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第52話:突然のピンチ

「で、明日頑張りましょうって言った本人がまだ寝てるんだけど、どうしたもんだこりゃ」


 翌朝早く目が覚めたレウスとリセは早速シリルを起こそうとするが、まったく起きる気配がない。

 リセはシリルの寝顔を楽しそうに見つめ、その頬をつんつんとつついた。


「ふふ……おねーさん可愛い」

「んみゅ……」


 頬を突かれたシリルは苦しそうに眉を顰めるが、やがて幸せそうな笑顔になって眠りに戻る。

 先ほどから身体を揺すったり大声を出したりしているが、シリルはずっと眠ったままだ。わかっていたことだが、本当に朝が弱い。


「ありゃー、シリルさん朝弱かったのかぁ。こりゃ起きそうにないね」


 結局昨晩シリル達と同じ部屋で眠ったリリナは、腰に手を当てながらシリルの寝顔を見つめる。

 シリルはそんなリリナの声に反応を返すこともなく、穏やかな寝息を立てていた。


「まあいーや。とりあえず俺達だけで聞き込みに行こうぜ。リリナねーちゃん案内してよ」


 レウスは頭の後ろで手を組みながら、リリナへと言葉を発する。

 そんなレウスの言葉を受けたリリナは、えっへんと胸を張りながら返事を返した。


「おーっ、行くか! このリリナおねーさんに任せんしゃい!」

「うーん。なんか不安なんだよな」

「あにをーっ!? いいから任せなさい!」


 不安そうなレウスと相変わらずシロを抱きかかえているリセの背中を押し、強引に部屋出て行く三人とシロ。

 シリルはそんな一行に気付くことなく、未だ夢の中を気持ち良さそうに泳いでいた。







 そうして宿の外に出たレウス達は、リリナの案内で様々な場所を回った。

 噴水広場や最も大きなお菓子屋、ハンター協会や人が多く集まる公園など、色々な場所で竜族と有翼族を見なかったか尋ねて回っている。

 そんな二人の様子を見ていたリリナは、頭に疑問符を浮かべながら質問した。


「てかさ、何で竜族と有翼族探してんの? どっちもそうそう見る種族じゃないよね」


 リリナは不思議そうに疑問符を浮かべ、レウスに向かって質問する。

 そんな質問を受けたレウスは、左右に視線を泳がせながら返事を返した。


「あ、あー……えっと、スカウト! そうスカウトだよ! 魔術協会にレアな種族を入れたいってんで、今探してんだ!」

「そう。私達は一応魔術協会の人間。会員数を増やすためにずっとスカウト活動をしてる」


 リセはレウスの話に合わせ、リリナに向かって言葉を続ける。

 そんな二人の言葉を受けたリリナは、ほへーっと口を開きながら返事を返した。


「なるほどねー。しかしこんな子どもに旅をさせるとは、魔術協会も人手不足なんだなぁ」


 リリナはうんうんと頷き、魔術協会本部のあるラスカトニアの方角を見つめる。

 納得した様子のリリナを見たレウスとリセは、小さな声で会話を始めた。


「納得してるみたいだぜ、リリナ姉ちゃん。つかよく信じるよな」

「良くも悪くも素直な人なの……かも」


 そうして二人がこそこそ話をしていると、リリナは突然二人に抱きついた。


「こりゃ! なにを二人でこそこそ話してるんじゃー!」


 リリナは二人に抱きつくと、その腋をこしょこしょとくすぐる。

 そんなリリナの攻撃を受けた二人は、次々と陥落していった。


「ぶふっ。あははは! やめろよねーちゃん!」

「くふっ。ふふふふふっ」


 笑う二人の姿を穏やかな笑顔で見ていたリリナだったが、やがて呼吸が苦しくなっているのを察して開放した。

 レウスとリセは乱れた呼吸を繰り返しながら、リリナに向かって言葉を発する。


「な、なにすんだよリリナねーちゃん。疲れちゃったじゃねーか」

「はあ……ふふっ」


 まだ少し笑っているリセと、呆れた様子でリリナを見つめるレウス。

 そんな二人の姿を見たリリナは、両腕を組みながら返事を返した。


「このリリナお姉さんをのけ者にするからじゃ! まぜろ!」

「寂しがりかよ! いいだろ俺達にも色々あんだよ!」


 レウスはリリナと同じように腕を組みながら、少し不満そうに返事を返す。

 そんなレウスの頭をぽんぽんと撫でたリリナは、元気のある笑顔で言葉を紡いだ。


「まあまあ、そう怒るな少年! この国で一番の物知りである町長の家に連れて行ってあげるからさ! 大抵の情報はこのじいさんの所に集まるよ!」


 リリナは「凄いねじいさん! やったねじいさん!」と言葉を続けながら、立てた親指をぐっとレウスへと突き出す。

 そんなリリナの言葉を受けたレウスは、疲れた表情で返事を返した。


「いや、そんな人がいるなら最初に連れてってくれよ……」


 レウスはがっくりと両肩を落とし、リリナに向かって言葉を落とす。

 そんなレウスの言葉を受けたリリナはめげる様子もなく言葉を続けた。


「まあとにかく行こうじゃないか! さあ、れっつごー!」


 リリナは強引に二人の背中を押し、町長の家に向かって歩き出す。

 日の光はまだ頂点まで上っておらず、お昼前のフェリアレールは相変わらず子ども達の楽しそうな声で溢れていた。







 そうして出発したレウス達だったが、歩みを進めるたびに子ども達の声が遠くなっていくのを感じる。

 日の光が多く差し込んでいた中心街から外れた路地裏は少し湿っぽく、薄暗い。

 そんな路地裏を進むレウスは、頭の後ろで手を組みながら言葉を紡いだ。


「なんか随分と雰囲気変わったな。てか、この国にもこんな道があるとは思わなかったぜ」

「んー、私もあんまり好きな道じゃないんだけどねぇ。町長の家は遠いし、まあ近道ってやつ?」


 リリナは眉を顰めながら歩き、持っている杖をくるくると回転させる。

 そうして一行が歩いていると、リセに抱きかかえられたシロが突然唸り始めた。


「ふーっ……!」

「??? シロ、どうしたの?」


 唸り始めたシロを不思議に思ったリセは、首を傾げながら質問する。

 そんなシロの様子を見たレウスが周囲に神経を研ぎ澄ますと、その耳に不穏な音が響いてきた。


「どーやら町長の家に行くのは簡単じゃなさそうだぜ、リセ」

「…………」

「えっ? えっ? どゆこと?」


 真剣な表情になる二人の様子を見たリリナは、何がなんだかわからずキョロキョロと顔を動かす。

 そんな三人の前に、見慣れない武器を持った男が近づいてきた。


「よう姉ちゃん。俺ぁ面倒なのは嫌いなんで端的に言うが……有り金全部置いていきな」

「―――ぴっ」


 隙のない様子で武器を構える男と、既に戦闘態勢に入っているレウスとリセ。

 リリナは予想外の事態に対応できず、ひとりで変な声を上げていた。

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