十二話 魔物お嬢様の訪問 前編

　今日も今日とて修行に励む。

　 テラスの上を縦横無尽に動き回り、目の前にいる影と激しく拳を、足を打ち付け合う。俺も『相手も』【龍鱗】を纏い攻撃をしているが故に、森の中にまるで鉄塊を打ち付けあっているかのような激突音が響き渡り、互いの攻撃をいなすたびに衝撃波がその身を震わせた。

「シッ！！！」

　 目の前の自分と瓜二つの形をした真っ黒な影の胴に向かって、左右から鉈のように直線にした腕を薙ぐ。が、影はふわりと体を浮かばせると振るわれていた俺の腕と自らの左腕を軸にして回転し、こちらの顔に回転のかかった蹴りをかましてきた。

　 それを顔を落とすことで回避し、ようやく勢いの緩んでいた腕の片方で影の足をむんずと掴むとそのまま地面に叩きつけようとする。しかしまた影はするりと足を抜き、二、三回バク転をしてテラスの上に着地した。

　 そして、お互いをじっと見つめあい、まるで隙を伺うようにじりじりと距離を詰めていく。

「『………』」

　 やがてしびれを切らしたように、全く同じタイミングで右半身を引き、両腕を肩と水平にする。右拳は開いて素早く振るえるよう、対照的に左拳は力強く握り締め、いつでも重い一撃を打ち出せるように準備をしていく。

　 皇流殺術が一ノ型、『陰陽』。それがこの構えの名前。右と左、光と影のように対極の形からついた名だ。同時に、俺の最も得意な型でもある。

　 『陰陽』を型作ると、なんの偶然か構え終わった瞬間に【龍鱗】による魔力で覆われた剥き出しの上半身から、一雫の汗がこぼれ落ちる。それを合図にして、俺は影へと肉薄した。

　 突進してきた俺を見て構える影の眼前で、いきなり強く右足を踏んで急停止する。そして顔があれば驚愕の表情を浮かべているであろう影に向かって、先ほど影自身がやったように右足を軸にして体ごと回転し、握った左拳を叩きつけた。影はとっさに構えを解き、腰を落として腕をクロスさせ俺の拳を受け止める。

『っ……』

　 が、霊力で構成された影に同じく【龍鱗】で霊力を纏わせている拳は効果てきめんだったのか一瞬腕が崩壊する。それにすぐに気づいた影はバックステップで距離を取ろうとするが、右手で影の二の腕をむんずと掴むと、片足で飛び上がってその腕に膝蹴りを食らわせた。すると影の腕は折れる代わりにボコンッとへこみ、そこへ上からチョップの要領で右で振り下ろして追い打ちをかければ、完全に影の腕は分断された。

『…！』

　 赤く輝く双眸を見開き、再び驚愕に顔を染めた…ように見えた影は今度こそ後ろに跳びのき、こちらを警戒するように姿勢を低くする。

　 俺が手の中にある影の腕だったものを投げ捨てると、テラスの上に落ちた途端腕は霧散し、同時に影は潰れた箇所からボコボコと新しい腕を生やす。新たな腕には、真っ黒な一振りの剣が握られていた。

　 それを見た俺は、後ろ腰に差していた剣を左手で引き抜く。現れた刀身は日に反射して輝く美しい銀色。しかし、エクセイザーではなくドラゴエッジだ。その証拠に、柄頭には見るものを萎縮させるような黄金色の瞳がはめ込まれている。

　 ドラゴエッジを逆手に構え、じりじりと影と距離を詰めていく。

「ふっ！」

『ッ！』

　 それから数秒もしないうちに、俺たちはまたぶつかり合った。影の剣と銀の剣を激しく打ち合わせ、時に拳打を、時に脚撃を繰り出しながら、まるで嵐のようにお互いの力をぶつけ続ける。

　 しかし、いつまでたっても決着がつく気配は全くなかった。当然だ、俺と影の力は拮抗…いや、寸分の違いもなく同じなのだから。

　

