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陰陽師の異世界騒動記〜努力と魔術で成り上がる〜  作者: 月輪熊1200
二章 神龍王国
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九話 手加減と助っ人


  盗賊達に宣言した俺は有言実行するべく、早速動き出した。一パーセント解放していたステータスのギアを半分の0.5パーセントまであえて引き下げ、盗賊達に踏み込む。


  そのまま接近して攻撃する……のではなく、強奪したロングソードを持っていない方の手の籠手を変形、指を覆っている枝を伸ばして槍のような形に整形、盗賊の一人に突き出した。


  彼らのレベルでは知覚不可能な速度で放たれた刺突は、弓を携えていた鳥型の獣人の胸部装甲を貫通、心臓を破壊する。あと十三人。


  両腕の前腕に纏うことができるようになった『神樹』の枝。それはこうして腕の延長として扱うことで、このような芸当も可能とする。アイデア次第ではどんなものにでもなるだろう。


  それはさておき、敵の一人に致命傷を与えた俺はすぐさま槍を腕を後ろに引いて引き抜き、そのままもう一度変形。刃のついた鞭の形にして横薙ぎに振るって隣にいた獣人を斬殺する。


「アル!? リグド!?」


  一瞬でまた二人がやられたことに驚愕と恐怖の入り混じった悲鳴をあげるリーダーの虎の獣人。それに構わず、宙を舞っていた枝を収縮させて籠手の形に戻す。


  完全に元に戻ったのを確認すると今度こそ一歩踏み込み、刹那の時間で盗賊達の背後に回り込むと先ほど俺たちを監視していたと思われる獣人の腕を切り落とし、その手に持っていたダガーで首を斬りとばす。


  斬った際のスパンッ!というやけに大きく明瞭な音でようやく盗賊達が俺が背後にいることに気付いて振り返るが、俺はもうそこにはおらず、ただ草木があるだけだ。


  ではどこにいるかといえば……俺は空を飛んでいた。もちろん比喩ではない。龍神になったことで獲得した翼を背中から生やし、盗賊達の視界から消えたのだ。


  制空権を得た俺はそのまま手に持ったダガーを投擲、リーダーの隣に立っていた眼帯をしている狐の獣人の脳天に真っ直ぐに突き刺さるどころかそのまままた下まで貫通してしまった。


  狐の獣人の両脚の間に突き刺さったダガーは真っ赤に染まっており、それに追随するように狐の獣人に赤い亀裂が入る。そしてそのままぱっくりと半分に割れて絶命した。


  ダガーで俺の居場所に気づいた盗賊達が俺を見上げてくる。これ幸いと、俺は翼をしまって急降下、霊力で足場を形成して一回転し、踵を熊の獣人に叩き込む。


  踵が顔面にめり込むかと思ったが、俺の予想に反して踵が当たった瞬間熊の獣人は木っ端微塵に弾け飛ぶ。残りの獣人に血化粧と肉片が被さった。


「う、うわぁああぁあ!」

「ば、化け物!化け物だぁ!?」

「嫌だ嫌だ嫌だ!」


  仲間の残骸を浴びたことにより、パニック状態に陥る盗賊達。そんな奴さんらに構うことなく、俺は着地して霊力を解放、地面を操作して逃げようとしていた獣人の一人を土の槍で下から貫いた。


  同じように逃げようとしていた、兎の獣人……ヴェルのような人に近い姿ではなく、獣の要素が多い……を、霊力の足場と【立体起動】を駆使して一瞬で肉薄、背後から突き殺す。


「ふ、炎弾(フレイムバレット)ぉ!」


  と、そこで背後から恐慌状態に陥ったままの獣人が放った魔法が飛んできた。皇流〝透水〟であっさりと回避、新たに覚えた【転移】で一瞬で目の前に立ち斬り殺す。


  これで残りは五人。一つ一つ確実にカウントしながら、俺は盗賊を殺していく。エクセイザーを狙われたことへの怒りとは裏腹に、俺の思考は非常に冷静だった。


  まるで自分の中に、心が二つあるような感覚。しかしその相反する二つの心情は完全に独立しているわけではなく、常に一つのところに収まっている。


  エクセイザーやヴェル曰く、超越存在である神はその心のありようも通常の生物と比べて大きく異なるのだとか。それは俺も今この瞬間実感しているところだ。


  心を全て染め上げるほどの怒りを持ってなお、それを一つの感情としていとも容易くコントロールを可能にし、冷静に最も最適な判断をする。普通ならそれはどうしたって双方を阻害してしまうのだ。


