二十七話 シリルラとは
楽しんでいただけると嬉しいです。
「……ん」
「あ、目が覚めましたか、センパイ」
気絶から意識が引き上げられ、眼が覚めて瞼を開けると、見上げる形で瑠璃のほっとしたような顔が最初に移った。
今回は眠っていたわけではなく、処理能力が追いつかなくて気を失っただけなので最初から五感がはっきりとしている。
つまり、後頭部にある柔らかい太ももの感触がダイレクトに伝わってきた。瑠璃が俺の頭をそっと撫でている感覚も。
……ああ、また膝枕をされているのか。さっきは転げ落ちるほど驚いたけど、気絶する前にされたことを思い返せばなんでもないな…嘘ですちょっと恥ずかしいです。
あまり思い返してもまたオーバーヒートしてしまいそうなので、すぐに頭の中に浮かんだ視界いっぱいの瑠璃の顔を打ち消して手を伸ばし、瑠璃の手に重ねた。
そっと頭から瑠璃の手を外すと、ゆっくりと上体を持ち上げて起き上がる。するとこれまで自分の寝ていた場所がベンチだったことに気がついた。
そのまま体の向きを変えて、ベンチの背もたれに背中を預ける。そうするとこほん、と一つ咳払いをしてから瑠璃の方を向いた。
「……お前がシリルラだってことはわかった。その上で、詳しいことを教えてくれ」
そう、さっきは色々とありすぎて困惑して気絶なんてしてしまったが、ちゃんとそこは知りたい。
真剣な顔で問いかける俺に、瑠璃はコクリと頷いて微笑んだ。
「はい、いいですよ。一通り楽しみましたしね。でもさっき言ったことは本心なので、勘違いしないでくださいね」
「ぐ……わ、わかった」
キスとともに放たれた告白を思い出して赤面する俺に、瑠璃はゆっくりと語り始めた。自分がどういう存在なのかを。
まず、もともとシリルラは下級神などではなく、地球のとある地域……俺の住んでいた街を含めた広範囲……それこそ県一つ程度の龍脈を管理する上級の神だったらしい。
ちなみに龍脈とは、大地に流れる自然の霊力の大河のようなものだ。俺が爺ちゃんと二人で住んでいた皇家の屋敷は、その龍脈の集中する点である龍穴に建っていた。
そしてその龍脈の管理者であるシリルラは数千年に及ぶ、ひたすら代わり映えしない生活に飽き飽きしていたようだ。
ある時シリルラは、ふと自分の存在を二つに分けて、片方を人間達の中に紛れ込ませようと考えた。
そうやって神として上から見るのではなく、人として隣で人間を見ようと思ったのだ。共に生き、本来なら一瞬にも感じる時を共有することで暇つぶしをしようとした。
そうして二つに存在を分割した時に神としての力も二分してしまい、結果として片方では下級神程度の格となったようだ。
龍脈を管理するために残る〝シリルラ〟には管理者としての神の力を、人間界に降りる〝白井 瑠璃〟には残りの半分ほどの力を残し、バランスをとっていたらしい。
そうして人の形をとった片割れを、シリルラは〝白井 瑠璃〟と名付けた。それが、俺が地球で一緒にいた方の片割れというわけだ。
そしてここが重要なところなのだが、シリルラは人間界に降ろした片割れと元は一つの存在であるがゆえに記憶を共有しており、シリルラの方も記憶として人間界を楽しんでいたようで。
「つまり今貴方の前にいる私は、正確には貴方がずっと一緒にいた白井瑠璃ではなく、白井瑠璃の記憶を持ったもう片方というわけです」
「なるほど、そういう事なんだな……ん? そしたら今、地球での龍脈の管理は…」
「そこはおいおい説明しますね…そうして私の片割れをいよいよ人間界に降ろそうと下界を見て…貴方を見つけたんです」
「俺を?」
