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陰陽師の異世界騒動記〜努力と魔術で成り上がる〜  作者: 月輪熊1200
二章 神龍王国
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十五話 開会式

感想やアクセス数が伸びないのは文書の書き方に問題があるからでしょうか、悩みます。

今回かなり下手だ思いますが、何卒ご容赦を。

楽しんでいただけると嬉しいです。


  その場所……新生秘境首都、『サキミタマ』の〝歓楽区〟に設置された異空間の広場では今、とある催し物が行われていた。


  〝復活祭〟と名付けられたその祭りは、今から七年前に起きた大事件……数多の秘境が一つになった原因となった存在の復活を祝うものだ。


  その正式な開会式に先んじて、広大な広場には無数の屋台や露店が立ち並び、お祭り騒ぎとなっていた。


  一週間前より政府から告知され、それにより〝統率府〟主導で大陸中に大陸中に招待状が出されたことによって、ここにはありとあらゆる大陸の住民が集まっている。


  そんな、魔物、他国から来た人間や亜人、獣人関わらずひとところに集まる彼らは、おおよそ二つのタイプに分類されていた。




  一つは、単に祭りを楽しみに来たものたち。

 



  彼らにとっては今日現れるというその存在は二の次で、美味しい料理や珍しいものを求めやって来た。


  そんな彼らを相手するのは、稼ぎ時だとふんだ料理店や腕自慢、あるいは祭りの雰囲気に乗じて顔を覚えてもらおうとする商人、逆に更なる顧客確保に乗り出したベテランの商人たちだ。


  彼らが提供するものは、普段ではお目にかかれないようなもの珍しいものもあれば、いくつかの地域に支店のあるメジャーな店などもある。


  そのどれもが等しく、やって来る客たちを楽しませようと一生懸命になっていた。そのため、非常に盛り上がっている。




  もう一つは、各地域を統治する力ある魔物たちや、他国から来たもの。




  統一戦争後に和解した各秘境の元統率者の魔物たちが大半を占め、残りはこの国に滞在している他国の重鎮や、一大勢力の幹部などである。


  彼らは皆一様に、新たな脅威となるかもしれない存在を見ておこうと思っており、開会式にも登場する相手を警戒していた。


  その中には、あわよくば取り入っていざという時に攻撃されないようにと考える者や、また反対に取り込んでしまおうと企んでいる者もいる。


  そんな各々の思惑が入り乱れる会場は、大いに賑わっていた。ピリピリとした空気を、楽しげな雰囲気と歓声がかき消し、和ませている。


  ある所では、曲芸師が即興の芸をやって客を盛り上がらせ、またある所では酒の入った力自慢の男たちが腕相撲で競い合い、それを野次馬の声が助長していた。


 


『会場内にお集まりの皆様、まもなく開会式が開始いたします。空をお見上げください』




  そんな会場に、唐突にエコーのかかった大きな声が響いた。その発生源は、空中に浮かんだ丸い魔道具。


  とある秘境に住まう天才発明家により生み出された、〝スピーカー〟という魔道具は会場各所に浮遊しており、全ての来場客に知らせを送った。


  その放送に従い、来場客、そして屋台や露店の主人たちも顔を出して上を見上げる。


 するとーー




 ゴアアァアアァァァアアァァアアアッ!!!




