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第45話:戦い終わって

「ん―――ううん……」


 教会の中で失った意識が、次第に回復していく。

 真っ白なベッドに横たわっていたシリルは夢の中にあった意識を覚醒させると、自身の目の前に人の顔があることに気が付いた。


「お目覚めですか、シリル様。ご無事で何よりです」

「ひぁうっ!? せ、セレナさん!?」


 シリルは息が当たりそうな距離にあるセレナの顔に驚き、声を荒げる。

 そんなシリルの様子を見たセレナは特徴であるエルフ耳をぴこぴこと動かすと、身体を起こして言葉を返した。


「失礼。素顔を始めて拝見したもので、少々驚いておりました」

「えっ? あ、あわわ……!」


 シリルはいつも付けている目隠しが首元に落ちていることに気付き、慌てた手つきで目隠しを持ち上げて自身の両目を隠す。

 そんなシリルの様子を見たセレナは、反対に落ち着いた様子で言葉を続けた。


「ヴェリーミア様との戦闘、お疲れ様でした。壮絶な戦いだったようですね」


 セレナは窓から見える崩れた教会を見つめながら、淡々とした調子で言葉を紡ぐ。

 そんなセレナの言葉を受けたシリルは何かに弾かれるように返事を返した。


「あ、えと、そうだ! ヴェリーミアさん、ヴェリーミアさんは大丈夫なんですか!?」


 シリルの記憶の最後では、あの教会は崩れる寸前だった。

 自分が無事だということはヴェリーミアが無事である可能性も高いが、それでも土煙に紛れていた最後の姿を見る限りは安心できない。

 シリルは自身の胸に片手を当て、心配そうにセレナへ顔を向けてその答えを待った。


「ご安心くださいシリル様。ヴェリーミア様はご無事です。今は自室でお休みになっているはずです」

「そ、そうですか。よかったぁ……」


 シリルは心の底から安堵のため息を落とし、ほっと胸を撫で下ろす。

 しかしその瞬間、ほんの少し開いた部屋のドアの隙間からヴェリーミアの視線を感じた。

 何故か部屋に入ってこないヴェリーミアの様子を不思議に思ったシリルがドアの方に顔を向けると、ヴェリーミアは慌ててその頭を引っ込める。

 そんなヴェリーミアの様子に疑問符を浮かべたシリルは、セレナに向かって率直に質問した。


「あの、繰り返し聞いてしまってごめんなさい。ヴェリーミアさんは今―――」

「ヴェリーミア様は現在、自室でお休みになっています。面会を希望されますか?」

「えっ? いやでも、そのドアのところに―――」

「自室で、お休みになっています。面会を希望されますか?」


 セレナは頑として譲らず、同じ言葉を続ける。

 そんなセレナの様子と相変わらず部屋を覗き込んでいるヴェリーミアを交互に確認したシリルは、額に汗を流しながら言葉を続けた。


「いやでも、ヴェリーミアさんはそこに―――」

「面会を希望されるのですね? では参りましょう」

「あ。はい」


 表情を変えないセレナに強引に押し切られたシリルは、根負けしてこっくりと頷く。

 やがて差し出されたセレナの手を取ってベッドから降りていると、ドアの辺りから慌てたようなヒールの音が響いてきた。


『きゃうっ!?』


 ドスンという音と共に、明らかに誰かが転んだ音が聞こえる。

 シリルはセレナにエスコートされてベッドを降りながらその音を聞くと、その頭に大粒の汗を流した。


「あのぅ―――」

「ヴェリーミア様は自室です。自室ったら自室です」

「あ。はい」


 頑なに譲らないセレナの言葉を受けたシリルは、諦めた様子で眉を顰める。

 その後セレナに連れられたシリルは、案内された通りヴェリーミアの部屋の前に到着した。

 質素だがしっかりとした造りのドアの左右に、こじんまりとした花束が飾られている。

 他のドアと大差ないように作られているのは、国王の暗殺を妨害する意味もあるのだろうか。

 シリルはまだ寝起きで少しぼーっとする頭でそんなことを考えていると、背後から突然セレナの声が響いた。


「ではシリル様。私はこれで失礼します。あとはお二人でごゆっくりどうぞ」

「え。あの、セレナさん?」


 なんだか含みのある声色をしているセレナに対し、右手を伸ばしながら言葉を返すシリル。

 セレナは口元に手を当てながら「私もお二人を邪魔をするほど野暮では―――おっと失礼。ではごゆっくり」と早口で言葉を落とし、素早くその場を歩き去っていった。


「ええええ……ま、まあいいか」


 シリルは頭に大粒の汗を流しながらも、ヴェリーミアの部屋のドアと相対する。

 そしてそのまま、控えめにドアをノックした。

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