第74話：爆発

　裏魔術協会の襲撃によって混乱を極める本部。その中では大量の秘書官が通信機とメモを片手に走り回っている。

　屋上を降りてからすぐにシリルは中央広場に緊急対策本部を設営。襲撃に関する情報をそこに集約した。

「ナンバーゼロ！　東門が何者かの手によって開門！　恐らく内部からの工作と思われます！」

「東門警備の皆さんは無事ですか！？」

「現在連絡が取れません！」

「戦える魔術士さんを連れて、至急支援に向かってください！　東門の状況を確認してすぐに報告をお願いします！」

　報告してきた職員に向かって迅速に返事を返すシリル。指示を受けた職員は軽い敬礼の後現場へと駆け出していった。

「ナンバーゼロ！　中央市街地の避難が難航しています！」

「あそこにはガルドレッドさんが向かっていますので大丈夫です！　北側市街地の状況がわかりません、すぐに確認を！」

「はい！」

　職員たちに慌ただしく指示を出すシリル。それに応えて職員たちにも懸命に情報収集を続ける。

　今現在住民の避難は王国騎士団が行っているが、魔術協会の支援がなければ混乱するのは必至だろう。そしてこの状況で大量の王国民が混乱状態になることは、即ち被害者の増大を意味している。

　その状況がわかっているからこそ、シリルは全神経を集中させて事態の収拾につとめていた。

「おねーさん、たいへんそう……」

「ああ。俺たちが行っても邪魔になっちまうな」

　そんなシリル達の様子を、広場の外からそっと見守るレウスとリセ。

　騒ぎに気付いて起きてみれば、なんでもこの国が襲われているのだという。

　とにかくシリルと合流しようと考えた二人だったが、せわしなく指示を出すシリルに話しかける気にはなれなかった。

　二人がとりあえず部屋に戻ろうと踵を返した瞬間、遠くから爆発音が響いてきた。

「っ！？」

「爆発……！？　おいおい、あっちは市街地だろ！？」

　爆発のあった方角からは、微かに人の悲鳴のようなものも聞こえる。

　当然シリルもその爆発音に気づいており、嫌な汗をかきながら口を開いた。

「すぐに爆発現場の被害状況を確認してください！　ラスカトニアに潜入している者がいるのは間違いありませんから、くれぐれも気を付けて！」

「はっ！　了解しました！」

　先ほどの東門の開門と町中での爆発。そのどちらも壁の外から行われたとは考えにくい。

　とすれば、既にラスカトニア内に裏魔術協会のメンバーが侵入していると考える方が自然だろう。

　その事実に焦りを隠せないシリル。そのシリルの顔を見たリセは、何かを決意しながらレウスへと話しかけた。

「ねえ、レウス。私たちも行こう」

「はぁっ！？　おま、爆発現場にか！？」

「今おねーさんから指示を受けた人、たぶん経験が浅い。それに、嫌な予感がする」

　リセはシリルから指示を受けたまだ若い職員の姿に何かを感じ、言葉を紡ぐ。

　真剣なリセの横顔を見たレウスは、腕を組みながら返事を返した。

「お前の勘はマジで当たるからな……うーん、姉ちゃんに迷惑はかけたくねえけど、ほっとくわけにもいかねえか」

「そう言うと思って、手紙も書いておいた」

「準備いいなおい。じゃあ早速行くか！」

「ん」

　レウスの言葉にリセはこくりと頷き、二人は爆発現場に向かって飛び出していく。

　その状況がシリルの耳に入るまで時間はかからなかった。

「ナンバーゼロ！　本部から子どもが二人飛び出したという報告があります！」

「子ども……まさかレウスくんとリセさん！？」

「そ、それと、玄関でこの手紙を拾いました」

「これは、リセさんからの手紙？」

　職員から手渡された手紙を開くシリル。その手紙には子どもらしい字で短い内容が書かれていた。

“おねーさんへ。心配しないでください。すぐ戻ります。私たちを信じて”

「……っ！」

　短いながらもリセの気持ちを察したシリルは、声を失う。

　そんなシリルの様子を見た職員は、頭に疑問符を浮かべた。

「ナンバーゼロ？」

「どう、しよう。どうしたら……」

　視線を左右に泳がせるシリル。今すぐ本部を飛び出して二人の傍にいたい。しかし今自分がここを離れれば指揮系統が混乱し、被害者が増えていくのは明白だ。

　とはいえ、レウスとリセを放っておくこともできない。シリルが焦った様子で思考を巡らせていると、そんなシリルに向かって片手を上げながら一人の少女が挨拶してきた。

「おーいシリルちゃーん。呼ばれたから来たんだけど、この騒ぎどゆこと？」

「リリナさん！」

「？？？」

　一瞬にして笑顔になったシリルの様子に疑問符を浮かべながら、魔術協会ナンバー7リリナ=ア・ラモードは、相変わらずピンク色のフリフリ服を着ながら小さく首を傾げていた。