第55話:だから言ったっしょ? 魔法少女だって
「くっそ……! 撃て撃て!」
「だぁから無駄だってのに……」
男達は一斉にリリナに向かって引き金を引き、巨大な炎の槍を複数発射する。
しかしその全てはリリナの杖の一振りによって打ち消され、リリナは退屈そうにため息を落とした。
「あんたら芸がないねー。今度はこっちの番だよ!」
リリナは杖を一回転させ、強気な表情で男達を睨みつける。
その後杖の先端を黄色に輝かせたリリナは、杖を空に掲げて呪文を詠唱した。
「汝に紡ぎしは雷帝の抱擁。拡散せよ、閃光の宴。ライトニングディザスター!」
リリナが呪文を詠唱すると天空にぶ厚い雲が立ち込め、その中に雷が走る。
雷はやがて二人の男を襲い、その全身に電気が走った。
「「ぐぎゃあああああ!?」」
リーダー格の男の背後に立っていた手下二人は雷に打たれ、絶叫の後倒れる。
倒れた手下二人を見たリーダー格の男は、恐怖に打ち震えた。
「上級魔術まで操るなんて……お前。一体何者だ?」
完全に気絶している二人を見た男は、震えながらリリナへと質問する。
リリナは杖でトントンと自身の肩を叩きながら、にいっと笑って返事を返した。
「だから言ったっしょ? 魔法少女だって」
「な……っ」
男は真っ直ぐなリリナの笑顔を呆然と見つめ、肩を落とす。
俯いた男はやがてワナワナと震えると、顔を上げながら銃口をリリナに向けた。
「くっそ。馬鹿にしやがって、このクソ女がぁぁあああああ!」
男は半狂乱になりながら引き金を引き、巨大な炎の槍をリリナに発射する。
リリナは余裕をもって杖を掲げ、その槍を防御しようとするが―――その背後に迫っているもう一本の槍に気付いていない。
路地裏に窓が向いている建物の中に、実は男がもう一人潜んでいた。
その男は呼吸を落とし、気配を消して炎の槍を発射した。
上空から俯瞰で状況を見ていたリセはその事に気付いて声を発するが、炎の槍はぐんぐんとスピードを上げてリリナの背中に迫っていく。
「―――っ!?」
リセが驚いていたその刹那。ついに炎の槍はリリナの背中を完全にとらえ、背骨ごとリリナの身体を貫こうとその刃を尖らせる。
しかしリリナの背中に槍の切っ先が激突しようかというその瞬間、全世界の時が止まった。
リリナの展開したキャンセラーによる防御障壁も。
密かに背後に待機していた男から放たれた炎の槍も。
驚愕に目を見開いたレウスもリセも。
その世界の全ては静止する。
そんな世界の中で動く黒い影がひとつ。
シリルはヒールを鳴らしてゆっくりとリリナの背後に近付くと、魔力を使って炎の槍の進行方向を真逆に変更した。
そしてそんなシリルの姿をじっと見つめたシロが、小さく鳴き声を上げる。
「にぁー……」
静止した世界に響く、シロの鳴き声。
その鳴き声を聞いたシリルは、人差し指を一本立てて「しーっ」とポーズを取ると、そのままシロに向かって言葉を紡いだ。
「内緒ですよ、シロさん。このことは内緒です」
「にぁー」
シロはまるで返事を返すように鳴き声を響かせ、やがて興味を無くした様子で前足を使ってくしくしと顔を洗う。
そんなシロの様子を見たシリルは微笑を浮かべると、足元に逆巻く風を生成して飛び去っていった。
そしてその瞬間、静止した時は動き出す。
リリナの背後に迫っていた炎の槍は反転し、発射元の男の身体を貫く。
リーダー格の男はあっさりとリリナに攻撃を無力化され、涙目でリリナを見つめた。
「か、勘弁してくれ! 悪気は無かったんだ!」
「いやぁ……悪気しか無かったでしょうに」
リリナはポンポンと自身の肩に杖を乗せ、ゆっくりと男に近づいていく。
その後杖で殴打された男は、顔面をボコボコにされた状態で路地裏の冷たい地面に横たわった。
「ふぅっ。一件落着」
「……?」
ぱんぱんっと両手を叩いて埃を落としているリリナの背後で、リセは一人疑問符を浮かべながらシリルの飛び去って行った方角を見つめる。
その視線はどこまでもシリルの影を追っていたが、やがてレウスの「降りて来いよ!」という声を聞いて目を逸らす。
そんなリセの視線の先ではシリルが急いで宿屋に帰り、ベッドに飛び込んでわざとらしい寝たふりを始めていたのだった。