  ーー大きなな咆哮を上げながら、一匹の黒龍が上空を通過する所であった。その巨躯に、誰もが目を見開く。


  豪風を纏って高速で飛び去っていった黒龍は、ほんの一瞬頭上を通っただけでもその力の強大さを感じさせ、それまでの空気を一変させた。


  中でもより一層驚いたのは、統一戦争の時に戦った魔物たち。彼らは、あの黒龍が一体なんなのかを知っていた。


  あれはまさしく、『始まりの森』中央にそびえる霊峰。その頂上に住まう、『神樹』を守護する神なる龍。


  戦争時、かの神龍は今は新生秘境を取りまとめる『始まりの森』の魔物とともに、数多の敵を蹴散らした。


  彼らの脳裏には、全てを破壊する黒い炎が、爪が、牙が、無慈悲なそれらが強く焼き付いている。


  戦争終結より二年、一度たりとて霊峰から姿を表すことはなかった神龍がなぜここに。愕然とした思いと畏怖が蘇る。


  黒龍を知らない客も、恐怖心と好奇心を掻き立てられ、気がつけば全員が開会式の行われる中央広場に足を向けていた。


  その後も、黒龍はまるで自分の存在を知らしめるように咆哮しながら会場内を飛び回った。それによってどんどん中央広場に来場客が集まっていく。


  やがて、会場中央の円形の広場には、来場客たちが密集し、異種混合の様相を見せるそこはざわざわと騒めいていた。


  黒龍による招集という豪華な始まり方に、口々に始まる開会式がどんなものなのか話し合う。

 



 ゴァァアアアアッ!!




  そんな彼らの期待に応えるように、黒龍が広場に姿を現した。黒龍はまるで見せつけるように広場の上を旋回する。


  細身ながらも逞しい肉体と、それを包む濡れた黒い鱗に来場客は思わず見惚れた。そしてふと、誰かが背中に乗っていることに気がつく。


  黒龍の背に乗る誰かを探り当てる前に、黒龍は中央広場に設置された高台の上にゆっくりと着地した。ドシン、という振動が地面を軽く揺らす。


  高台に降り立った黒龍は翼を折りたたむと、まるで寝そべるように体制を変える。すると、その背中から何者かが立ち上がった。


  正体不明の誰かは、黒龍の体に巻かれた器具に取り付けられた手すりを使って、高台に降りる。


  それは、一人の人間だった。見事な刺繍施されたタキシードを着た、強い眼光を湛える、男装の麗人。腰には柄から鞘まで真紅の剣を履いている。


  中性的な顔立ちをした麗人は黒龍を見上げ、なにやら声をかけた。すると再び、黒龍の上で数人の影が立ち上がる。


  そのうちの一人が跳躍し、静かに麗人の隣に着地。ゆっくりと立ち上がると、その端正な顔が露わになり、美女は美しい銀髪を搔き上げる。


  悠然とした佇まいと、気高い意志を感じさせる切れ長の瞳。紫色の艶やかなドレスを纏い、圧倒的な存在感を放つ。


  そんな彼女の名は、新生秘境の頂点に立つ亜神、エクセイザー。


  最高権力者の登場に驚く間も無く、エクセイザーの隣にまた一人、燃えるような赤い髪の女が降り立つ。


  普段は漆黒の軍服に隠された体は紅いドレスで彩られ、そこに兎の耳が可愛らしさを加える。


  さらに、額に二本の鬼の角を生やすその女は、政府が操る軍部が総裁、ヴェルメリオ。


  ビックネーム二人の登場にいよいよ広場がざわめき始める中、最後の一人が麗人に向かって飛び降りた。


  純白のドレスの裾を翻しながら落ちてくるその女を、麗人はしっかりと受け止める。そして、大事そうに地面に下ろした。


  そうして高台に立った女に……思わず、広場にいた全員が目を奪われた。それほどまでに美しかったからだ。


  陶器のような白い肌と、宝石のごとく輝く瑠璃色の髪。息を呑むような美しい肢体は華奢で、しかし女性的な丸みを帯びている。


  それに加えて、眼鏡があってなお隠しきれない完成された美貌。通った鼻筋、髪と同じ綺麗な瑠璃色の瞳、薄い桃色の唇。黄金比のように完璧な造形だ。


  まるで天上の存在のような容姿の女は、麗人の頬に口づけをして、一歩後ろに下がる。その光景に女に一目惚れをした客は瞠目した。


  神に等しい力を持つ黒龍に乗り、この地の支配者を連れ、天に作り出されたような少女の寵愛を受ける。あれは一体、何者なのだろうか。


  麗人は広場の方に向き直って、魔道具の設置された手すりの手前まで身を乗り出す。それにもしや、という予感が観衆の頭によぎった。


  その予想に答えるように、麗人は慣習を見渡し、ゆっくりと口を開いて話し始めた。



『ーーまず最初に。一つ、言っておくことがある』



  そして、拡声器を通して放たれたのは、低い男のような声だった。耳朶を震わせるその声に、観衆は静まり返って耳を傾ける。


『こんな顔だが、俺はれっきとした男だ。それを理解した上で話を聞いてほしい』

 

