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第63話:受ける刃

 ブレイドアーツの中央広場には、今日も多くの観光客が集まっている。

 夕方ということもあり宿に戻ろうとする人々が多いが、まだ飲食店が営業していることもありそれを目当てにした観光客も多い。

 カップルや家族連れ、仲の良い友達同士などそのバリエーションも幅広く、楽しげな声が広場中に響いている。

 そんな楽しげな雰囲気を感じ取ったシリルは、にっこりと微笑みながら言葉を落とした。


「武器屋さんが多く武骨なイメージのあるブレイドアーツですが、この中央広場は暖かな雰囲気がしますね」

「そーだなー。武術大会の興奮冷めやらぬってやつか」

「みんな、楽しそう」


 リセはぎゅっとシロを抱きしめながら、ぼーっと周囲の人々を見つめる。

 平和な雰囲気に包まれたレウスは頭の後ろで手を組み、少し退屈そうに欠伸をした。


「ま、いいや。とりあえず俺達も宿に帰ろうぜ」

「そうですね。暗くなる前に―――っ!?」


 シリルは背後から圧倒的な殺気を感じ、レウスとリセを抱えて横に飛ぶ。

 元々三人が立っていた地面には、飛んできた火炎弾によってクレーターが作られていた。


「な、ななな、何だぁ!?」

「!? おねえ、さん。だいじょぶ!?」

「くっ……」


 レウスとリセをかばったせいか、シリルの足首から先の義足が吹き飛んでいる。

 足首からは漆黒の血が流れ、激痛がシリルの背中を駆け抜ける。

 いつのまにかシロを離していたリセが心配そうにシリルへ駆け寄ると、シリルは乱れた呼吸の隙間から声をぶつけた。


「にげ、て。逃げてください、二人とも! あの殺気は普通じゃない!」

「何言ってんだよねーちゃん! そんなことできるわけ―――」

「いいから、逃げて! じゃないともっと、被害が広がります!」

「被害……?」


 髪を乱しながら鬼気迫る表情で叫ぶシリルの声に疑問を覚え、眉を顰めるリセ。

 その時周囲からも叫び声が響いてきた。


「きゃあああああああああ!?」

「な、なんだ!?」

「逃げろ! とにかく逃げろ!」


 広場にいた人々を、手斧を持った黒服の男達が襲撃している。

 先ほどまで笑いあっていた人々は、全員恐怖にその顔を染めて逃げ惑った。

 黒服の男達は手斧を用いて人々を襲撃し、止めに入った常駐している騎士団員もその圧倒的腕力で吹き飛ばしている。

 明らかに常軌を逸したその攻撃力と残虐性に、リセはその瞳から光を失った。


「そんな……無差別に、攻撃してる」


 リセは突然地獄に変わってしまった目の前の光景が飲み込めず、両目を見開いてその場に立ち竦む。

 その時顔面に包帯を巻いた黒服の男が無言でシリル達の前に現れた。


「…………」

「!? な、なんだよこいつ、いつのまに!?」


 無言で立っている黒服の男に驚いたレウスは両目を見開いて声を上げる。

 そんな男の姿を察したシリルは、悔しそうに奥歯を噛み締めた。


『そんなっ!? この距離まで近付かれたら、防御が間に合わない―――!』


 目の前に立った包帯の男にただならぬ雰囲気を感じたシリルは咄嗟に魔術で吹き飛ばそうとするが、痛みによって一瞬詠唱が遅れる。

 その隙を突くように包帯の男は手斧を振り上げ、レウスに向かって振り下ろした。


「え―――」


 突然の事態に反応できず、自身に振り下ろされる手斧に反応できていないレウス。

 そんな状況を察したシリルは、考えるより先に体が動いていた。


「……っ!」


 レウスの体を抱きしめ、自身の体を盾として手斧を受け止めようとするシリル。

 そんなシリルの姿を見たリセが声を上げようとしたその瞬間、振り下ろされた手斧を黒い刃が受け止めた。


「!?」

「…………」


 まるで一陣の風のようにシリルと男の間に割って入り、手斧を受け止める黒い刃。

 その刃の主は、同じく漆黒の鎧に身を包んでいた。


「あなた、は……」

「黒騎士!?」


 包帯の男の手斧を受け止めた刃の主……それは。

 先ほどまで武術大会で圧倒的な威圧感を発していた、黒騎士その人だった。


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