  通常なら相応の鍛錬を積んで初めて可能になるそれを、今の俺は意識しなくても難なくできている。まるで、超高性能な処理マシンのようだ。


  それどころか、今の俺はちょうど良い機会だから今の俺の力が他人と比べてどれほどのものか試そうという考えまである。本当に並列した思考が複数ある気分である。


  人間の頃ならば西部を守る守護者になるためにより強い力を求めていたが、今は解放したステータスを上手く操れるかどうかに目的が変わっている。


  力を技術で制し、自分がコントロールできる限界を見極めることが今の俺に課せられた最大の課題だ。だからこの戦いの中で使ってもいい上限を模索している、という訳である。


  今の俺の力は、全て扱い切るにはあまりにも強大すぎる。もし使い方を誤れば、大切な誰かまで傷つけてしまうかもしれない。それは俺が最も嫌うことだ。


  〝あの時〟も、俺は自分を抑えきれずに魂を反転させ(・・・・)、過ちを犯した。それは俺の心に消えない傷として残っている。爺ちゃんがいなかったら、今の俺の人格はなかった。


  だから俺は人を守るものとして力を求め、それ以上に力を恐れる。もう二度とあんな思いはしたくない。


  まあ、だからこそ、それを受け入れてくれたシリルラ……瑠璃のことを、俺は心の支えとしているのだが。しかしそれ以上に愛情の方が優っている。


 《……不意打ちはやめてくださいね》


 あ、ごめん。


  それはともかく。その点において、【解放】という力は俺にとって非常に都合の良いものだった。幸い、長年爺ちゃんの元で修行を積んできたおかげで今の俺なら一パーセントきざみに力を使うことができる。


  だが、目の前の惨状を見るとそれでも過剰戦力なようだ。加えて、俺は日が経つごとにどんどん力が増していく。それはつまり一パーセントの力も増えるわけで、もっと細かい制御が必要になる。


  こうして超高速で動いている間にも解放したステータスをさらに抑え込んでいた。目指すは0.1パーセントだ。それでもいずれはもっと小さくしなくてはいけないのでエンドレスだが。


「ガッ……!」


  そんなことを考えているうちに、最後の盗賊を斬り殺していた。喉仏から剣を引き抜くと血飛沫が舞い、盗賊は地面に倒れ臥す。


  そこは、以前の平和な森の中にあった草木の生い茂る広場とは比べるべくもない凄惨さだった。足元には殺した盗賊達の骸や四肢が散らばり、濃厚な血の匂いが充満している。


  その様はまさに血の池、されど常識の外にある速度で移動していた俺の服には返り血は一滴もついてはいなかった。結果は上々、といったところか。


  手に握った血で真っ赤に染まったロングソードを見ると、無意識に霊力で刀身を覆っていたためか刃こぼれ一つない。それどころか、心なしか最初に強奪した時よりも輝いているように見える。


 《それは気のせいではありませんね。霊力の中に含まれていた神力が龍人様の動きに耐えられるように剣を変化させましたね。元の質がそこそこ良かったので、ちょっとした神剣になっていますね》


