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第38話:ジルドの処遇

「ジルド。また仕事を怠けましたね。これ以上はもう我が城に置いておくわけにはいきません」


 シェリーは玉座に座りながらジルドと呼ばれた作業員の男を見下ろし、厳しい言葉をぶつける。

 ジルドは潤んだ瞳でシェリーを見上げ、懇願するように言葉を返した。


「お、お願いしますシェリー様! どうか解雇だけは、解雇だけはご勘弁を!」


 ジルドは両手を組みながら神に祈るようにシェリーへと懇願するが、この懇願も今月に入ってもう八回目である。

 いい加減飽き飽きしたシェリーは、大きくため息を落としながら返事を返した。


「この私の決定に変更はありません。さっさと出て行きなさい」

「ひっ!? そ、そんなぁぁ……!」


 ジルドは最終宣告をするシェリーを涙ながらに見上げ、怯えた様子で言葉を発する。

 シェリーはそんなジルドへ冷たい視線をぶつけると、兵士に向かって言葉を紡いだ。


「その男をさっさと城の外に出しなさい」

「「はっ!」」


 シェリーの命令を聞いた兵士二人はジルドの腕を掴み、そのままずるずると謁見の間から引き摺っていく。

 ジルドは地面を引き摺られながら、シェリーに向かって言葉を発した。


「だ、代々王家に仕えてきた俺を解雇するなんてありえない。酷すぎる……!」

「酷すぎるのはあなたの勤労態度でしょう。せいぜい城下町で職をお探しなさい」


 シェリーは最後に一度だけ冷たい視線をジルドに送ると、低い声で言葉を発する。

 その言葉を受けたジルドは最後に喚きながら、謁見の間を後にした。


「くそっ、許さん。絶対に許さんぞぉぉぉぉ!」


 ジルドは兵士に引き摺られ、謁見の間を追い出される。

 そうして閉められた扉を見つめるたシェリーは、まるで張り詰めていたものが切れたように玉座へ腰を下ろした。


「おかあさま……ジルド、お城の仕事を辞めさせてしまったの? どうして?」


 ヴェリーミアは城にずっと仕えてきたジルドを解雇した理由がわからず、シェリーに向かって質問する。

 シェリーは厳しい表情のまま、ヴェリーミアの質問に答えた。


「ジルドは長年城に仕えてきたけれど、そのせいか最近怠け癖が抜けなくなっていた。あのまま彼を放っておけば、きっと彼はダメになっていたわ」


 ジルドは長年城に仕えてきた一族の末裔であり、幼い頃から城の花々の世話をしてきた。

 しかし最近は仕事を怠けたり手を抜くことが多く、その様子にシェリーは危機感を感じていたのだ。


「このまま城の中で過ごしていたら、彼は勤労というものに真剣に向き合えない人間になってしまう。それではいつか大きな仕事が来た時に、きっと対応しきれない。彼の事を想うなら、一時的にでも解雇して外の風に当たらせる必要があったのです」


 シェリーは少し寂しそうに俯きながらも、しっかりとした口調でヴェリーミアへと回答する。

 そんなシェリーの答えを聞いたヴェリーミアは、こっくりと大きく頷いた。


「そっか。ジルドのためにも、お城を出たほうが良いんだ」

「そういうことです」


 シェリーは理解の早い愛娘の様子に内心微笑みながらも、毅然とした態度で頷く。

 ヴェリーミアはジルドの出て行った扉を見つめると、小さく言葉を落とした。


「王様は、いつでも優しいだけじゃダメなんだ……」

「その通りよ、ミア。貴族たるもの常に庶民を導き、手本とならなければならない。そして必要とあれば、今回のように厳しい判断も必要になります」


 よく覚えておいて。と続けながら、シェリーは毅然とした態度で玉座に座る。

 そんな誇り高い母の姿を見たヴェリーミアは、もう一度大きく頷いた。


「わかった、おかあさま。私も、立派な貴族になる」


 ヴェリーミアはぐっと両手を握り締め、強い決心を固める。

 そんなヴェリーミアの姿を横目に見たシェリーは、相変わらず真剣な表情で頷きながら返事を返した。


「そうね、頑張りなさいミア。さあ、今日はまだまだ謁見の予定が入っているから、そこできちんと見ていてね」

「はいっ! おかあさま!」


 ヴェリーミアは勇ましい表情で大きく頷きながら、シェリーに向かって返事を返す。

 そんなヴェリーミアの様子を見たシェリーは満足そうにほんの少しだけ微笑むと、次の謁見者を呼ぶよう兵士に向かって指示を出した。


『それにしても、ジルド。ちゃんと立ち直ってくれるといいけど……』


 ヴェリーミアは杖を抱きしめながら、ジルドの引き摺られていった扉を見つめる。

 シェリーも厳しいことは言っていたが、その想いはヴェリーミアと同じだ。


『仕方ないこととはいえ、やはり心配ね』


 シェリーは言葉には出さないまでも、ジルドのことは心から心配している。

 しかし今は職務中。動揺したところを配下の者に見られるわけにはいかなかった。

 こうしてシェリーの謁見はいつも通り進行され、やがて夜がやってくる。

 ヴェリーミアにとって一生忘れられないその夜は、もうすぐそこまで迫ってきていた。

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