第62話:大会の決着
その後武術大会では黒騎士が圧倒的な力の差を見せつけ、優勝を手にすることになる。
観覧者の多くが興奮した様子で黒騎士の戦いぶりを口にしながら帰路につく中、シリル達は呆然とした様子で会場を後にしていた。
「なんか、すげーもん見ちまったな」
「うん。あれは人間の動きじゃない」
「あはは……常軌を逸していたのは間違いないですね」
遠い目でぼーっと遠くを見つめるレウスとリセの様子を察したシリルは、困ったように笑いながら言葉を紡ぐ。
そんなシリルの言葉を聞いたレウスはもう一度パンフレットに載っていた黒騎士の姿を見つめ、言葉を続けた。
「にしてもさー。こんな不気味なやつよく人気出たよな。普通に怖いじゃんこのおっさん」
レウスはパンフレットをぴらぴらとしながら、不思議そうに言葉を発する。
そんなレウスの言葉を聞いたリセは、冷静な様子で返事を返した。
「確かに、不気味。でも、強さは圧倒的だった」
「まーなー。結局武術大会なわけだし、強いやつに人気が出るのは当たり前か」
レウスは頭の後ろで手を組みながら、茜色に変わりつつある空を見上げる。
そんなレウスの言葉を聞いたシリルは、何かを考えるように胸の下で腕を組んだ。
「…………」
どこか難しい表情をしながら、何かを考えているシリル。
そんなシリルの様子を不思議に思ったリセは、頭に疑問符を浮かべながら質問した。
「おねーさん。どうかしたの?」
シロを抱きしめながら、不思議そうに首を傾げるリセ。
そんなリセの様子を察したシリルは、にっこりと微笑みながら言葉を返した。
「あ、いえ。なんでもないんです。ただ黒騎士さんはなんというか、ただ怖いだけの人じゃなかったような気がしたので」
シリルはぶんぶんと両手を横に振りながら、慌てて返事を返す。
そんなシリルの言葉を聞いたリセは、反対方向に首を傾げながら返事を返した。
「そう? 私は怖かった」
「俺も怖かったなー。一言も喋らねえし」
「あはは……まあ、そうですね。近寄りがたい雰囲気はありました」
シリルは一度近くに感じた黒騎士の気配を思い出しながら、小さく息を落とす。
確かに黒騎士には、有無を言わさぬような圧倒的オーラがある。
圧迫感にも似たその雰囲気は近くに立つだけで呼吸が荒れ、心が乱される。
しかしそんな雰囲気の中にシリルは、言いようのない違和感を感じていた。
『あの時感じた違和感はなんだったのか、いまいち答えが出ないんですよね……』
シリルは困ったように眉を顰めながら、茜色の空へと顔を上げる。
いつのまにか街は茜色に染まり、観客たちはそれぞれの宿へと道を急いでいた。
「まあとりあえず俺たちも帰ろうぜ。俺腹減っちゃったよ」
「レウスは、そればっかり」
「あにをー!? しょうがねえだろ減るもんは減るんだよ!」
ズバッと切り捨てるようなリセの言葉に反応し、噛み付くように返事を返すレウス。
そんなレウスの頭を優しく撫でながら、シリルは小さく笑った。
「ふふっ。じゃあ急いで帰りましょうか。暗くなるといけませんし」
「だな。またチンピラに絡まれないように大通りを歩いてこうぜ」
レウスはにーっと笑いながら、シリルに向かって返事を返す。
そんなレウスの言葉を聞いたリセは、少し驚いたように目を見開いた。
「レウスが殊勝なことを言うなんて、ふしぎ」
「不思議ってなんだよ!? 失礼だなお前!」
「ま、まあまあ。とにかく帰りましょ? ねっ?」
再燃してしまったレウスをなだめるように、声を発するシリル。
そんなシリルの言葉を受けたレウスは、口を3の形にしながら言葉を続けた。
「ちっ。まあいいや。今は腹ごしらえが先決だからな」
「ふふっ、そうですね。じゃあ、頑張ってお料理作ります」
シリルはぐっと両手を握り締め、レウスに向かって言葉を紡ぐ。
そんなシリルの言葉を聞いたリセは、瞳を輝かせながら言葉を発した。
「わたしもおりょうり、手伝う……」
こうして三人はのんびりとした空気のまま、闘技場を後にする。
茜色の空が群青に染まるより先に三人は大通りを歩きだし、多くの人で溢れる中央広場へと歩みだしていた。




