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第26話:鳴り響くもの

「いやー、いい湯だったぁ。明日の朝また入ろうぜ!」


 レウスは頭の後ろで手を組み、満面の笑みでシリルへと提案する。

 シリルはその言葉を受けると、珍しく動揺して言葉を返した。


「え、朝!? あ、えーっと……そうですね。是非そうしましょう」

「??? おねーさん。どうかした?」


 普段と違う様子を不思議に思ったリセは、首を傾げながらシリルへと声をかける。

 シリルはぶんぶんと両手を横に振ると、焦った様子で言葉を返した。


「あ、い、いえ、なんでもないですじゃ」

「???」


 相変わらずおかしなシリルの様子に、今度は反対方向に首を傾げるリセ。

 しかし次の瞬間、切り裂くような声が宿屋全体に響いた。


「きゃああああああ! おじいちゃん!」

「!?」


 シリルはその声の方向を察知し、その方角へと顔を向ける。

 リセも同じ方向を見つめ、言葉を紡いだ。


「玄関の方から、聞こえた……」

「何かあったのかもしれません! 急ぎましょう! レウスくん、リセさん!」

「おお!」

「…………」


 シリルの声に返事を返し、悲鳴のした方角へと三人は駆け出していた。






「フラン! フラァァァァァァァン!」


 玄関から外へと手を伸ばし、大声で叫ぶ老人。

 シリルはすぐに老人の傍に近づくと、声をかけた。


「おじいさん! 一体何があったんですか!?」

「フランが、フランが……」


 老人はどこかふらふらとした様子で空中に手を這わせ、言葉を紡ぐ。

 レウスはただならぬ雰囲気に何かを感じ、声を荒げた。


「フラン? あのねーちゃんに何かあったのか!?」

「フラン、フランは……この街を牛耳っている強盗団に、連れ去られてしまったのです」


 老人はがっくりと肩を落とし、言葉を紡ぐ。

 その衝撃の一言に驚いたシリルは、老人へと近づき、声を荒げた。


「ご、強盗団!? ですが、この街には魔術協会の支部があるはずでは!?」

「そうだよ! 魔術協会支部があんのに、強盗団が街を牛耳ってんのか!? どうなってんだ!」


 レウスは混乱した様子で頭を抱え、声を荒げる。

 老人はガックリとうな垂れた様子で、言葉を紡いだ。


「奴らは……強盗団は、“不思議な兵器”を用いて、魔術協会支部長を攫ってしまったのです。人質を取られた協会支部は何もできず、強盗団の言いなりになってしまっています」

「なるほど。街に入った時の違和感の正体は、これだったんですね……」


 シリルは元気をなくした街の住人たちの様子を思い出し、言葉を紡ぐ。

 強盗団が牛耳っているということは、恐らく多額の奉納金を各店舗に要求しているのだろう。

 それでは商売をする気が失せてしまうのも無理はないし、値上げをしなければならない理由にもなる。


「確かにみんな。げんき、なかった……」

「くっそー。許せねえ、俺がぶっとばしてやる!」

「待って下さい、レウスくん! 下手に手を出せば、人質のフランさん達がどうなるかわかりません!」


 飛び出そうとするレウスの手を掴み、声を荒げるシリル。

 相手は人質をとっている。そうなった以上、下手に手出しは出来ないだろう。


「っ! でもよぉ……!」


 レウスはどこか納得のいかない様子で、悔しそうに奥歯を噛み締める。

 リセも同じように、両手を強く握り締めた。


「これが、奴らのやり口なのですじゃ。各家庭の子どもや親を攫い。月に一度10万ガルドを奪っていく……おかげで街中の宿屋は軒並み値上げを余儀なくされ、人質の安否を心配し、一睡も出来ないものも多いと聞きます」

