞いたからか、ほとんど拍手は起きなかった。
「………」
どこか薄ら寒い笑みを浮かべているコモノを、俺はもう一度注視する。
さっきのあの力。あれは、もしかして……
こうして、俺の中で一つの疑惑が浮かびながらも、第4ブロックが終了した。
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