　 そもそも、先程から俺が戦っているこの俺そっくりの影は何なのか。その答えは明快単純、俺が霊力で作り出した偽物の俺だ。

　 元来肉体とは生き物の記憶や心、感情に至るまで内包した魂をこの世に存在するすべてのものに干渉できるように生まれた器だ。しかし、魂の力である霊力なくして肉体は保てない。

　 具体的に言うと、肉体の中でも維持に霊力を多く使う場所…魂から感情や思考、記憶を引き出す器官である脳と、霊力の起点と同時にかなめの役割を担う心臓、この二部分を主として霊力は血液を通して身体中を駆け巡り、この全身を保っている。また、これらが完全に破壊されてしまうと魂が肉体から剥離してしまうので、何かと命をかける戦いをするときは注意しなくてはならない。

　話を戻そう。

　 この影の俺はそれを応用し、体の中の器官や筋肉、骨格構造をすべて霊力で完全に再現した人形のようなものだ。だが独立して暴走しない程度の思考を持たせているので、そのかりそめの身に宿る力を存分に発揮することができる。

　 つまりは、鍛錬をしたい時に格上、もしくは格下の相手がいなくても同等の力を持ったやつ相手に鍛錬をできるということだ。今はそれをやっており、同時に今自分が全力を出してどこまでやれるか確かめてもいる。少し前まではできなかったのだが、練習に練習を重ねてうまく存在を安定させ、なおかつ激しく動いても平気なレベルまで引き上げることができた。

【影舞《えいぶ》】

　 己の魔力（霊力）を使ってかりそめの自分を作り出すスキル。異世界に存在する流派のスキルであり、固有スキルであるが故に他の誰かが取得することは、スキル保持者から教授してもらう以外に可能性はない。

　 その成果か、こうやってスキルとしても具現化している。初めて知った時は驚いたが、何となく自分の努力を認められた気がして嬉しかった。

　

　 ちなみに俺個人としての力を確かめたいので、シリルラやエクセイザーの助力はなしだ。それを伝えた途端、顔は見えねども…エクセイザーはともかくシリルラの顔は一度も見たことはないが…二人ともひどく不機嫌になっていたのが、声だけでありありとわかった。申し訳ないと思う反面、俺なんかの役に立ちたいと思ってくれていることに強い喜びを感じる。

「ラァッ！！！！」

『ッ！！！！』

　 そんなことを考えている間にも、現実では影と交戦をしている。地球にいた頃ならばよそ事を考えながら鍛錬をするなんてことは実力的にも爺ちゃんに植え付けられた信念的にもできなかったのだが、今はあえて別のことを考えながらやっていた。余裕を持って戦う、というのも大切だと考えた結果である。

　 胴めがけて放った鋭い逆袈裟斬りを、影は黒剣で防ぐ。しかしそんな暇もなく身を翻すと体の回転を加えた上段斬りをかました。影は常人離れした反応速度でそれを防ぐが、しかし影の胸元には二筋の傷が走る。

『…！？』

「そら、よっと！」

　 驚いている影に拳打を食らわせ、よろめいたところに足払いをかける。が、そこで動揺を収めた影は飛び上がって回避し、アクロバティックな動きで回転斬りを放ってきた。それを銀剣と右手に霊力を凝縮させて防ぎ切る。

　 くっ、やっぱこの程度は凌がれるか！変な言葉だが、自分の力を舐めてた！

　 そこからは先ほどまでの形勢が逆転し、影の繰り出してくる剣戟をひたすら捌き、防ぐことしかできない。あらゆる角度、型以外にとっさの状況で俺が考えつくであろう斬撃を影は飛ばしてくる。俺のレプリカのようなものなのだから当然とも言えるし、逆に自分がやろうとすればここまでの動きをできるのかという脅威も感じた。

『！！』

「ぐっ！」

　 ギィンッ！！！！！という甲高い音を立てながら、短刀のように逆手に持った俺の銀剣と影の黒剣がぶつかり合って火花を散らす。そのまま影は右足を強く踏み込み、こちらに圧をかけてきた。この世界では最強以上の筋力で押し込まれているので、同じ筋力値を持っているとしてもキツい。

