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第28話:月夜の救出劇

 真夜中の廃墟。元々神殿だった石造りのそれは、今では強盗団のアジトとして使われている。

 そんなアジトの前に立つ、女性が一人。

 アジトの門番らしき強盗団の一人は舌なめずりをすると、嬉しそうに声をかけた。


「おいおいねえちゃん。こんな時間に一人で歩いてちゃ、危ねえぜぇ?」

「俺たちがお家まで送ってやろうか? へへへ」


 門番たちは互いに目線を合わせ、意思疎通を図る。

 今頃彼らの頭の中では、下種な思考が錯綜していることだろう。


「……人質の皆さんを、解放してください」


 シリルは俯きながら、小さな声で言葉を紡ぐ。

 門番の一人はその声を聞き取り、ぽかんと口を開けた。


「はぁ? 何言ってんだこいつ」

「いいからこっち来いよ。楽しませてやっから―――」

「……ファイア・ボゥル」

「うげあ!?」


 シリルがぽつりと呪文名を唱えた瞬間、火炎弾が門番の一人を襲って吹き飛ばす。

 もう一人の門番は手に持っていた銃のような兵器をシリルに向け、言葉を放った。


「おい!? てってめ―――」

「サンダー・ボルト」

「あががががぁ!?」


 門番が兵器の引き金を引こうとした瞬間、電撃がシリルの体から門番へと走ってその全身を痺れさせる。

 門番は一瞬にして意識を失い、その場に倒れた。


「……ごめんなさい。でも、死にはしないはずですので」


 シリルは門番たちを横目に、奥へと進んでいく。

 すると別の強盗団の一員が、声を荒げた。


「おい! 寝てる連中連れて出てこい! 侵入者だ!」

「へ、へい!」


 命令された部下らしき男はアジトの奥へと走り去り、すぐに増援部隊を連れてくる。

 それらは全員兵器を持っており、皆一様に自信満々な表情をしていた。


「へへへ……バカな姉ちゃんだぜ。全員でたっぷりいたぶってやるからなぁ」


 最初に大声を出した強盗は、大量の部下と共に兵器をシリルに向けて勝利を確信する。

 しかしシリルはその状況に全く動じることなく、ブツブツと言葉を紡いでいた。


「全てを飲み込む未曾有の惨劇。今ここに降臨せん……」

「あ? 何ブツブツ言ってやがんだ?」


 一番下っ端の強盗はシリルの様子を不思議に思い、一歩近づく。

 大声を出した強盗はシリルの言葉の意味を理解し、大声で叫ぼうと口を開くが―――


「!? やべえ! 全員逃げ―――」

「テンペスト!」

「うびゃあああああああああ!?」

「はあああああああああああ!?」


 突然巻き起こった突風にあおられ、兵器ごといずこかへと吹き飛ばされていく男達。

 とはいえ落下の直前に風のクッションで多少の衝撃を緩和されたため、死傷者までは出ていないだろう。


「……ふぅっ。これであらかたの強盗団はいなくなったようですが―――!?」

「くらえやあああああああ!」


 呪文詠唱を終えたシリルに、火炎の矢が襲いかかる。

 地面を抉りながら進むその矢の威力は、明らかに中級レベル以上の魔術だった。


「フレイム・キャンセラー!」


 シリルがそう唱えると空中に波紋のようなものが広がり、火炎の矢はその波紋にかき消される。

 矢を発射したと思われる強盗団員は、我が目を疑った。


「はぁ!? 中級のファイア・アロウだぞ!? それを無傷で防ぎやがっただと!?」

「それが、おじいさんの話していた“不思議な兵器”……ですか。それは危険なものです。こちらに渡してください」


 シリルは手を強盗団の方へと伸ばし、兵器を渡すよう促す。

 強盗団は舌打ちを一度鳴らすと、背中に背負っていたもう一つの兵器を取り出した。


「はいそうですかって渡す馬鹿が、この世にいるかよ! こっちは防げまい!」


 強盗団の兵器からは水によって作られた矢が噴出され、シリルとの間にあった岩を容易く貫通する。

 シリルは落ち着いた様子で、再び呪文を詠唱した。


「スプラッシュ・キャンセラー!」


 超高速の水はシリルの手前に現れた波紋に吸い込まれ、その姿を無くす。

 それは先ほどのファイア・アロウと、全く同じ現象だった。


「はぁああ!? なんでこれも防げんだよぉ!? 炎術士なら、水系の魔術は防げないはずだろうが! てめえ、何者だ!」

「名乗るほどの者ではありません。それより、人質の皆さんをすぐに解放してください」


 シリルは動揺する強盗とは裏腹に、落ち着いた様子で言葉を紡ぐ。

 強盗は思い出したように顔を上げると、部下らしき強盗へと言葉をぶつけた。


「!? そ、そうだ。こっちには人質がいるんだ。おい! あいつら連れてこい!」

「へ、へい!」

 部下らしき強盗は言われた通り、アジトの奥にある牢屋へと走り出した。







「……ったく、団長も人使い荒いんだよなぁ。大体この鍵わかりずれーんだよ。えーっと、確かこれが牢屋の鍵だな、うん」


 下っ端らしき強盗は鍵の束をジャラジャラと鳴らしながら、自分の管理対象である鍵を確認する。

 そんな強盗の背後から、小さく高い声が響いた。


「それが牢屋の、鍵?」

「ああ、そうだよ……って誰だコラァ!」


 背後の声に反応した強盗は、兵器を構えて振り向く。

 しかしその腹部には、既にレウスのボディブローが突き刺さっていた。


「ぶぐおおお!?」


 ボディブローに悶絶し、気を失う強盗。

 レウスはその場でガッツポーズを取り、リセは冷静に牢屋の鍵を開けていた。


「へへっ、やったぜ!」

「これで……大丈夫。みんな、出てきて」

「リセ様、レウス様!? お二人が何故ここに!?」


 牢屋に入っていたフランは猫耳をぴょっこりと立て、驚いた様子で言葉を紡ぐ。

 しかしリセはその問いに答えず、フランの手を握った。


「説明は、あと。今は、逃げて」

「あ、は、はい! そうですね!」


 フランに続き、次々と逃げていく人質たち。

 こうしてレウスとリセの二人は見事、人質を救出してみせた。

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