誰かのひとり言 1
荒ぶる戦神と神の子の二柱に星の作り方、育て方を子供向けのシュミレーションゲーム、“作れ! 世界”を元に教えて貰っていた私は短い休憩時間に私の世界を覗いてみた。
ところで、このゲーム。
良くできていて、ちょっと変な事をすると、すぐに滅亡や惑星崩壊になってしまう。46億年の歴史をもつ地球をベースにしたデータの筈なのに、私がさわると20万年しかもたない。
「だから! なんで風向き変えただけで生き物が全滅するのよ。」
苛々《いらいら》しながら“PASS AWAY”とロゴが出てきた画面にコントローラーを投げつけた私は偏西風とやらが天候の不安定さの原因らしい事を突き止めた。この偏西風、温度の違いで発生するようで北と南が冷たくてまん中が暖かい以上、無くなる事はありえない。それならば、と寒い地方に直接、暖かい風を向けてやれば地球全体が程好くなって天候の不順が無くなるなんて考えた私は直接届く風の流れを「ロケット気流」と名付けてやってみた。
北と南の凍った部分が溶け出し地表がちょっと海に隠れて、あっという間に陸上生物の一部が水没。慌てた私は「海を暖めれば蒸発して地表が出てくる筈」と温度の調整をしてみたら鳥さん達が“入れ食い爆釣”のBBQバーティを楽しめる事に。ただ、その鳥達もやまない雨に次々と翔ぶ力を失い、わずかに残っていた地表の植物も高温多湿を越えた気候に根を上げて枯れていった。
更に慌てた私は海水温を下げるもの、時すでに遅く地表の九割を占めていた海は五割を切っていて雨もろくに降らなくなっていて、冷やされる事が無い土地は、熱を溜め込んでどんどん砂漠化。硬くて気密性の高い殻をもつ昆虫達も、まったく水分の無い世界には耐えられず絶えて。
“PASS AWAY”のシンプルな文字が浮かび上がって私は仰向けに寝転んで低い声で
「あーー~っ!」
出入り口のドア以外、何もない、この白い部屋は“神の遊戯室”と呼ばれ時間の流れが殆ど無い。今日で何百回目の滅亡か数えていないけど、この部屋に入ってからは休憩もとらないでシュミレーションをしていた私の気力は限界になっていた。
そこで気まぐれに私の世界を覗いてみたのだけど。
「……なにこれ……。」
私の世界を救った人達が、私を崇めていたはずの人達に無理難題を押し付けられていた。特に私の神子と見ていた“聖女”が気味の悪い豚さんに迫られて必死にかわす姿に開いた口が塞がらない。
“神殿”で。私の代弁者とも言うべき神殿長や大神官がいるのにとめもせず。
「なによ……これ……。」
“お兄ちゃん”が大好きな“彼”は“お兄ちゃん”の為に“女の子”になっていたはず。間違えても唇を猿のように押し上げて迫る形の悪いボールのようなオヤジの為じゃない。
私が強制的に介入をしようとしたら背中の向こうからニョッと太くて逞しい腕が伸びて来て私を止める。
「ほほう。これは面白い事になっておるの。」
大神の一柱、戦神が長い髭を揺らして笑った。
「……悪趣味ですね。」
しかめっ面で呟く、もう一柱の私の教官が戦神の言葉に応えた。
「“彼”を助けるべき“彼ら”は黄金の輝きに眩んでいるようですね。」
別に私が選んだ訳じゃないけど、神殿長と大神官の金貨を数える姿に私は顔を赤らめた。いくら私でも床に落ちた金貨をヘラヘラ笑いながら拾う浅ましい姿を見せつけられると。
「じゃない。あの子を助けないと。」
私の見ている前で“聖女”に手を出そうとしていた丸い塊は“聖女”に逃げられて、しかし、嗤いながら言葉でいたぶっていた。
“聖女”は“塊”が追いかけてこないのを確認してから。
物影に隠れ。
顔を覆って泣き出す。
「なんで僕があんなのにっ!」
“聖女”は“塊”に触られたらしい肩の辺りや腕を爪で抉り、そぎおとした。そのせいで左側の腕はあちこちに白い骨が見えて血が滴るところか吹き出している。たちまち赤い色に染まっていく神官服。
「僕の体はお兄ちゃんしかさわっちゃダメなのに……お兄ちゃんだけの僕なのに……これじゃお兄ちゃんに嫌われちゃう……ヤダよ……ヤダ……。」
開いた瞳孔から止めどなく涙を流して抉っていく“聖女”は傷みを感じていないのかもしれない。やがて、腕の半分以上をこそぎおとした“聖女”は流れ落ちる血が地面に広がるのも気にしないで
「お兄ちゃん大丈夫ダヨ。」
“最上級回復快癒魔法”の輝きが“聖女”を包み腕が元通りになっていく。
「ほら、キレイになった。」
腕を誰かに見せるように高く上げた“聖女”は次に血で濡れた服を両手で払うようにした。
「蒼井さんの“清浄の魔法”は使えるなあ。」
独り言を呟く“聖女”は再び光に包まれ、汚れた服は洗い立ての輝きを取り戻す。よく見ると“聖女”の足元の血溜りとそぎ落とされたモノも消えていて。
「……なんというか、すざましいの。」
一連の流れを見ていた戦神がため息をつきながら髭をしごく。
「だが、これは良いかも知れぬ。」
“聖女”の狂気に当てられた筈の戦神は、うむ、とひとりごち。
「あの深い愛を貫く“彼女”なら教える事ができるかも知れませんね。」
形の良い眉の間にシワを作った神の子は私に向き直って
「“女神”としての“権限”を限定してあなたに返します。あなたとあなたの世界の為に全てを喪わざるを得なかった彼らと彼らに関係した方々に“救い”を。」
「うむ。それが成れば主が創る世界が短命な理由が分かるであろうな。」
二柱の大神は私に、そう言った。
―2級 特認 限定神 の 権限 を得ました。
―反省は猿でもできる の 称号 を得ました。
久しぶりに聞いたインフォメーションと共に私の首からネックレスみたいなモノがぶら下がる。いや、ネックレスなんて立派なモノじゃない。首から下がる紐は古びた木の板がつながっていて、
「反省中」
三文字の言葉が書かれていた。
そりゃ称号“ビッチ”よりいいんだけど。いーんだけどっ!
私は声にならない声で抗議する。
これって関係者全員を幸せに出来なきゃ無くならないヤツだよね?
ガクッと肩を落とした。