ここで、俺がいきなり話に出てきた。きょとんとする俺にクスリと笑い、彼女は話を続ける。
今しがた言った通り、二分された一方をどこに降ろそうと下界を見た時……龍穴の上に住んでいる俺を見つけたということらしい。
「陰陽師という特異な存在、何より貴方の目を見た時…貴方に接してみたくなりました」
「……目、か」
たしかに……今思えば、シリルラ…瑠璃に出会う前の俺の目はかなり暗く淀んでいたのではないかと思う。
幼少期……俺の最大のトラウマである事件のこともあり、自分の力で人を傷つけてしまうのではないかと恐れて人と距離を置くようになった。
それにより淀んだ目に加えて、普通ではあり得ない灰色の髪もあり、幼馴染の男以外は見た目で周囲の人間達は俺に近づくことはなかった。
俺は本来寂しがり屋だ。爺ちゃんがいたから心身ともに鍛えられて引きこもることはなかったが、塞ぎ込んでいたのは間違いない。
彼女はそんな俺の目を見て、何を思ったのだろうか。
「人並み以上の力を持ちながら人を恐れる…そんな不思議な貴方に興味を引かれ、私の片割れは女学生として人間界に降りて貴方を観察しました。知ってますか? ずっと見てたんですよ」
「……そうだったのか。この髪色のせいで奇異の目には慣れてたから、気づかなかった」
「ふふっ、案外抜けてますよね、センパイって」
うっせ、と小さく呟く俺にシリルラがクスクスと笑う。くそ、ずっと見られてたってなんだか恥ずかしいな。
そして俺を観察する過程において、瑠璃は数多くの経験をしたらしい。それまでの龍脈を管理しているだけの日常とは全く違う、人間としての日常。
例えば勉強であったり、人付き合いだったり、現代に存在する数多くの文化であったり……当初の目論見通り、十分暇つぶしになり得るほど下界は楽しみにあふれていた。
そして、下界での苦楽共にある暮らしを楽しみながら瑠璃は俺の観察を続けて、やがて充分に観察し終えた頃。
「……あの日。私は貴方に接触するきっかけを作るために自然現象をいじり、雨を降らせました」
「…え、マジか」
まさかあの日の出来事は、シリルラの仕組んでいたことなのか?
「マジです。少し龍脈から霊力を引き出して雨雲を発生させました」
……つまり、最初から全部シリルラの掌の上だったってことか。確かに思い返せば、あの日朝見たニュースでは晴れと言っていた気がする。
苦笑いする俺に瑠璃は楽しそうに話し続ける。そうやって俺と接触し、一緒にいることで俺という人間を、そして俺が人を恐れる理由を知ろうとしたようだ。
あとは俺も知っている通り、四年にも及ぶ瑠璃との長い付き合いが始まった。今思い返せば、いろいろな事を一緒にしたもんだ。
例えば放課後一緒に街に行って遊んだり、カフェや甘味処に行ったり、瑠璃の勉強を手伝ったりと、他にも数え切れないくらいの事を体験した。
瑠璃との日々を思い浮かべていると、それをリンクしているので見ることのできるシリルラも柔らかい笑みを浮かべる。
やがて俺が物思いにふけっていた状態から元に戻ると、待っていてくれたシリルラは話を再開した。
「思った通り、貴方はとても面白い存在だった…それこそ、ずっとこのまま下界にいたいくらいに」
「……そ、そうかよ」
照れ隠しに思わぬぶっきらぼうな口調になる。一緒にいたいと感じていたのが自分だけじゃなかったことに思わずニヤける口元を押さえた。
とはいえ、からかわれてドキドキするなんてことは地球で散々やられてきたのでいつもの冗談だろう、と思い直す。
なんとか口元を元に戻してシリルラに向き直ると、彼女は少し恥ずかしそうに頬を赤くしていた。いきなりどうしたんだ?
