第51話:フェリアレールいちの魔術士?
「はむっはぐはぐっ。う、うまい……! 美味すぎる!」
「ふふっ。それはよかったです」
フェリアレールの宿屋に到着したシリルは台所を借りて料理を作り、倒れていた少女へと作った料理を振舞う。
少女は食事の匂いがするとすぐさま飛び起き、鬼神のような勢いでそれを食べ始めた。
口元に食べかすを付けながら食事を平らげる少女の口元を拭いながら、シリルは柔らかな声で質問した。
「ところで、どうしてあんなところで倒れていたんですか?」
平和なフェリアレールにあって、行き倒れというのは少し珍しい。
シリルは心配そうに眉を顰めながら少女へと言葉を紡いだ。
「んー、それがさぁ。この国お菓子が美味しいじゃん? だからお菓子ばーっか食べてたら栄養が偏っちゃって、ぶっ倒れちゃったんだよねぇ」
あっはっはっは! と大声で笑い声を響かせた少女は、お茶を飲みながらシリルへと返事を返す。
その返事を聞いたレウスは頭に大粒の汗を流しながら言葉を発した。
「すげえ馬鹿だなこの姉ちゃん。俺でもそんなお金の使い方しねえよ?」
「あにおーっ!? 馬鹿とはなんだ馬鹿とは! 私はすんごい魔術士なんだぞぅ!?」
少女はあんまりなレウスの言い草に激怒し、ぶんぶんと手を振りながらレウスを指差す。
そんな少女の言葉を受けたレウスはジト目で少女を見つめながら返事を返した。
「ええー? 嘘くせぇ」
「嘘じゃないやい! あんたこの恩人さんの連れじゃなかったら杖でぶっ叩いてるかんね!」
「杖でぶっ叩くのかよ! 魔術使わねぇの!?」
予想外の攻撃手段を提示されたレウスは、ガーンという効果音を背負いながらツッコミを入れる。
そんなレウスの言葉を受けた少女は、真顔で返事を返した。
「うん。まあ攻撃は基本物理だから」
「いやそれもう魔術士じゃねーよ! 戦い方が戦士じゃん!」
レウスはあまりに乱暴な少女の戦い方に対し、再びツッコミを入れる。
そんな二人の問答を聞いていたシリルは両手を前に出しながら言葉を紡いだ。
「ま、まあまあ。ところでお名前を伺ってもよろしいですか? 私の名はシリルと申します」
シリルは自身の胸元に手を当て、まずは自分の名前を名乗る。
そんなシリルの自己紹介を聞いた少女は、びかーんと目を輝かせて机の上に飛び乗った。
「よくぞ聞いてくれました! このフェリアレールいちの天才魔術士リリナとは私のことさ!」
リリナと名乗った少女はえっへんと胸を張り、シリル達に向かって自身の名前を伝える。
そんなリリナをジト目で見上げたレウスは、耳の穴をほじりながら返事を返した。
「ほーん。まあ天才とか自分で言うやつは大抵ザコだよな」
「ちょ、そこぉ! 失敬なことを言うんじゃない!」
リリナはびしっとレウスを指差し、大声で言葉をぶつける。
そんなリリナに向かって、今度はシリルが困ったように笑いながら言葉を紡いだ。
「えっと……リリナさん。とりあえず机から降りましょうか。行儀悪いですよ」
「あ、ごめんごめん。降りるわ」
「姉ちゃんの言うことは聞くんだ……」
どうにも掴めないリリナのキャラクターに、困惑した表情を見せるレウス。
シリルは困ったように笑いながらぽんっと両手を合わせ、言葉を紡いだ。
「とりあえず解散にしましょうか。もう夜も遅くなりますし、リリナさんもおうちに戻った方がいいです」
シリルはこのままでは夜道を歩くことになるリリナを心配し、帰宅するよう提案する。
リリナは改めて椅子に座ると、うーんと腕を組んで悩みながら返事を返した。
「いや、このままじゃ帰れないよ。お世話になっちゃったし、恩返ししなきゃ」
「えっ!? いえ、そんな。恩返しなんて不要ですよ、そんなつもりじゃ―――」
「いやいや! このまま帰ったとあればリリナの名に傷がつく! 恩返しするまで帰らないかんね!」
「ええええ……」
シリルはわたわたと両手を動かし、困ったように眉を顰める。
そんなシリルの様子を見たレウスは、しししと笑いながら言葉を紡いだ。
「まあ、いいじゃん! それなら明日リリナ姉ちゃんにこの国を案内してもらおーぜ!」
「あっ、なるほど。確かにそれは良い考えですね」
シリルもこのフェリアレールについて詳しいわけではない。まして人探しの聞き込みとなれば、情報が集まっている人間を狙って聞き込みをした方が良いだろう。
そしてその人間を目利きするなら、地元の人間に案内を頼むのが手っ取り早い。
「おっ、そんなことでいいの? いいよー、もう全然案内しちゃう。お菓子屋なら任して!」
リリナはぐっとガッツポーズをしながら、ぺろっと舌を出して元気良くレウス達へ返事を返す。
そんなリリナの言葉を聞いたレウスは即座にツッコミを入れた。
「いや、お菓子屋以外も任されてくれよ! 俺達人探しの旅してんだからな!?」
あまりにも頼りにならない案内人の言葉に、頭をかきむしるレウス。
そんなレウスの隣ではいつのまにかリセが寝息を立て、シロと一緒に眠りについていた。
「わはー、かわええ。さっきも思ったけどこの子とネコちゃん可愛すぎ問題」
「聞いてねぇー!」
レウスは自分の話をまったく聞いていないリリナに頭を抱え、声を荒げる。
リリナはだらしなく顔を崩して笑いながら、つんつんとリセのほっぺをつついた。
そして眠っているリセの様子に気付いたレウスは、ため息と共に言葉を落とした。
「妙に静かだと思ったらリセは寝てるし。どいつもこいつも……」
レウスは両手で頭を抱え、本当に人探しなど出切るのかと思い悩む。
リセの肩に毛布をかけたシリルは「きっと大丈夫です。明日頑張りましょう?」と促すような声をレウスに届けていた。