  次に告げられた言葉に、ざわりと揺れる観客。


  しかしすぐに納得した。特殊な趣味でもない限り、女にあんな風にキスはしないだろう。


『改めて、はじめまして。俺の名前はすめらぎ 龍人りゅうとという。今日は皆に会えたこと、心から嬉しく思う』


  軽く頭を下げる麗人……否、皇龍人という人間は、軽く頭を下げた。真摯な態度に、観衆は礼儀正しい人物だと彼の人格を判断し始める。


『僭越ながら、今回、俺は開会式を任せてもらっている。この機会を使って、少し演説をさせてもらおうと思ってる。どうか、最後まで聞いてほしい』


  頭をあげた龍人は、今一度来場客たちを見渡してそう言った。あんな規格外な登場をした相手の話だ、一言一句聞き逃さないように耳を傾ける。


『まず、改めて今日はこの祭りに集まってくれてありがとう。まだ何も知らない俺だが、皆がいるからこそこの時間があると思う。出店をしてくれている皆、来てくれた皆、どちらともに感謝を贈りたい』


 真っ先に、感謝の言葉を述べる龍人。


  たしかに龍人の言う通り、この祭りはエクセイザー達の統治の下、新生秘境中の魔物が手を取り合って作られたものだ。


  サキミタマに住まう魔物達だけでなく、各地域からやってきたもの達がいるからこそ、ここまでの規模になった。


『勿論、今回参加しなかった魔物も多くいるだろう。それでも俺は、この瞬間に感謝したい。たとえ祭りそのものが目的でも、俺を警戒しているからという理由でも構わない。見も知らぬ俺のためここまで沢山参加してくれたこと、本当にありがとう。今日は思う存分、心ゆくまで共に楽しもう』


  胸に手を当て、口元に嬉しそうな微笑みを浮かべて言う龍人。その表情からは、溢れんばかりの感謝と喜びが感じれる。


  龍人のその言葉に、いきなり出てきた小僧が何を偉そうに、と思っていた一部の客の顔が、満更でもなさそうなものに変わった。


  対する、龍人を警戒していたもの達の一部もまた、想像していたような危険そうな人物でなかったことに多少警戒心を緩める。


『さて。まだまだ感謝は伝えたりないけれど、それだけを話していても進まないから次に進ませてもらう。俺自身のことだ』


  話題の転換に、広場の空気が引き締まる。一部にとっては最も聞きたかった内容であり、より一層集中した。


『つい最近、蘇った俺だが……元は別の世界からやってきた、ただの人間だった。今から十年以上前の話だ。一部の方々は、彼女から聞いて既に知っているだろう』


  龍人が後ろに向けて手を差し出すと、エクセイザーが一歩前に出て深く頷いた。その一部とは、言わずもがな〝統率府〟のものだ。


  龍人の言葉に、話を聞いていたもの達は衝撃を受ける。それもそうだ、先程からの様子を見て、すぐに納得できるものはそういまい。


  まさか、神なる龍を自在に操るほどの存在が、元は人間だったとは思いもよらなかった。


『最初は右も左もわからなくて、どうすればいいか悩んだ。でも、そんな俺を支えてくれる奴がいてなんとかなった。あの場所で暮らしているうちに、かけがえのない仲間もできて……でも、ある時、俺は勝ち目のない、強大な敵とぶつかった』


  まるで懐かしむような声音から一転、どこか暗いものへと口調が変わる。そこからは、その時の龍人の感情が直接伝わってきた。


『そいつはあまりにも強大で、とてもじゃないけど俺じゃあ倒せないような相手だった。

  けど、一緒に戦ってくれた仲間がいて、支えてくれた人達がいて……最終的に、俺は自分の命を引き換えぬそいつに勝った。

  命を落としてしまったけど、公開はなかった。それで誰かの命が守れたのなら、それでよかった。

  けれど、なんの偶然か命拾いした。そして大切の人との再会を果たして……今こうして、神として復活を果たした』



 バッ!