  ……あっ、はい。要するにまたトンデモなことをやっちゃったわけね。もう慣れたから驚かないよ。うん、オレ、オドロカナイ。


  やけにピカピカな元ロングソードに内心深い溜息を吐きながら、血振りをして地面に突き刺す。そしてゆっくりと後ろを振り返った。


「ヒ、ヒィイ!なんなんだよお前!?」


  そこには、腰を抜かして尻餅をついた盗賊のリーダーがいた。その顔に恐怖の表情を張り付け、怯えた目と震える声でヒステリックに叫ぶーーが。


「なんてな!お前ら、やれ!」


  次の瞬間、勝ち誇ったような顔をしたリーダーは突然立ち上がりそう叫んだ。だが、一向に何も起こる気配はない。あたりは静まり返ったままである。


「ど、どういうことだ?」

「お主が探しておるのはこやつらか?」


  思った通りの結果でなかったのか困惑するリーダーと俺の耳に、美しい女性の声が聞こえてきた。同時に、何かが俺とリーダーの間に放り込まれる。


  ドサッ、とやけに重々しい音で落ちてきたそれは……獣人の生首だった。すでに目に光はなく、だらんと舌が口から零れ落ちている。これだけ見るとただの獣の頭に見えるな。


  それをみて再び「ひっ!?」小さく悲鳴をあげて尻餅をつくリーダーを見ていると、近くの草陰からエクセイザーが姿を現した。そう、こいつらをやったのは彼女だ。


  全部で4つあるその頭の持ち主だったやつらは……リーダーが広場の周りの木陰に潜ませていた伏兵だ。レベルは全員50を超えており、精鋭だったのだろう。


  わざわざ斥候を放つような相手が、自分達が多大な被害を被った際の保険を用意していないとは思えない。こう言う輩は油断しきっているように見えて割と用意周到なのだ。


  だからこそ、俺が暴れている間にエクセイザーに片付けてもらうことにした。結果はこのとおりだ。彼女は完璧に作戦を遂行した。


  そして、それは当たり前のことだ。彼女はかつて西部を、そして今は国を率いる龍の女神。俺ごときとは重ねてきた年季が違う。


「お主の言うとおりじゃったな、龍人」

「ああ……ってことで奥の手も失敗に終わったわけだが、どうする?」

「くっ……」


  ……と聞いてはいるが、こいつを殺すことに変わりはない。全く守る必要がないとはいえ、エクセイザーを奪おうとした罪は重いのだから。


  ちなみにもしこれがシリルラの場合、こいつの故国のあるだろう南大陸に首を送りつけ、そのまま国ごと滅ぼす。異論は許さない。まあありえないけど。


  その考えに対するシリルラのバカセンパイ呼ばわりを頭の片隅で聞いていると、不意にリーダー…いや、虎の獣人がふらふらと立ち上がった。すぐさま意識をそちらに戻す。


  どう出るかと身構えていると、突然虎の獣人の口から笑い声が漏れた。この状況においてそれは非常に不気味であり、警鐘が心の中で鳴り響く。


「ク、クククク……こうなったら、こいつを使ってやる!」


  声高らかに叫んだ虎の獣人は、手に持っていた魔剣を掲げた。すると陽の光に反射してその刀身が怪しく輝き、内に内包された魔力が蠢く。何かするつもりか。


「我が声に応え、出でよ万物を破壊せしーー」

「それを俺が許すとでも?」

「グガッ……!」


  詠唱をしようとしていた虎の獣人の掲げられた腕を剣ごと籠手を纏った手刀で切り落とし、みぞおちに膝蹴りを叩き込んで吹き飛ばす。


  そのまま追撃を加えようとするが、宙を舞う腕に握られていた魔剣から突如巨大な魔力が膨れ上がり、それに危機を感じた俺はとっさに後ろに飛び退いた。


  その予感に応えるように、俺が着地したのと同時に魔剣の刀身がガラスが割れるような音ともにひとりでに粉砕、空中に巨大な漆黒の魔法陣が浮かぶ。


  そしてその魔法陣より現れるは、赤茶色の肌をした巨大な鬼。いや、一つ目の巨人(キュクロプス)といった方が良いだろうか。その体躯は周囲の木を軽く越している。




 ゴァアアァアアァァァアアァッ!!!




  魔剣の中に封印、あるいは召喚されたと思われるキュクロプスは解放されたことに歓喜しているように咆哮をあげる。魔力を伴ったそれは髪とコートの裾を激しく揺らす。


「ハハハハハ!さすがのテメェもこいつには敵わねえだろ!」


  今度こそ己の勝利を確信したのか虎の獣人は高笑いをあげ、キュクロプスに手をついて立ち上がる。俺たちを見下ろす一つ目の怪物は、まるで自分が上位者だとでもいうように殺気を叩きつけてくる。


  肌に突き刺さるようなキュクロプスの殺気……しかし俺は、それに対してどこか余裕な心境でいた。あの異形と比べれば、こんな図体がでかいだけの奴の殺気など皆無に等しい。


  あの異形は、俺にとって絶望そのものだった。それを乗り越え神となった今、この程度のプレッシャーなどそよ風のようにしか感じられない。


  無論、油断はしない。いくら異形より劣っているからといって圧倒的に体格はあちらが上、図体の大きさはそのままパワーに直結する。木を引き締めていこう。


  隣を振り向いて、一人で大丈夫か?と挑発的な目で見てくるエクセイザーに力強く頷く。そうすると地面に突き刺したままだったロングソードを引き抜いて半身を引き、腰を落として構えをとった。


単眼の王(キュクロプス・キング)、そいつらを叩き潰せ!」



 ガァアアアァアァァァアアァッ!



