第53話:変身タイム
「あのー、これってもしかして……やばい?」
リリナは頭に大粒の汗を流しながら、武器を構えている男を見つめる。
そんなリリナの言葉を聞いた男は、嘲笑しながら返事を返した。
「ふん、わかってんじゃねえか。さっさと金だしな」
男は持っている武器の銃口をリリナに向け、低い声で言葉を落とす。
その言葉と銃口から発せられる威圧感を受けたリリナは、うーんと腕を組んで考え始めた。
「どうしよ……これはいくべきか? いやでも、うーん……」
「何ごちゃごちゃ言ってやがる! さっさと金を出せ!」
男の後ろには複数の手下らしき連中が立っており、それぞれの手にも男が持っているのと同じ見たことのない武器が持たれている。
その時男とリリナの間に、レウスが割って入った。
「だいじょーぶだぜ姉ちゃん! こんな奴等ぶっとばしてやるよ!」
「お姉さんは私と一緒に、下がってて……」
レウスは拳を構え、にいっと笑いながら男を見据える。
リセは抱えていたシロを庇うように抱きしめ、レウスの後ろへと下がった。
しかしそんなレウスの様子を見たリリナは、ずいっと身体を前に出しながら言葉を発する。
「ちょっと待ったぁ! ここはリリナお姉さんにお任せあれ!」
リリナはふんすと鼻息を荒くしながら、レウスの前に立って言葉を発する。
そんなリリナの言葉を受けたレウスは、構えを解かないままジト目でリリナを見つめた。
「ええー? 姉ちゃん無理だろ。下がってれば?」
「おだまり! リリナお姉さんはフェリアレールいちの魔術士だって言ってるでしょうが!」
リリナは強く地団太を踏みながら、レウスに向かって言葉をぶつける。
そんなリリナ達の問答を聞いていた男は、イラつきながら言葉を続けた。
「てめえらなめやがって……ぶっ殺されてえのか!」
男は持っている武器の銃口を一番前に立っているリリナへと向けて声を荒げる。
そんな男の様子を見たリリナは、ふんと笑いながら言葉を返した。
「へっ。いたいけな少年少女を脅す悪いおじさんは、このリリナちゃんが許さないよ!」
リリナは男の大声にも物怖じすることなく言葉をぶつけ、びしっと男を指差してポーズを取る。
するとそのまま杖を自身の身体の前に掲げ、精神を集中し始めた。
「はぁぁぁ……魔装変身“リリナ=ア・ラモード”!」
「なっ!?」
リリナがその言葉を発した瞬間身体に虹色の光が落ち、全身を虹色のヴェールが包む。
そして明るくポップなBGMが路地裏に響くと、そのBGMと共にゆっくりとリリナの両手に手甲が精製された。
「…………」
「…………」
空中に浮いた状態でゆっくりと変身していくリリナの様子を、呆然と見守る男とレウス。その目は光を失っており、目の前の出来事を処理できていない。
それでも続くリリナの変身時間に、ついにリセが口火を切った。
「レウス。これ……いつまで続くの?」
全員の視線を一点に集めながら、リリナはのんびりとしたスピードでゆっくりと変身していく。
そんなリリナを見て湧き上がる当然の疑問を、リセはレウスへとぶつけた。
「知らねぇよ……てかこれ、どうすりゃいいんだ?」
レウスは完全に戦意を喪失した様子で、がっくりと肩を落とす。
しかしそんなレウスの様子とは裏腹に、武器を構えた男は激昂した。
「てめええ……なめやがって! ぶっ殺してやる!」
男は持っている武器の大きな銃口を、空中に浮かぶリリナへと向ける。
そんな男の様子を見たレウスは咄嗟に男の懐にステップインし、その腹部に拳撃を叩き込んだ。
「ふぐっ!?」
不意打ちを食らった男はうつ伏せに倒れ、その後ろにいた男達は一斉にその銃口をレウスに向ける。
そんな男達の武器から感じるただならぬ雰囲気を察したレウスは、額から汗を流して言葉を紡いだ。
「とにかく、ほっとくわけにもいかねぇだろ。姉ちゃんを守るぞ、リセ」
「わかってる。私も戦う」
リセはシロを地面に降ろしてすたすたと歩いてレウスの隣に立つと、両手を広げてその両手の間に風を集める。
やがてその風は槍の形へと変貌し、リセの手元に降りて来た。
少し小型の槍を構え、男達を睨みつけるリセ。
男達はじりじりと距離を離しながら、持っている武器の引き金に指をかけていた。