　 防戦一方な俺を見て、影は勝利を確信したような雰囲気を醸し出した。ないはずの口元を歪め、怪しく光る赤眼を細めてさらに力をかけてくる。

　 しかし、俺にこのままやられる気はなかった。

　 フッ、と圧に対抗していた力を抜き、わずかに右に体をずらして黒剣の腹に銀剣を滑らせる。すると当然力をかける先を失った影は重心を崩し、無防備な状態になる。

　 皇流殺術が五ノ型、『透水』。まるで野山に流れる水の如く透き通り、力に縛られず柔軟な動きを可能とする意を込めた型。

　 無防備になった影の腹部に、体重のこもったミドルキックを食らわせる。影は血を吐く代わりに粒子のような霊力を吐き、腕から力が抜けたのか黒剣を取り落とした。

『ッッ！？！？？』

「シッ！」

　 その隙を逃さず、今度は下から銀剣を煌めかせ両腕を切り落とす。それで終わらせず、空いていた右手で脇腹めがけてストレートを叩き込んだ。

　 打撃により影は大きく吹き飛び、テラスの端で手すりに激突して止まる。両腕を構成していた霊力を失ったことにより、すでに体の維持をするのも難しいのか姿がぶれ始めていた。

　 それを見ながら、俺は銀剣をくるりと回転させて持ち直し、右腰だめに構える。まるで抜刀術のように右手を銀剣を包み込むかのような形にし、腕を通して銀剣に霊力を注ぎ込んでいった。

「フゥゥゥゥゥ………！！」

『ッッ！！！』

　 俺がやろうとしていることを理解したのか、影は慌てた様子で自分に残っている霊力で障壁を張ろうとしていた。

　 俺がやろうと…放とうとしているのは剣に霊力を乗せ、斬撃波を飛ばす技だ。直接肉体にもダメージを与えるが、主な目的は相手の体内にある霊力…この世界では魔力を切断し、巡回させなくすることだ。

　 もし頭部や心臓に当たれば全身への供給が止まり、死に至ってしまうが、幸い今やろうとしている相手はかりそめの自分自身。何も遠慮することはない。

　

　 そう考えているうちに、剣全体に満遍なく霊力を行き渡らせる作業を終える。高密度で循環する霊力は甲高い音を立て、聞くものに本能的な恐怖を感じさせるだろう。事実、影は先ほどより焦った様子で障壁を少しでも厚くしようとしている。だが、それを俺が待ってやる理由はどこにもない。

　 強く右足を踏み出し、かと思えば一瞬で影の前に立つ。皇流歩術『瞬光』、足の裏に霊力を圧縮して破裂させることにより、爆発的な超速移動を可能とする技術だ。

　 一瞬で目の前に現れた俺に、影は反射的に口に該当する部分に穴を出現させ、霊力のこもった咆哮を浴びせてくる。しかしそれを同じく覇気のこもった咆哮で封殺し、それに連動させて霊力を極限まで研ぎ澄ましたドラゴエッジを逆袈裟に振り抜く！

「セイヤァァァァァァッ！！！」

『ーーーーー』

　 新月のような斬撃波となって放たれた霊力の波動は目論見通りに寸分たがわず影の体を両断し、さらにその余波で完全に影を消し去った。そのまま余剰した霊力は破魔の力を保ったまま俺を中心として周囲に向かって円形に広がってゆき、森の大木たちを激しく揺らす。生物は近くには俺以外何もいないはずなので巻き込まれて死ぬということはないはずだ。

　 よし、いい感じだ。これで影との戦闘は二十戦中九勝四敗七分け、順調に自分の実力を測れてーー

「リュートー！遊びにきましたわよー！」

　ーーッ！？

　 不意に、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

　 幼くも元気のある少女のものであろうその高めな声はつい数週間前から馴染みのあるものとなっており、つまりは俺の親しいものであることを示す。『彼女』は定期的に俺のところへ遊びにきていて、案外寂しがり屋だったことが最近わかった俺にとっては喜ばしいことなのだが、今は最高にタイミングが悪い！

