第54話:リリナ=ア・ラモード
「くっそこいつら。ただのチンピラじゃねえ……!」
「……っ! つよ、い」
レウスとリセの二人は路地裏で男達と戦闘を続けるが、状況は芳しくない。
男達は常に一定の距離を保ち、遠距離から二人を攻撃してくる。
当然レウス達も距離を詰めようとステップインするが、男達はそんな相手の動きに慣れているらしく……
「ちぃっ。こいつら、一人と距離を詰めると必ず他の誰かが攻撃してくる。これじゃ距離を詰められねぇ……!」
男達の集団での戦い方にはある程度の“慣れ”が感じられる。
そして何より厄介なのは、男達の持っているその武器の攻撃力だった。
「ちっ。ガキどもがチョロチョロしやがって……死ねや!」
「あっぶね!?」
レウスの足元には手持ちサイズの炎の槍が複数発射され、レウスはバク転しながらそれをギリギリで回避する。
そんな男の攻撃を見たリセは、淡々とした調子で言葉を紡いだ。
「あの武器からは、中級魔術レベルの攻撃が発射されてる。まともに受けたらどうしようもない」
「わぁってるっての……! だからこうして避けてんだろが!」
地上を走るレウスの元には男達の集中砲火が浴びせられ、レウスは持ち前のスピードで回避しているが、それもギリギリで回避しているに過ぎない。
リセは時折空中から男達を狙って槍を突き出すが、それも槍の射程距離に入る前に迎撃されてしまう。
結局互いに決定力に欠けているこの戦闘は、比較的狭い空間にも関わらず数十分にも及んだ。
そしてその拮抗した状況はやがて、男達に有利に働くようになる。
「はぁっはぁっはぁっ……」
数十分に渡って男達の攻撃を回避し続けているレウスの息は上がり、玉のような汗が額を流れている。
汗によって視界はぼやけ、乱れた呼吸に邪魔されて視線が定まらない。
やがて流れた汗がレウスの頬を通って顎の先端から地面へと滴り落ちた瞬間、男達は3方向からレウスに向かって炎の槍を発射した。
「しまっ……!?」
集中力を切らせていたレウスはかろうじて一本の槍をバックステップで避け、もう一本の槍を拳で叩き落す。
しかし最後の一本の炎の槍が、拳を振り抜いたばかりのレウスの腹部へと迫る。
もはや命中は必至。その様子を空中から見ていたリセは咄嗟に声を荒げた。
「レウス! よけてええええ!」
ただならぬ状況にリセは声を荒げ、急降下してレウスへと手を伸ばす。
しかしその手がレウスの身体を掴むことなく、炎の槍はレウスの腹部に―――
「変身完了……っと。随分待たせちゃったねぇ」
レウスの腹部に迫っていた炎の槍は手甲に包まれたリリナの手に掴み取られ、やがてガラスが割れるような音と共にその身体を四散させる。
手についた水を払うように炎を振り払いながら、リリナはレウスの前に仁王立ちした。
「さあ。こっからが魔法少女リリナちゃんの真骨頂だよ。どっからでもかかってきなさい」
リリナは両手両足に鎧を装備し、一回り大きくなった杖を回転させながら勝気な表情で男達を見据える。
背中からはまるで羽のような黄緑色のオーラが溢れ、その姿にプレッシャーを感じたレウスは思わず言葉を落とした。
「ねえ、ちゃん……」
レウスは目の前の状況が理解できず、ぽかんと口を開いてリリナの背中を見つめる。
そんなレウスの言葉に気付いたリリナは、少しだけ顔を向けながら返事を返した。
「あいよ、レウス。よく頑張ってくれたねぇ」
「…………」
にいっと笑ったリリナの笑顔を見たレウスは、呆然と口を開いたまま返事を返すこともできない。
やがて男達はリリナに攻撃を防御された事実を理解し、その銃口を再びリリナへ向けた。
「てめぇ、何をしやがった!?」
「何って……フレイムランスを手で握りつぶした」
「っ!? そ、そんなわけねぇだろ! フレイムランスは撃てる奴も少ない中級魔術だぞ!?」
リーダー格らしき男は動揺した様子で言葉を発し、銃口を向けて引き金に指を置く。
そんな男の言葉を受けたリリナは、ぽりぽりと頬をかきながら返事を返した。
「そんな魔術をあんたらみたいなチンピラが撃てることの方が不思議なんだけど……なんで?」
リリナはうーんと腕を組んで悩みながら、頭に疑問符を浮かべて首を傾げる。
そんなリリナの言葉を受けた男は、こめかみに力を込めながら返事を返した。
「てめえに返事は必要ねぇ。必要なのは……こいつだ!」
「っ!? お姉さん、あぶない!」
三人の男が引き金に指をかけていることを察したリセは、両目を見開いて言葉を発する。
しかしその声が発せられるのとほぼ同時に三本の炎の槍は発射され、リリナへと迫っていた。
「無駄だってのに……“フレイム・キャンセラー”」
「なぁっ!?」
リリナは面倒くさそうに杖を自身の身体の前に掲げ、短縮呪文を詠唱する。
すると空中を進んでいた炎の槍はリリナの杖に衝突する寸前にその姿を消失させ、リリナは大きなため息を落とした。
「私が変身した時点で勝負は決まったよ。諦めな、にーちゃん」
「……っ!」
リリナは強気な表情で歯を見せて笑い、リーダー格の男へと言葉を発する。
そんなリリナの言葉を受けた男は、悔しそうに奥歯を噛み締めていた。