「……じょ……だ…じゃ…あ…ませ…よ」
「え? すまん、声が小さくて聞こえなかった」
ボソボソと何事か呟かれた言葉にそう聞き返すと、シリルラは少し恨めしそうな顔でキッと睨んでくる。
「冗談じゃないって言ったんですけどね!」
●◯●
「……え?」
びっくりして目を見開くと、シリルラは指を突き合わせながら唇を尖らせ、いかにも不機嫌ですという風にボソボソと呟く。
「貴方と一緒の時を過ごすうちにどんどん貴方に惹かれていって、ずっとこの世界にいたいと……いいえ、貴方と一緒にいたいと、そう思うようになったんです。それは記憶を共有している私も同じなんですよね。言ったでしょう? ずっと好きだったと」
「あ……」
……そう、だった。気絶する前、俺はこいつに告白されたんだったっけ。
いきなりキスされた衝撃と、言いようのない歓喜が入り混じって頭がパンクして忘れていた。それにさっき、勘違いしないでくださいねって言われてたじゃないか。
もう一度、シリルラを見る。シリルラはかなり恥ずかしそうな赤い顔でこちらを睨んでいた。冗談だと思われたのが余程嫌だったようだ。
ちらりとシリルラの顔色を伺うと、こちらをジトーッとした目で睨むシリルラと目線が合う。かなりご立腹の様子だ。
こういう時は素直に謝るのが一番良いと思ったので、頭を下げて謝った。シリルラはそんな俺をまだじとっとした目で見ていたが、ため息を吐くともういいです、と言って強制的に話を再開した。
「それで、どんどんセンパイを好きになっていったわけですが……私のそもそもの目的である、人を恐れる理由を知りたいと常々思っていました」
「……それは」
「ええ、貴方はあの日、この場所で自分から話してくれた……貴方の人を傷つけることへの恐怖、それを抱えるようになってしまった理由を」
そこで一旦言葉を切ったシリルラは、自分の右手を胸に当てて嬉しそうな、それでいてしっかりとした声音で言葉を続けた。
「それを聞いて、私は心に誓ったんです……ずっとセンパイのそばにいると」
「……!」
「貴方が傷つけることを恐れ、人から離れるのなら、私がそばにいますね。貴方が死ぬまでで……いいえ、死んだ後も、ずっと貴方の魂とともに…そう決めました」
「シリルラ……」
…まさかあの時、あの話を聞いてそんなふうに考えてくれていたなんて。決して心地の良いものではなかったはずだ。むしろ、普通なら嫌悪を抱く。
ふと脳裏に、瑠璃にこの話をした時のことが思い浮かぶ。あの時も彼女は、俺を軽蔑などしないと、私はずっと味方だと言ってくれていた。
他の人間と同じように薄気味悪がって、近寄らないはずなのに……それなのに、受け入れてくれたんだ。本人から詳しい話を聞いて、よりそれを実感できる。
思わず涙がこぼれそうになるが、ぐっと我慢してシリルラに向き直る。そしてお礼を言おうととして……口をつぐんだ。
何故かって? だって……さっきまで聖母のごとき優しい笑みを浮かべていたのに、なんだかとっても怖い目をして笑ってらっしゃるんですけど。
「シ、シリルラ?」
「ふふふ……それなのに…あのクソポンコツ創造神は……!」
おいなんか今すごい言葉が聞こえたぞ!?
「えっと……」
「…ああ、すみませんねセンパイ。ちょっとあのポンコツな創造神に殺意が湧いただけですね」
「ぽ、ポンコツって……ていうか創造神って、もしかしてイザナギ様のことか?」
「はい……さてセンパイ。ここからが本番です。今までの話は前置きだと思ってください」
なんだかまだ不気味な感じのする微笑をニッコリと浮かべたシリルラにぶるりと寒気がした俺は姿勢を正し、こくこくと縦に首を振った。
そんな俺にシリルラは怖ーい笑顔を見慣れた困ったような笑いに変えて、そんなに緊張しなくてもいいですよと言ってくる。いや、さっきの顔見せられたら誰でも固まるわ。
とりあえず、肩から力を抜いて姿勢を元に戻し……まあ元々背筋を正してはいたが……話の続きを聞く体制に入る。
「そうして貴方と永遠にともにいる覚悟をしたわけですが……それから間も無く、貴方は死にました。あのポンコツなクソ創造神のくしゃみによって」
「……あ、ああ」
俺の数える限りでは既に何回か繰り返されているポンコツとクソという言葉に少し引っかかりを覚えるが、とりあえず頷く。
……思い返してみれば、くしゃみで殺された俺って何十億人もいる人間の中でも一番情けなくてしょぼい死に方じゃないか?
