第29話:その紋章が示すもの
「おい! 人質はまだか!?」
強盗のボスらしき人物は、苛立ちながら部下に指示を出す。
しかし次の瞬間、いつのまにかシリルの横に立っていたレウスから大声が放たれた。
「へっ残念だったなぁ! フランねーちゃんやみんなは解放しちまったぜ!」
「なっ!? て、てめえら、本当に何者だこらぁ!」
ボスは大声を荒げ、シリル達へと言葉をぶつける。
レウスはその言葉を受けると、嬉しそうにシリルのスカートへと手をかけた。
「へっへっへ……知りたいなら教えてやるよ! そら!」
「きゃあ!?」
突然レウスはシリルのスカートをめくり、シリルの内モモ及びパンツを披露する。
その場にいた強盗達は、思わずスカートの中に注目した。
「うおお!?」
「れ、レウスくん! いきなり何するんですか!?」
シリルは顔を真っ赤にすると、慌ててスカートの裾を元に戻す。
レウスはぽかんとした様子で、言葉を返した。
「へ? いや、紋章見せるのが一番早いかなーと思って」
「だからってスカートめくらないでください!」
「馬鹿……」
顔を真っ赤にしながら叫ぶシリルと、頭を抱えるリセ。
強盗団は互いの顔を見合わせると、アイコンタクトで頷いた。
「……てめえら、今なんか見えたか?」
「「「いいえ! 見えませんでした!」」」
「そういうわけだコラァ! もう一回! もう一回!」
「もう一回! もう一回!」
強盗団全員での“もう一回”大合唱。
レウスは渋々といった様子で、シリルのスカートに手をかけた。
「えー? マジかよ。しょうがねえなあ……」
「させませんよ!? あなたたちも見えてたでしょう!」
シリルは咄嗟にレウスの手を払いのけ、距離を取る。
ボスは舌打ちすると、さらに言葉を続けた。
「ちっ……だが、あんな紋章にビビるこたぁねえ! ナンバーゼロなんざ絵空事だ! てめえら、一斉にいくぞ!」
「ああもう、結局こうなるんですね……」
ボスは部下に命ずると、各属性の兵器を同時に発射する。
炎・氷・水・雷・地・光・闇の属性の魔術が全て混じりあったその瞬間、虹色のビームが発生し、シリルへと襲いかかった。
「「「エレメンツ・ブラスタァァァァァァア!!」」」
「……エレメンツ・ブラスター」
「はぁぁあああ!? あっさり相殺したぁ!?」
強盗団の放った虹色のビームは、シリルの放った虹色のビームによって相殺される。
ボスはぽかんと口を開け、目の前の現実を受け入れられずにいる。
全属性の魔術を混ぜることで初めて発現できる上級魔術、それがエレメンツ・ブラスターだ。それを目の前の女は、呪文詠唱すらも短縮して放ってきた。
そんな芸当、ナンバー持ちの魔術士の中でも上位のものしかできはしない。
そしてそんな魔術士に対して、自分達が勝てる道理は一つもなかった。
部下らしき強盗は、ボスへと恐る恐る進言する。
「ぼ、ぼぼ、ボス。あの人マジじゃないっすか?」
「マジって、マジか?」
「マジっす」
「…………」
「…………」
部下とボスの間に、沈黙の空間が生まれる。
次の瞬間、全強盗団員が素晴らしいチームワークで土下座した。
「「「すんっませんでしたあああああああああああああああああ!!」」」
大声の謝罪が、夜の空に響き渡る。
ボスは涙目になりながら、ついてねえと繰り返した。
「うう。マジかよ畜生。ナンバーゼロ、まさか実在したとは……」
せっかくこっそり街を制圧したのに、まさか最強の魔術師が出てくるとは思ってもみなかった。
完全に戦意を喪失した強盗団は土下座をしながら、全員意気消沈していた。
『全員武器を下ろしたな!? こっちにこい!!』
やがてアジトの入口から、魔術協会の紋章を背負った集団がアジトに踏み入る。
そしてそのまま強盗団を拘束していった。どうやら解放された人質が、魔術協会に知らせたようだ。
「!? まずいです。レウスくん、リセさん、行きましょう!」
「え!? こっからがいいとこ―――おわ!?」
「…………」
シリルはムーヴィング・エアを発動してリセとレウスを抱えると、その場から飛び立つ。
その後アジトでは、強盗団が一網打尽にされていた―――




