悪夢の終わりと破滅の始まり23
「ほら、行くぞ。」
お兄ちゃんが蒼井さん特製の三人乗りホウキに跨がって僕に手を伸ばした。このホウキ。蒼井さんの妙なコダワリが感じられる一品でホウキとして使える大ホウキだ。木彫りなのに竹のような節を彫り筋を象った棒の部分はお兄ちゃんのおっきい手でないとしっかり握れないくらい太い。ホウキのシッポ? あの掃くときに使う部分はキツネのシッポを何頭分かまとめたかと思うほどおっきくてフサフサしたのが伸びてる。
お兄ちゃんはそんなホウキの前側で棒に跨がり片手でホウキを持ち片手を僕に伸ばしたんだ。なんていうか……見た目が……スッゴイ……。
ナナカねーちゃんは蒼井さんの小さなホウキに蒼井さんと二人で横座りして早くも浮かんでいる。二人共、「早くはやく」って顔をして。
しかたないな……。
たぶん、自分の前に僕を乗せて後ろに苺さんを乗せるつもりなんだろうけど、僕はさし伸ばされた手を無視して、お兄ちゃんの背中にしがみついた。固まるお兄ちゃんに”当ててんのよ“状態にはなったけど、僕に「その気」はない。ホウキに横座りした僕は、戸惑ってた苺さんを呼んで僕にキッチリしがみつくように言う。苺さんは不思議な、というより不審な顔をしたけど僕と同じように横座りでホウキに座った。
「じゃあ、エレナさん。司がいない間の事をよろしくお願いします。出来る限り不在に気づかせないでください。」
「お任せください。」
お兄ちゃんは何故かこの場所にいた、僕の監視役の神官に信頼しきったキラキラ笑顔を見せて、神官はほのかに赤らめた顔を、お兄ちゃんに向けて
「もともと”聖女“様は病弱と噂になっております。ここ暫くの”聖女“様の頑張りは”聖女“様の評価のみならず、こんな所でも誤魔化しの効く材料となりましょう。」
エレナ……っていう神官はチラッと僕を見た後で
「直樹様。”聖女“様をどうかよろしくお願いします。」
お兄ちゃんに深く頭を下げた。
そんな神官に「お前が言うか」っていいかけた僕は
「おう、任された。」
「そうね。司さんは私達に任せて。」
お兄ちゃんだけでなく、苺さんまで神官に笑いかけて答えていた。
「お兄ちゃん?」
ムウウってしながら背中をつねった僕は苦笑いしている、お兄ちゃんに
「司、味方は必ずいるはずだ。」
とても納得できない言葉を言われた。
「司君、そろそろ行くわよ?」
しびれを切らしたみたいで蒼井さんが言葉と同時に大ホウキが浮かび上がって
「ひゃあっ!」
いきなり浮かんだから苺さんが見かけに合わない可愛い声で悲鳴をあげた。けど、甘いな。これからが……。
「行っくわよぉーっ!」
ゴンッ!
何かをぶち破った衝撃があった。
「キャアアアアッ!」
苺さんの声が後ろに置いてきぼりにされた。
そう、これが音を越えた世界。
その名をマッハ。
ホウキでマッハ。
バカだよね……。
蒼井さんの防御魔法がなければ、何処に吹き飛ばされるか分からない。
「蒼井さんも紫さんも。よく分からないこだわりあるから……。」
僕はホウキでマッハを感じながら、もう二度と乗るものか! と心で叫んだ。