「伏せろっ！」

「伏せるのじゃ！」

「え？何を仰ってーー」

　パァンッ！！！

　 慌てて振り返った俺とテラスのへりに座り人間態で俺の修行を見ていたエクセイザーが少女に向かって警告を発するが、時すでに遅し。破魔…つまりは魔力を破る霊力の波は彼女へ直撃し、直接ダメージの代わりに魔力で構成された彼女の着ていたドレスを勢いよく弾けさせた。

　 魔力波が消え、やがて周囲の木々も落ち着きを取り戻す。そうすると何も音を発するものはなくなり、硬直している俺とエクセイザー、何が起きたのか理解できず呆然とする素っ裸の彼女だけが残される。

　 が、しかしそんな光景も長く続くことはなく、やがて自分が今どんな姿をしているか自覚した彼女の顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていった。そのまま両手で自分の胸を覆い隠し、背中から生えた一対の蝙蝠のような翼で秘部を覆う。

　そしてこちらをキッと睨みながら……

「リュート様の……エッチ」

「すんませんでしたぁぁぁぁ！」

　 俺はドラゴエッジを投げ捨て、高く飛び上がると空中で三回転した後綺麗なジャンピング土下座をかますのだった。そんな俺を、エクセイザーが呆れた目で見ていたのは言うまでもないだろう。

　●◯●

　 強制ひん剥き事件（俺命名）から十数分後。

　 現在俺は水魔術で自らの体を綺麗にした後、上半身の服をしっかり着た後テラスでテーブルを引っ張り出してきて、未だぷりぷり怒っている彼女の前に座って気まずそうにしていた。

　 当然である。せっかく遊びにきてくれたのに、いきなり身ぐるみ剥がされたのだ。彼女でなくてもみんな怒るだろう。むしろ怒らないのは変態か露出狂くらいかな？

　 そんなくだらないことを考えていると、彼女に横目にジロリと睨まれる。

「…私《わたくし》にあんなことをしておいて、何かとてもくだらないことを考えてません？」

「いえめっそうもないですはい」

　 即答するもどうだか、とほんのり赤い顔をぷいっと横に背けながらツンとする彼女。しかし、その態度に俺は何も言えない。さっきも思ったが、今回は完全に俺が悪いのだ。

　 なので、彼女に許してもらうには正直に謝るしか解決方法はない。

「……なあ」

「…………………………なんですの」

　 しばらくの間が開いた後、彼女はこちらに視線だけを向けて答える。これ幸いと、俺はもう一度頭を下げた。

「さっきは本当にすまなかった。女の子にはすごい恥ずかしいことだったよな。俺は男だから理解できるとは言わないけど、でも謝らせてほしい」

「………」

「もし許してもらえるなら、俺なんかでいいのならできる範囲でなんでも言うことを聞くから」

「……！」

　 俺がそう言った途端、彼女の肩がピクリと僅かに跳ねる。そしてまだ少しむすっとしながらも、明らかに何かを期待するような目をこちらに向けてきた。

　

「じゃ、じゃあ……そちらに行ってもよろしいですか？」

「いいけど……」

　 こちらに来て、一体何をどうするつもりなのだろうか。そう俺が疑問を抱いていると、椅子から立ち上がった彼女はそばに寄って来たかと思うと、なんと俺の膝の上に座った。その時、ふわりと彼女の黒髪が揺れて甘い匂いを発する。それにより、少しだけ心臓が高鳴った。

「えっと…」

「そ、その…頭を撫でてくださいます？」

　…ああ、なるほど。そういうことか。

　 彼女の望むままに俺は右手を彼女の小さな頭に起き、そのまま左右に動かす。すると「あっ…」という声を出した後、えへへと可愛らしい笑みを浮かべた。どうやら先ほどの怒りは多少は治まって来ているようだ。

