第17話:そして旅が始まる
「どーよ、ねーちゃん! 俺らすげーだろ!?」
「みてて、くれた……?」
平原で待っていたレウスは頭の後ろで手を組み、悪戯な笑みを浮かべる。
リセはシリルの姿を認めるとすぐに駆け寄り、ローブの裾を掴んだ。
「ええ、もちろん見ていました。お二人とも、凄いです。三年前よりずっと、成長したんですね」
シリルはその成長が嬉しかったのか、にっこりと微笑み側に来たリセの頭を撫でる。
レウスは両手をぐっと握り、眉間に力を入れて言葉を続けた。
「だろ!? 足手まといにはならないし、ぜってーついていくからな! 止めたって勝手に追い掛けるぜ!」
「…………」
レウスの言葉を受け無言のまま、思考を巡らせるシリル。
確かに今回の旅はあくまで、探索の旅。下手に危険地帯へ行かなければ、戦闘は極力避けられるだろう。
「わがままいって、ごめんなさい。でも、おねがい。つれて、いって……」
リセは不安のせいか口を一文字に結び、シリルのローブの裾を強く握りしめる。
しかしシリルの心は、二人が関所を突破したその瞬間からすでに決まっていた。
「わかりました。でも、約束してください。今回のような無茶は、道中決してしないと」
シリルは真剣な表情で二人へと顔を向け、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
その言葉を聞いたリセは、まるで花が咲くような笑顔になった。
「う、ん。うん! やくそく、する!」
「ひゃっほー! やったぜ!」
レウスは喜びのあまり飛び上がり、拳を天へと突き上げる。
その姿に不安を感じたシリルは、大粒の汗を額に浮かべた。
「ほ、本当に、大丈夫かな……」
喜ぶレウスとリセの姿に、若干の不安を覚えるシリル。
しかし、これでいいのだ。
ここで断れば、この二人は勝手にシリルの後をついて来るだろう。
それならいっそ、姿の確認できる範囲にいてもらった方がシリルとしても守りやすい。
それはある意味、苦渋の決断だった。
『でも、不思議。不安はもちろんあるけれど……ちっとも、嫌じゃない』
シリルは胸の中に去来した不思議な感覚を、胸に手を当てて考える。
自分は―――この感覚を、知っている。
目が見えなくなったばかりで、不安だった頃。
憧れのあの人が、側で本を読んでくれた。
あの時の、不思議な気持ち。不安な気持ちはいっぱいなのに、何故か安心できた。あの感覚。
「本当に、不思―――あれ!?」
思考の海に落ちていたシリルはふと、近くにレウスの姿が無いことに気付く。
シリルのローブを掴んでいたリセは、シリルを見上げて言葉を紡いだ。
「レウス、なら。先に、走っていった……」
「さ、早速!? レウスくん! レウスくーん!」
シリルは急いで駆け出すと、先に行ってしまったレウスの名を呼ぶ。
そんなシリルが何もないところで転び、リセに助けられるまで……あと、数十秒。
エルガンティアの草原は今日も爽やかな風を運び、空は旅人たちを優しく見守る。
波瀾万丈の旅路はこうして突然に、その幕を開けた。