  虎の獣人の命令従い、キュクロプス・キングと呼ばれた巨人は叫びながら俺たちに岩山のごとき拳を振り下ろす。俺もまたそれを切り裂こうと剣を構えてーー。




 ドゴォォオオンッ!




  しかしそれは、唐突にキュクロプス・キングの頭が耳をつんざくような音ともに爆炎に包まれることで中断された。


  聴覚を麻痺させるような轟音が耳に響き、森中にこだまする。俺は思わず顔をしかめ、耳が敏感らしい虎の獣人は残った片手で頭を抱えていた。


  そして、それの発生源である攻撃を受けたキュクロプス・キングの体がぐらりと揺れる。どんっ、という地響きとともに両膝が地面につき、力の抜けた両腕が垂れ下がる。


  やがて、炎の赤が収まり煙が薄らいでゆく。するとその中から巨大な単眼が焼け焦げたキュクロプス・キングの頭が出てきた。開いた口からは未だ煙が立っている。


  いきなりの事態にキュクロプス・キングを呆然と見上げていると、どこからかジェット機のような空気を切る音が聞こえてきた。それはだんだんとこの場所に近づいてきており、そしてーー。




 ドンッ!




  次の瞬間、空から何かが落ちてきた。いや、着地したといった方が正しいだろうか。ともかく、目の前に着地した何者かによった強制的に意識が引き戻される。


  いきなり現れたそいつらは、背中に背負った機械からジェットのような銀色の筒を伸ばしていた。どうやらそれで飛んできたようで、熱で赤く発光している。


  やがて完全に廃熱を終えるとドロリと筒は溶解し、それまでジェットのアームが伸びていた穴の中に取り込まれていく。全て中に入るとガチン、と穴は閉まった。


  ジェットを収納したそいつらはゆっくりと立ち上がり、こちらを振り返る。そうしてこちらに向けられた顔に、俺は驚いて瞠目した。


  というのも、その三人組の集団はどこぞのヒーローよろしく全員頭部全体をすっぽりと覆う仮面で顔を覆い隠していたからだ。それも、それぞれ微妙に異なる形の仮面を。


  複雑なディテールの彫り込まれた仮面はそれぞれ、両手で目を覆ったもの、口を塞いだもの、耳を閉ざしているものの三つの形状をしていた。まるで見猿聞か猿言わ猿だ。

 

  さらによく見てみれば、その体もまた迷彩模様の走ったスーツと流線型のプロテクターで覆われていた。シルエットからして全員女性だろうか。こちらも仮面と同じように、それぞれでかなり違う。


  中央にいるのは全身に満遍なくダークグリーンのプロテクターを、右にいるのはそれを何倍にも厚くしたような重装甲の深い濃紺色のプロテクターを、左にいるのは両肩や首筋、関節部など要所のみを守った白色のプロテクターを纏っている。


  やけに機械じみた装甲をまとったその三人組はまるで品定めするようにじっと仮面の無機質な目で見据えると、興味を失ったようにふっと体の向きごとそらす。なんなんだ一体。



 ガァアアアァアァァァアアァアァ!



  訳のわからない集団に俺が困惑していると、突如としてキュクロプス・キングの叫び声が聞こえてきた。咄嗟にそちらを振り返ると、なんど煙を上げながら目が治っていくではないか。【再生】スキルでも持っていたのだろうか。


  すると、それを待っていましたと言わんばかりに三人組も一歩前に出る。キュクロプス・キングは自分を攻撃したのはこいつらだとわかっているのか、殺気の向きを俺たちからそいつらに変える。


  しかしそれを意にも返さず、三人組は一歩前に出た。そうするとポツリ、と小さな声で中央の女性がマスクの奥から呟く。


「……対象を発見。捕縛を遂行。ならびにそれを邪魔する要因の排除に移ります」

「「了解」」


  編成された二重の声音で放たれた命令に残りの二人は従い、隣に並ぶ。それを確認したリーダーと思わしき中央の女性は、置いてけぼりの俺に構わずにはっきりとした声で宣言した。


任務(ミッション)……開始」

読んでくださり、ありがとうございます。

これからも楽しんでいただければ幸いです。

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