しかもその後、常人だったら即座に死ぬような場所に間違えて転移させられるとか……まあ、そのおかげでエクセイザーや他のみんなに出会えたけど。
それを加味しても……うん、やっぱりイザナギ様はシリルラの言う通りポンコツかもしれん。転移して直後のメールでも自分で言ってたし。
ちょっとイザナギ様にイラっとしていると、それをリンクで筒抜けなので感じ取れるシリルラがうんうんと同意していた。
「で、私は貴方がヒュリスに送られた直後、イザナギ様を締め上げましたね」
「締め上げちゃったの!?」
ぐっと拳を握っていい笑顔で言い放つシリルラに思わず突っ込む。日本神話の中で最高に近い場所に位置する相手になんて恐れ知らずなことを。
俺の知る日本の神々の位置付けは高天原の三大神である天御中主神、高皇産霊神、神産巣日神を最高とし、その下に伊邪那岐神、伊邪那美神、さらにその下に無数の神々という具合だ。
シリルラに尋ねてみると、どうやらそれは間違いないようで、三大神を最高神としてその下にイザナギ様、その下に上級神、中級神、下級神、四聖獣、大精霊、精霊という感じなのだそうだ。
その上級神の中でもシリルラは上の上に位置するかなり強い力を持った上級神ならしく、二分した今も下級神とは言うものの、上級神の下位程度の力は持っているのだとか。
「まあ、だからこそ準最高神であるあのポンコツ神を締め上げに行けたんですけどね。その時だけは数千年に渡る退屈な龍脈の管理を真面目にしていて良かったと思いました」
そ、それは良いのか悪いのか……いや、結果的に良かったのか? ていうかもはやちゃんと名前を呼んでねぇ……。
「んんっ、話を本軸に戻しましょう……私はポンコツ神を締め上げて、ポンコツ神が転移ミスのフォローとして送ろうとしていた下級神として貴方の下へいけるようにしました…地上にいた片割れに、龍脈を管理する力を押し付けて」
「……そういうことだったのか」
これでようやく合点がいった。先ほど気絶する前に言った、「片割れに後を押し付けて」という言葉の意味。あれはこういうことだったのか。
「今思えば、片割れには悪いことをしました……私がやるべき責務を押し付け、実際に共にいたわけでもない、ただ記憶を持っているだけの私が……」
そう言ってそれまでの調子は何処へやら、暗い顔をするシリルラ。 それに何か言おうとするが、すぐに口を噤んでしまう。
なぜなら、その通りだから。確かに俺がずっと一緒にいたのはシリルラじゃなくて、瑠璃の方だ。シリルラはただ記憶を共有していただけで、実際に地球で俺といたわけじゃない。
それに、瑠璃に押し付けた龍脈の管理というのも気にかかる。本来の半分の力しか持たない彼女は今、大丈夫なのだろうか。
考えれば考えるほど、悩みは出てくる。けど俺は、シリルラの言ったことで彼女を責めるつもりは毛頭なかった。
「……確かにそうかもな。お前は瑠璃じゃない。シリルラだ」
「っ……そう、ですよね。やっぱり私なんかが…」
「ああそうだ……でも考えてもみろよ。ヒュリスに行ってから、俺と一緒にいてくれたのは誰だ?」
「え? あっ……!」
シリルラは俺の言葉に一瞬わけがわからないと惚けた顔するが、すぐに理解したのか驚いて瞠目する。
「あっちに行ってからそばにいたのは、瑠璃じゃない……お前だ。確かに一緒にいた時間は8ヶ月弱って短いけどさ、それでもそこにいたのはお前なんだよ」
「でも、それは瑠璃の記憶を持っていたからであって……」
まだ暗い顔で呟くシリルラに俺は苦笑いして、その頭に手を置く。
「…じゃあ聞くけど。お前はこの8ヶ月間、俺と一緒にいてどうだった? ちなみに俺は楽しかった。それはお前が瑠璃の片割れだからじゃない。考えもみろよ、そもそも俺はお前が瑠璃の記憶を持ってるなんて、さっき知ったばかりだぞ」
「あ……」
「だから何が言いたいかっていうとだな、俺はヒュリスでお前と…シリルラと一緒に過ごして楽しかった。それは、瑠璃じゃなくて、お前と培った記憶だ。それに対してーー」
ーーお前は、どうなんだ?