　 ていうか、おふ…これ、めっちゃ癒されるなオイ。癒し的存在なんて俺史上地球でのあいつ以来二人目だぞ。ちなみにあいつとこの子どっちとも可愛いが、好意がある分あいつの方が多分癒されるだろう。

　《…なるほど。つまり龍人様はロリコ》

「うおいっ！？」

「きゃっ！」

　 俺がいきなり大声を出したことにより少女が驚くが、今はそれどころではない。シリルラさんや、いまの言葉はさすがに聞き逃せねえですぜ！？

　《……ご心配なく。ほんの冗談ですね》

　 そ、そう？マジで冗談なんだな？そうだよね？もう一回確認するけど、冗談でいいのな？

　《おや。そこまで必死に否定しようとするということは、実は本当にーー》

　 だから違うから！俺は断じて幼女趣味なんぞ持ち合わせてないから！普通の女の子が好きです！同世代はサイコー！

「全く…一体何をくだらないことを言い争っているのじゃ」

　 シリルラとくだらない言い争いのようなものを繰り広げていると、ログキャビンの扉をあけてその手に三人分の彫刻の施された木製ティーカップと土ツールのポットを持ったエクセイザーが出て来た。そして俺たちの脳内での声を聞いていたのか呆れたような目を向ける。

　 いやでも、うん。呆れられるのも仕方がないことで言い争ってたのは事実なんだけどな？というか、シリルラの口調がどこか照れ隠しに感じたような気が…

「ほれ、お主もいつまでイチャついておるのじゃ。はよう席に付かぬか」

「あっ……そっ、そうですわね！リュート様、今回のことは不問としてあげますわ！」

「おう、ありがたき幸せだ」

　 俺の返答に満足したのか、一つ頷いてから俺の膝を後にして自分の椅子に向かう。やれやれ、ようやく許してもらえたか。

　 彼女が席に着くとテーブルにティーカップたちが置かれ、その中に紅茶が注がれる。中身は西部を探索する中で手に入れた茶葉だ。

「ほれ」

「お心遣い痛み入りますわ」

「うむ…こっちは主のじゃ」

「サンキュ」

　 最後にエクセイザーは自分の分を注ぎ、座る。そうすると誰からともなく、ティーカップを持ち上げて中身を口に含んだ。そしてすぐにその美味さに目を見開く。

「まあ、美味しいですわ」

「ああ、相変わらずすごいな」

「ふふ、褒めてもおかわりしか出ぬぞ？」

　 いや、むしろそれで十分だろう。そもそも、この地球のような高度文明が存在しない森の中で紅茶を飲めるなど贅沢にもほどがある。それ以上を望むことなどできない。

　 ちなみに、日本人としてそこはお茶ではないのかと言われそうだが、俺は温かいお茶と紅茶、どちらとも好きだ。…どうでもいい情報だな、うん。

　 くだらないことを考えながらしばらく紅茶をすすり、和やかな時が訪れる。それが破られたのは、体感時間で十数分後のことだった。

「…あらためて。よく来たな、〝リィス〟」

「ええ。ご元気そうで何よりですわリュート様」

　 歓迎の言葉を送る俺に彼女…リィスは、柔らかな微笑みをたたえながら上品な仕草で挨拶を返してきた。初対面の時から変わらない優雅な佇まいと、それが微妙に似合いきらない幼くも可憐な姿に少し口元を緩める。

　 紹介が遅れたが、この少女の名はリィス。西部地域の一部を治めるデュラハンとヴァンパイアの夫妻の一人娘だ。つい数週間ほど前に知り合い、以来兄妹のような距離感で仲良くさせてもらっている。

　 彼女は〝ハイダークネス〟というこの世界に少数しかいない特異な魔物ならしく、デュラハンとヴァンパイアというアンデッドの上位種同士のハイブリッドであるがゆえに、その齢《よわい》十に届くか否かの未成熟の体に反して相当の実力を持つ。多分戦ったらかなり苦戦するだろう。両親からも強力な能力を多く受け継いでいるみたいだしな。

　 そもそも彼女と知り合ったのは約三週間前。出会い方は決して良いものとは言えなかったーー