「無理もない、ですね。だからあんなに活気がなかった……と」


 シリルは再び街の様子を思い出し、奥歯を噛み締める。

 何故あの時異変に気づき、魔術協会に行かなかったのか。シリルは自分自身を責めていた。


「でも、このまま放っては、おけない」

「っ! リセさん……」


 リセの小さな言葉に、息を飲むシリル。

 細く消え入りそうな声。しかしそこには確かに強い“芯”が感じられた。


「そーだよねーちゃん! 俺たちでなんとかしてやろうぜ!?」

「…………」


 レウスは自らの拳同士を打ち付け、シリルへと言葉をぶつける。

 シリルは人差し指を曲げて顎に当てると、何かを考え込んでいた。


「そんな、危険ですじゃ! 奴らは血も涙もない強盗団ですぞ!?」

「なぁに、大丈夫だって! 俺たちけっこーつええから! な、ねーちゃん!」


 笑顔で言葉を紡ぐレウスだったが、シリルはその言葉に反応しない。

 シリルの様子を不思議に思ったリセは、小さく声をかけた。


「おねえ、さん……?」

「私達だけで救出するのは……やはり、危険すぎます。ここは明日朝本部に報告して、改めて救出計画を練るべきです」

「!? ねーちゃん、何言ってんだよ! フランのねーちゃんが心配じゃねえのか!?」

「そう。今すぐ助けに行く、べき……」


 珍しくリセとレウスが協調し、二人でシリルへと言葉を紡ぐ。

 シリルは奥歯を噛み締めると、珍しく声を荒げた。


「私は! あなた達も心配なんです!」

「「っ!」」


 シリルの迫力に押され、押し黙るリセとレウス。

 シリルは落ち着いた様子で、言葉を続けた。


「三人で助けに行くには……危険が多すぎます。そんなリスクは、おかせません」

「…………」

「…………」


 シリルのゆっくりとした口調に促されるように、声を出さない二人。

 老人は不安そうな表情で、シリルへと言葉を紡いだ。


「是非、そうして下され……。あなた達の気持ちは本当にうれしい。ですが、下手に手を出してフラン達に何かあればわしは、わしは……」

「大丈夫です。おじいさん。本部の力は本物ですから、きっとなんとかしてくれますよ」


 シリルは老人の両手を強く握り、言葉を紡ぐ。

 老人は安心した様子で、肩を撫で下ろした。


「なんだよ、それ……結局ねーちゃんは俺たちの事、信用してねーのか!?」

「そんな、レウスくん。私はそんなつもりじゃ……」


 レウスはシリルの言葉に激昂し、声を荒げる。

 シリルはレウスの声に反応し、言葉を返した。


「そう。おねーさんは、リスクの高さを言ってる。言ってることは、正しい」


 リセはシリルの言葉を理解し、促すようにレウスへと言葉を紡ぐ。

 レウスは奥歯を噛み締めると、振り返って部屋の方角へと走り出した。


「っ! もういい! クソして寝る!」

「レウスくん……」


 レウスの声を聞いたシリルは、心配そうな声で呟く。

 そんなシリルの裾を、小さな手がくいくいと引っ張った。


「おねえ、さん……」

「リセさん?」


 俯いた様子のリセに疑問符を浮かべ、その名を呼ぶシリル。

 リセは消え入りそうな声で、言葉を続けた。


「レウスじゃ、ないけど。さっきのはちょっと、悲しかった」

「リセさん……」


 リセは裾から手を離すと、部屋の方へと歩いていく。

 シリルはそんなリセの声を受け取ると、その名を小さな声で呼んだ。


「では、どうかこの事は内密に……本部の件、どうぞよろしくお願いしますですじゃ」


 老人はシリルへと深々と頭を下げ、言葉を紡ぐ。

 シリルはその言葉を受けると、はっきりと言葉を返した。


「……はい。わかりました。任せておいてください」


 シリルは何かを決意するように右手を握り締め、言葉を返す。

 その後ゆっくりと踵を返すと、自室へと戻っていった。

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