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第58話:ブレイドアーツへの道

 今日もシリル達三人はゆっくりとした歩調で街道を歩いていく。

 道中あまり急ぎすぎても体力を失ってしまう。

 その状態でモンスターに襲われたら危険であるため、旅をする時は急ぎすぎないことが必要である。

 そうして前に進んでいると、ふとした拍子にシリルが顔を上げて言葉を発した。


「それにしても、最近は妙に武器の流通が充実しているような気がします。いえ……充実しすぎている、と言ってもいいでしょう」


 シリルはラスニアで戦った盗賊団が魔術機構を利用した武器を大量に所持していたことを思い出し、怪訝そうな顔で言葉を落とす。

 そんなシリルの言葉を聞いたレウスは、頭の後ろで手を組みながら返事を返した。


「それって、チンピラどもがすげー武器を持ってたって話か? 確かにありゃ強力だったよな」

「あの人たちが持つには、過ぎた武器だった」


 リセはシロを抱きしめながら襲われた時のことを思い出し、冷静に言葉を紡ぐ。

 そんなリセの言葉を受けたシリルは、こくりと頷きながら言葉を続けた。


「確かに、王宮に仕える魔術士や騎士ならまだしも、盗賊があのレベルの武器を普通に所持しているというのは違和感があります。もしかしたら―――」

「もしかしたら?」


 レウスは頭に疑問符を浮かべて首を傾げながら、シリルに向かって続きを促す。

 シリルはそんなレウスの言葉を受け、さらに言葉を続けた。


「もしかしたら、これまでにない何か“大きな力”が武器市場を掌握しているのかもしれません」

「大きな力って……武器商人のこと?」


 リセは小さく首を傾げながら、シリルに向かって質問する。

 シリルはふるふると顔を横に振り、返事を返した。


「いえ。ただの商人にあれほどの武器を製造・調達するのは困難でしょう。恐らくは、かなり上級の魔術士が関わっているはずです」


 シリルは危機感を感じているのか、険しい表情で前を見つめながら言葉を落とす。

 そんなシリルの言葉を聞いたレウスは、眉を顰めながら返事を返した。


「つってもさー、世界中の魔術士は魔術協会が管理してんだろ? んな危険なことできんのかな」


 レウスの言う通り、この世界に存在する魔術士のほとんどは魔術協会に入会しており、それぞれの研究内容や成果はきちんと管理されている。

 武器に魔術の力を乗せるなら当然魔術に関する知識が必須であり、そのためには上級魔術士の知識と技術が必要となる。

 しかし当然ながら、盗賊たちに魔術機構を搭載した武器を流通させるなど本来魔術士が行ってよい範疇を大きく逸脱している。そんな非常識な魔術士がいるのなら、当然魔術協会が放っておかないだろう。


「確かにそうですが、魔術協会も魔術士の全行動を管理できているわけではありません。それに―――」

「それに?」

「そもそも魔術協会に入会していない魔術士が少なからず存在しているのも事実です。もちろん全体から見れば少ない人数ですが、中には上級魔術士もいるはずです」


 シリルは心配そうに眉を顰め、言葉を落とす。

 全世界の魔術師が入会していると言っても、全ての魔術士が魔術協会に所属しているわけではない。中には山奥で独自の研究を続けている魔術士や、意図して魔術協会に入会していない魔術士も存在する。

 前述した通り盗賊たちの間に魔術機構の施された武器を流通させているのは、魔術協会に入っていない魔術士の仕業だろう。


「なるほどなー。要するに、魔術協会に入っていない魔術士が何かしてる可能性が高いってことか」

「そうですね。あくまで推測ではありますが……」

「推測だけど、その可能性は高い。確かにあの人たちの持っていた武器は、普通の盗賊が持っていて良い武器じゃなかった」


 リセはシロを抱きしめながら、危機感を感じた表情でシリルと共に前方へと顔を向ける。

 そんなリセの言葉を聞いたシリルは緊張感を解くため、穏やかに微笑みながら言葉を紡いだ。


「いずれにしても、これから旅をする上であの武器は脅威です。気をつけて行動するようにしましょう」

「おう!」

「ん、わかった」


 シリルの笑顔に応えるように二人はこっくりと大きく頷き、笑顔で返事を返す。

 そんな二人の弛緩した空気を察したのか、シリルは前を向きながら話題を変えた。


「それにしてもこの街道は長いですね。そろそろ次の国が見えてくるはずなのですが……」

「おっ、見えてきたぜ! あのツンツンした感じのやつがそうじゃね!?」


 レウスはその圧倒的視力によって、はるか遠くに見えてきた国の影を見つめて言葉を発する。

 そんなレウスの言葉を受けたシリルは、にっこりと微笑みながら言葉を返した。


「恐らくそうですね。この先にあるのが剣技の国“ブレイドアーツ”です」


 こうして三人は大きな危機感を感じながらも、次の国ブレイドアーツに向かって歩いていく。

 この国で三人はとても大きな再会をすることになるのだが、まだそれを知る者は誰もいなかった。

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