第27話:アジトへ
「レウスくん。リセさん?」
「…………」
「…………」
「寝ちゃいました、か……」
部屋に戻ったシリルは、ベッドの中で瞳を閉じる二人の名を呼ぶが、返事はない。
その後大きく息を吸い込むと、踵を返して部屋を出た。
「二人とも……ごめんなさい」
部屋を出たシリルは、再び玄関へと歩みを進める。
時刻はもう深夜。夜の帳が降り、星空が優しく街中を照らしていた。
そして宿屋の玄関から、こっそりと外に出るシリル。
シリルは街の地図を広げ、強盗団のアジトの場所へと歩みを進めた。
「えっと、街の地図からすると、こっちの方ですね……きゃっ!?」
石畳のちょっとした凹みに気付かず、思わず体勢を崩すシリル。
倒れそうなその時、その体を小さな両手が支えた。
「……本当その癖、治らねえな。ねーちゃんそのうち、擦り傷だらけになるんじゃねーの?」
「レウス君!? 寝てたはずじゃ……」
自分の身体を支えたのがレウスだとわかると、驚いたように言葉を紡ぐシリル。
レウスは悪戯な笑みを浮かべると返事を返した。
「秘技、寝たふり! ってな! リセもいるぜ!」
「リセさんも!?」
カッコいいポーズをキメるレウスから放たれた言葉に驚くシリル。
その足元ではほっぺを膨らませたリセが、シリルの服の裾を掴んでいた。
「おねー、さん……」
「えっと、あの、リセさん……もしかして、怒ってます?」
ただならぬリセの声色に、恐る恐る言葉を返すシリル。
リセはシリルの言葉を受けると、頬を膨らませたまま頷いた。
「ん。すごく」
「…………」
リセの怒っている理由は、なんとなくわかる。
二人の実力を評価せず、単独行動を取ろうとしたことを怒っているのだろう。
シリルは謝罪しようと、口を開いた。
「……ごめんなさい。お二人に黙って行こうとしたことは謝ります。でも―――んっ」
「もう、無駄。止めても、ついていく」
リセはぱたぱたと羽を羽ばたかせ、シリルの口を人差し指で押さえる。
レウスは相変わらずの悪戯な笑顔で、言葉を紡いだ。
「俺たちの強さ、知ってんだろ? ただの強盗団に負けねーって!」
笑うレウスの表情に、迷いや恐れはない。
それは声色からも、はっきりと伝わってきた。
「……わかり、ました。ですがその代わり、作戦を立てましょう」
「さく、せん?」
リセは疑問符を頭に浮かべ、首を傾げる。
シリルは真剣な表情でリセの方を向くと、静かに頷いた。
「えー? なんだかめんどくせーなーほぐっ!?」
「人の命が、かかってる。言うこと、きけ」
「わかってるようるせーな! てかいちいち殴んなよ!」
面倒くさそうにするレウスに、すかさず鉄拳を打ち込むリセ。
レウスは殴られた頬を摩りながら、ツッコミを入れた。
「えっと……では、作戦を伝えます。お二人とも、耳を貸してください」
シリルは膝を折り、その場にしゃがみ込んで目線の高さを合わせる。
リセとレウスは、シリルの口元に耳を寄せた。
「ふんふん……おおっ! なるほどな!」
「ん。わかった」
「OKみたいですね。では、行きましょうか」
シリルは立ち上がると、強盗団のアジトへと歩き出す。
リセとレウスはそんなシリルの後は追わず、微妙に違った方角から強盗団のアジトへと駆け出した。