●◯●
俺の投げかけた問いに、目を見開いたシリルラは顔を俯かせる。その姿からは葛藤や迷いといったものが感じられた。
しばし、沈黙の時が流れる。シリルラはそれまでのことを思い返しているのだろうか、ずっと俯いたままだ。俺はそんな彼女から目を離すことなく、じっと待ち続ける。
……悩んで当然だろう。俺は最初からシリルラが瑠璃だと知らなかったら、シリルラの部分だけを見てすぐに言葉に出すことができた。自分でも驚くほど、するすると言葉が出てきた。
でも、シリルラは違う。最初から俺のことを瑠璃として知っていて、そこから元から持っていた瑠璃としての感情を抜いた、シリルラとしての思いを見つけなくてはいけない。
少し偉そうな言い方になってしまったけど……要するに、すぐに結論は出ないと思う。だからいつまでだって俺は待ち続ける。
「……私は」
「ん?」
のんびりと湖を見て和んでいると、ポツリとシリルラの方から声が聞こえてきた。答えが出たのかとそちらを振り向く。
そしてシリルラの顔を見て……思わず息を呑んだ。なぜなら彼女は今にも泣きそうな…いや、目尻に涙をためた、そんな表情で俺を見ていたのだから。
その顔が不謹慎にも、可愛いと思ってしまった。それは瑠璃としてではなく、シリルラとしてだったのだろうか。この時の俺にはすぐに判断できなかった。
「私はっ…私も、楽しかったです! 本当はいけないって…私じゃダメだって…わかってるのにっ……でも、一緒にいればいるほど…龍人様と一緒にいたいって、そう思って……!」
「っ……そっか。どっちとも一緒にいて楽しいなら、それでいいんじゃないか」
「龍人、様……」
未だ流れるシリルラの涙をはにかみながら、体を傾けてなぜかズボンの後ろポケットにあったハンカチを取り出して拭う。我ながらこの行動は気障っぽくて俺の柄ではないな…。
あらかたぬぐい終えると、こちらの恥ずかしさが限界になったのでシリルラの方に傾けていた体を元に戻そうとする。が、腕を両腕でガッチリとホールドされてれて動けなくなった。
一体何を、と言おうとするが、シリルラが「少しだけ……」、と呟いたので、仕方がなくそのままにした。シリルラから良い香りがしてドキドキするのは内緒だ。できないけど。
体感時間で数分たった頃。ようやくシリルラが腕から体を離した。思わず内心ホッとする。ドキドキしっぱなしだったからな。
心を落ち着かせるとシリルラを見た。すると彼女はこれまでで一番恥ずかしそうな赤い顔を見られないよう髪で隠していた。
「……すみません、いきなり」
「…あ、ああいや、別に気にすんなよ」
……まあぶっちゃけ嬉しかったし。好きな子に抱きつかれて嬉しくない奴などいるのだろうか。いや、いない。
「……聞こえてますよ」
「あっ、ごめん」
「……いえ。それよりも、少し湿っぽくなりましたが、これで説明は終わりです。私という存在をわかっていただけましたか?」
「ああ、しっかりと」
「そうですか…それは良かったです」
そう言ってにこりと笑うシリルラにどきん、と心臓が高鳴る。無性に恥ずかしくなって顔をそらすとすっかり調子を取り戻したシリルラがくすり、と笑うのが聞こえた。
……まあ、それはさておき。色々と人間の俺からしたら凄まじいことを聞いたわけだが、俺はシリルラの…ひいては瑠璃のことを深く知ることができた。
話を聞き終えて、俺が最初に思ったことは……嬉しさだった。胸の内をいっぱいにするような特大の嬉しさが全身を駆け巡る。
地球でひとりぼっちだった俺を見つけてくれた。一緒にいて心を満たしてくれた。過ちを犯した俺を受け入れてくれた。それがどれだけ救いになったことか。
そしてなによりも……死んだ俺を異世界まで追いかけてきてくれた。そんな彼女に、俺は言いようのない歓喜を覚えている。
でも、嬉しさ以上に……これまでもずっと胸の中にあった好意の感情……すなわち愛着が溢れ出るほどに沸き起こってきた。
