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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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悪夢の終わりと破滅の始まり32

「なんて事でしょう。塩を撒かれ、硬く締まった土地が滋養豊かな土地に代わり、今までなかった水路が編み目のように作られたではありませんか。」


”前と後“という番組の説明口調が頭をよぎった。

元々、あの番組は展開が早くて今にも崩れそうな建物が、CMが終わったら補強が終わった状態になっていて、何が起こったんだと聞きたくなった事がある。

今、俺の目の前には岩山から流れて来ているっぽい綺麗な水が、剣圧(ソニックブーム)で作られた水路を通り、ちょっとした大学が軽く一校は入る塩を撒かれた土地は、土を入れ替えられ水路からまんべんなく、くべられている。

本来、重機を使って一週間はかかる作業が。

たった今、目の前で行われた。


「あ、あぜ道を……。」


田んぼを仕切る壁であり、通路でもあるあぜ道は、俺の言葉に「フム。」と頷いた紫さんが杖を地面に向けると浅い池のようだった土地に真っ直ぐ長方形に仕切られた、人二人が行き来できる幅で盛り上がる。


「……田の下に土に沁みた田の水が排水溝に流れるように管を刺して……。」


またまた、紫さんは「フム。」杖を振り。


「これでよし。」


俺には見えないが紫さんがよしと言うならそうなんだろう……。


「紫さんは召喚術が主技能なのに、人形使いって言われるくらいゴーレム作成に魂かけてるんだよ。」


司が凄い事に聞こえてよく考えると気味が悪い話をしてくれる。


「やはり、男子たるもの白い悪魔と赤き流星は作りませんとな。」


穏やかな中年男のイメージが崩れた瞬間だった。そう言えば、この人は蒼井さんが持つ”音速を越えて飛ぶホウキ“なんて訳分からないものの製作者だったっけ。ただ、これは言っておきたい。男だからと言って白い悪魔か赤き流星なMSを作る訳じゃない。 俺なら動く棺桶な方を作るからな!


「……お兄ちゃんも紫さんの仲間(同じカテゴリー)だったか。」


俺の顔を見ていた司はため息と共に呟いていた。




俺は土の入れ換えと水路の作成に一週間から二週間を見ていた。それから稲を植える予定だったから、今年の収穫は遅く少なくなる、と踏んでいた。だから、元の世界で大学の収穫を誤魔化して持ってくるつもりだった訳だが。

田植えは「フム。」と頷く紫さん。

田の中から触手のように泥が盛り上がり稲を取り上げ自分に植え付け。

水の調整は「フム。」と頷く紫さん。

あぜ道に作られた取り口に板が張りつき田んぼの水量を自動調整し始め。

もちろん、紫さんは農作業は初めての経験らしく、細かい部分は俺や苺さんが指示していたが午前中の作業でほぼ、やりたい事が終わった。

水を得た田んぼには、ある程度、大学で育てた苗が真っ直ぐ立ち、その向こうには実験的に土を入れ替えなかった土地で苗を育て、ビニールハウスでは、こちらの水のみで育てる水栽培を試している。

紫さんの「フム。」を何回聞いただろうか。「フム。」の回数分、理不尽な暴力を見せつけられたのだが。


「直樹。」

「なんだい、苺さん。」

「私達って必要だったのかしら。」


見ていた苺さんは平淡な声で俺に問い掛けてきた。


「うん、そうだね……。」


それに対して俺が応える言葉は


「俺も同じ事を考えていた。」


空を仰ぎ見て、当たり前な事しか言えなかった。


「じゃあ、切りの良いところでご飯にしましょう?」


ただ、見ているだけだった俺達に、この人も理不尽の固まりな蒼井さんがピクニックバスケットを持ち上げ手を振っている。隣には苦笑いの赤谷。赤谷も理不尽だった。剣圧でけっこう深い排水溝を作り、何キロ先になるのか水源の岩山辺りまで水路を作った。こうなると司の他の仲間達も理不尽な人達なんだろう……。

蒼井さんはピクニックバスケットから大きめの丸テーブルを取り出し、人数分の椅子を取り出し、砂浜でよく見る大きな日傘を取り出し、赤谷渡す。赤谷は丸テーブルの真ん中に開いた穴に日傘を差して。

蒼井さんはピクニックバスケットから、更に人数分の食器を取り出し、大皿に一杯のサンドイッチを三皿も取り出し、ティーセットも人数分取り出し、スイーツタワーを取り出し……。

……これは突っこみ待ちなんだろうか。

ピクニックバスケットは籐で編まれた鞄タイプでカギの部分が犬の足あとの形をしている可愛いバスケットだ。大きさもペットボトル五本ぐらいしか入りそうもない大きさ。それから出てくる筈がない物が出てくる。

……絶対、突っこみ待ちだ。

蒼井さんがチラチラこっちを見ている。赤谷は相変わらず苦笑い。紫さんはニヤニヤ。司は深ーいため息。そして妹の七歌と苺さんが両方の脇腹を肘でつついてきている。

まだ、何か出すつもりなのか蒼井さんはチラチラしながらバスケットに手を入れていて。

俺は仕方なく蒼井さんに突っこんだ。

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