  その言葉とともに、龍人は背中から己の龍人としての象徴である、一対の翼を広げた。それと同時に、体からとてつもないオーラを発する。


  広場全てを飲み込まんばかりのそのオーラの量は、正しく龍人の力を観衆たちに伝えた。それを確認すると、龍人は翼をしまって話を続ける。


『俺は、いろんな人に助けられて生き返ることができた。そして考えたんだ、俺を支えてくれた人たちのおかげで手に入れた、この力をどう使うかと……そして、俺は決めた』


  拳を握った龍人は、それを手すりに叩きつけ、まるで訴えかけるように大きく身を乗り出した。




『この力を、俺は皆を守るために使う! ここにいるものも、いないものも全員、この世に存在するありとあらゆる理不尽から守る! そのために、俺は皆の前に立つ存在に…王になってみせる! それが、俺の望みだ!』




  ここにきて、終始圧倒されっぱなしだった観衆の一部から敵意や怒りの目線が龍人に向かった。


  彼らは皆一様に自らの力に誇りを持つものであり、そんな自分たちがたとえ神といえども、誰かに守られるというのは我慢ならなかった。


  また、王になるという言葉に不満を感じるものもいた。突然出てきたかと思えば、自分たちを従えるという。随分と傲慢な願いだ。


  そういった不平不満を理解しているのだろう、龍人は乗り出していた体を引くと、また静かな声で語り出す。


『もちろん、不満に思うものもたくさんいると思う。なぜ俺なんかに、そう思って当然だろう。だから……』


 そこで一旦言葉を切り、目を瞑る。


  そして一拍置くと、目を見開き、息を吸って腹の底から大きく声を張り上げた。




『今から六時間後、西広場の闘技場にて〝大武闘大会〟を執り行う!』




  それを聞いた瞬間ーー歓喜の雄叫びが広場中から上がった。


  あるものは格好の見世物ができたと、またあるものは、あの神だという男を倒せるチャンスができたと。


  その中にある思惑は違えども、歓喜の叫び声をあげる観衆を見下ろし、龍人はルール説明を始める。


『ルールは単純、自由に参加した選手のうち、五つのブロックに分けたトーナメント方式で最後まで勝ち残った五人と俺が戦わせてもらう! 自らの力に自身のあるものは是非参加してくれ!』


  それを聞いた瞬間、開会式が始まって以来観衆の感情のボルテージは最高潮に達した。


  当たり前だ、堂々と宣戦布告をしているようなものなのだから。事実、上から目線にも聞こえるその言葉に、歴戦の猛者たちから怒号が上がる。


『もし負けたら、その時は潔く諦めよう。もう二度と、皆の前に現れ傲慢な口を叩くことはない。

  だが約束する、俺は自分の言葉を実現するに値する力を持つことを証明しよう!戦わず観戦する方は、ぜひ楽しみにしててくれ!』


  必ず全員に勝つ。言外に隠された言葉に、参加しようと意気込んでいたものたちの目に宿る炎が激しく燃え盛った。


  ひとしきり熱弁を終えた龍人は、そんな観衆に手を挙げて一度制止し、冷静な表情に戻って長い演説を締めくくった。


『…以上が、俺の演説だ。長時間聞いてくれてありがとう。これにて開会式を終える。この後も、ぜひ祭りを楽しんでくれ。そして……六時間後に、また会おう』


  不敵な笑みを浮かべ、そう言い残した龍人は身を翻し、身を引く。


  良くも悪くも大胆な演説をした彼に、観衆たちは拍手を送るのだったーー。

読んでいただき、ありがとうございます。

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