……彼女は、俺のことを好きだと言ってくれた。それなのに俺は、一度も好きと彼女に言っただろうか。少なくとも言葉にした覚えはない。
確かに心がリンクしているから、俺の好意は嫌という程伝わっているはずだ。だが、口に出して言わなければいけないことはどんなに恥ずかしくても言うものなのだ。
特にこういう気持ちに関することならばなおさらである。ただ側にいて満足しているだけではこれまでと何も変わらない。俺は、その先に進みたい。
だから今から俺は、この気持ちを彼女へ伝えようと思う。しっかりと言葉にして、全力で自分の思いをぶつける。
そうと決まれば、早速実行に移すためにシリルラの方を向いた。するとすでにスタンバイ状態で待っている。まあ考えてること筒抜け出しな。
「んんっ……シリルラ」
「はい、なんですかセンパイ?」
あえてセンパイ呼び…祖霊楽しそうな表情してやがる。やっぱりこいつ意地が悪い。まあそれはともかく。
「……好きだ、お前のことが」
「……!」
「自覚したのは死んでからで、遅いにもほどがあるけど……地球にいた頃から、ずっと好きだった。こんな俺と一緒にいてくれて、受け入れてくれて……すごく嬉しかったんだ」
「ふふ……そう言ってくれて、私も嬉しいです」
「お前のいたずら好きなところとか、でも優しいところとか、可愛い笑顔とか、ちょっとした仕草とか……言い切れないくらい理由はある。でも一番の理由は…やっぱりお前だからだ」
そんなずっと一緒だった〝白井瑠璃〟のことを、もっと見ていたい。まだやっていない色々なことをお前と一緒にやりたいんだ。
だから、俺は……。
「お前が好きだ」
「……そうですか。さっきも言いましたけど、私もーー」
「でも、それだけじゃない」
「えっ?」
それだけじゃないんですか?といった顔をするシリルラに俺は微笑み、言葉を続ける。
「俺は、シリルラとしてもお前が好きなんだ。俺が落ち込んだ時に励ましてくれたことや、俺の話し相手になってくれたこと、迷った時に導いてくれたこと……一緒にいるうちに惹かれてた。まあ、自覚したのは話を聞いたからだけどさ」
「龍人、様……」
なんだか恥ずかしくなってきて、照れ隠しにはにかんだような笑みを浮かべながらぽりぽりと後頭部をかいた。
シリルラはまさか俺がこんな告白の仕方をするとは思っていなかったようで、珍しくあわあわとした様子で顔を赤くしていた。
それが何だから面白くてくすりと笑うと、こちらをちょっと恨めしそうな顔で睨んでくる。その仕草さえ可愛いと思えた。
一通りシリルラの反応を見終えると、一度咳払いをして気分をリセットする。そして真剣な表情をしてシリルラを見た。
「だから、要するに何が言いたいのかというと……これからもずっと、一緒にいてくれるか?」
「っ………はいっ!」
シリルラは返答とともに、まるで感極まったようにこちらに抱きついてきた。思わずビクッとするが、悪い気はしないので思わずあげた手を下ろす。
しばらくそのままだったが、シリルラが顔を上げてこちらを見る。一体何かといえば、なにやら不満げにジローっとこちらを見ていた。
首を傾げていると、体に回された両腕に力が込められる。するとギリギリとものすごい力だった。ちょ、痛い痛い!さすが上級神ってとこか!?
また気を失ってはたまらないので、もしかしたらと思い俺もシリルラの背中に両手を回す。すると満足そうに笑い、力を抜いてくれる。内心ホッとした。
……ちょっと調子に乗って、片手だけ背中から離して頭を撫でてみる。するとシリルラは一瞬驚いたが、すぐに上機嫌そうに胸に頬をこすりつけてきた。
「ふふふ……」
幸せそうな声を漏らすシリルラに、これから大切にしようとそう心の中で決意するのであった。
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