第49話:絵本の国へ
フラワーズを出国したシリル達は、平原に伸びた街道を進んでいく。
リセは白猫を抱きかかえ、どこか満足そうに歩いていた。
一方白猫の方はというと、明らかにふてくされた表情でリセに抱きかかえられている。最初はリセの抱っこから必死に逃げていた白猫だったが、あまりにリセがしつこいので結局抱っこされる形になった。
その状況が面白くないのか、白猫は終始不機嫌そうな表情でリセの腕の中に収まっていた。
そしてそんなリセと白猫の様子を見たレウスは、頭に大粒の汗を流しながら言葉を発する。
「リセ。お前結構強引なとこあるよな……」
レウスはどこか呆れた様子で、満足そうに歩くリセに言葉をぶつける。
そんなレウスの言葉を受けたリセは、ふんすと鼻息を荒くしながら返事を返した。
「だいじょぶ。この子も抱っこされたがってた」
「いや明らかに嫌がってただろ……まあもう諦めたっぽいからいいけどよ」
最終的にはリセの希望通りの状態になったことに、もはや感心してしまうレウス。
白猫は相変わらず不満そうな顔をしながら、リセの腕の中に収まっていた。
「ていうかさ、そいつに名前とか付けてやんねーの? これから一緒に旅するんだろ?」
だったらもう、旅の仲間じゃん。と言葉を続け、リセへと質問するレウス。
そんなレウスの言葉を受けたリセは、街道の先を見つめながら返事を返した。
「名前なら、考えてある。シロと名づけた」
「……白いから?」
「白いから」
んな安直な……と頭を抱え、小さくため息を落とすレウス。
そんな二人の会話を見守るように聞いていたシリルは、小さく笑いながら言葉を落とした。
「ふふっ。旅の仲間が増えて私も嬉しいです。リセさん、シロさんのことよろしくお願いしますね」
「任せて。ちゃんとお世話する」
「ふーっ!」
キリっとして言葉を返したリセが不満なのか、シロは歯をむき出しにして唸り声を響かせる。
しかしリセはそんなシロの様子に構わず、笑顔で頬を擦り付けた。
「ふふっ。かわいい」
「…………」
リセの笑顔を近距離で見たシロはやがて諦めたように息を落とし、大人しくリセの腕の中に収まる。
そんなシロの様子を察したシリルは、眉を顰めながら困ったように微笑んだ。
「ところでねーちゃん。次はどんな国なんだ?」
レウスは頭の後ろで手を組み、シリルに向かって質問する。
そんなレウスの言葉を受けたシリルは、どこか嬉しそうに返事を返した。
「次の国はフェリアレールですね。絵本作家さんを多く輩出している、絵本の国です」
「絵本かー。俺はレッドマンくらいしか読んだことないなぁ」
「レッドマンの作者さんもフェリアレールのご出身ですよ?」
「マジで!? サイン貰えっかな!」
シリルの言葉を聞いたレウスは、瞳をキラキラと輝かせながら両手をぎゅっと握り込む。
そんなレウスの感情を察したシリルは、言い難そうに返事を返した。
「いやぁ。今はフェリアレールから引っ越してしまってますから、おそらく会えないかと」
「なんだ。つまんねーな」
レウスは不満そうに口を尖らせ、シリルへと言葉を返す。
そんなレウスの頭を撫でながら、シリルは言葉を紡いだ。
「でも、とっても素敵な国ですよ。夢があって楽しくて、私は大好きです」
シリルはにっこりと笑いながらレウスに語りかけ、その笑顔を見たレウスは頬を赤く染めながらそっぽを向く。
そんなレウスの様子にシリルが疑問符を浮かべていると、リセがシロを抱えながら言葉を紡いだ。
「わたしも、楽しみ。絵本は大好きだから」
リセはぎゅーっとシロを抱きしめながら、キラキラと瞳を輝かせて言葉を紡ぐ。
苦しそうに呻くシロの唸り声に苦笑いを浮かべながら、シリルはリセの頭を撫でて返事を返した。
「ええ、私も本当に楽しみです。次はどんな出会いがあるのかな……」
シリルはまるで少女のような笑顔を浮かべながら、街道の先へ顔を向ける。
そうして歩みを進めていると、次第に街の輪郭のようなものが見えてきた。
「おっ! ねーちゃん、あれがフェリアレールか!?」
レウスは退屈な街道を抜けられることに喜び、声を荒げる。
そんなレウスの声を聞いたシリルは、微笑みながら返事を返した。
「ふふっ、そうですよ。あれが絵本の国・フェリアレールです」
シリル達の眼前には赤い屋根の美しい城を中心とした城下町が広がり、楽しそうな笑い声が微かに響いてくる。
弾むようなその声を聞いたリセは、ワクワクと心躍らせながらシロを抱きしめる手の力を強めた。




