悪夢の終わりと破滅の始まり20
投稿の日にちを間違えました。
申し訳ありません。
毎週、水曜日 午後9時に投稿するようにしています。
……ムゥっ。
神殿で神官達や信者達に媚びうる生活も、もう一週間。お兄ちゃんと苺さんがこっちに来てからも同じ時間が経って。蒼井さんは忙しそうに空を飛んで領地と行ったり来たり。戻って来るとお兄ちゃんと話しして僕のお付きの女神官に何か言ってにたりして、僕とは立ち話をする程度にしかかまってくれない。
お兄ちゃんも苺さんと「研究の為」とかいって歩いて片道二時間かかる麓の街に遊びに行ってはピーマンやほうれん草やレタスやきゅうりを買ってきて仲良くキッチンで料理して食べてる。
ムゥゥゥっ!
たまに苺さんがいなくなってて「ちゃ~んすっ」って話しかけても、なんかソワソワしてて
「ごめん司。後でだっぷり時間作るからさ。」
……はあああぁぁぁぁ……。
僕が小学生の時は僕が一番だったのに。そうですか。彼女サンができたらそっち優先ですか。へーそうなんだ。へーっ!
お兄ちゃんは時々、苺さんと部屋にこもって出てこない。蒼井さんも入っていくから……その……へ……変な事……してないって思うけどさ。
けどけどだけどだけどね?
一人一人に部屋を割り振ったんだし、話し合いたいならこの部屋を貸すし。やっぱり若い二人がひとつの部屋にこもるのは良くないって思うんだ。
そう思っているんだけど……。
お兄ちゃんの妹で僕にとっては姉みたいなナナカねーちゃんが言った言葉が。
僕にとって苺さんは邪魔者。お兄ちゃんと苺さんにとっては僕は厄介者。
まさか、お兄ちゃんが僕を邪魔者とか厄介者なんて思うはずない。ねーちゃんに言われた時は、そう思って……落ち着いて考えたら僕はかなり最低な事してるって理解しちゃって……良くわかってなかったまま言った「寝とり」が、そんな軽い言葉じゃないって今さら分かっちゃって……だから僕はお兄ちゃんと苺さんに何も言えないし、お兄ちゃんと苺さんが一緒にいたら近づかないようにした。
ムゥゥゥゥゥゥ~!
だけどだけどねそうなんだけどね?
僕から少し間をあけたんだけどね?
お話しもしないし部屋にこもって出てこないし朝市デートして楽しそうに見せ合って狭くはないけどキッチンで料理して二人で作った料理を食べさせ合って何時もならこれから二人で部屋に行って何かしてて晩ごはんまで出てこなくて蒼井さんがいたら蒼井さんとずっと話ししていなかったら女神官達と話ししてて日が暮れてやっと僕の自由時間って思ったら夜の街を見に行くとかいって遅くならないと帰って来なくて帰って来てもお酒臭くてあいさつだけして寝ちゃって朝起きたらすぐに朝市デートを苺さんと楽しんでそれ一週間もずっと見せられて僕といえばその間神殿長に文句言われて大神官に嫌み言われて神官達に邪険に扱われて神殿長を敬うふりして大神官の言う事ごもっともって頭を下げて神官達に話しかけて無視されても気を効かせて優しくして針山に座っているような中で信者達に笑顔を振りまいて……。
もう限界だよっ!
お昼ごはんを食べに帰って来た僕の前で仲良くお昼ごはんをモグモグしているお兄ちゃんと苺さんにビシッと指を突きつけた。お兄ちゃん達に向けたこの指には一週間の僕のうっぷんが込められている。……気持ちで。
「フジュンイセイコーイ禁止!」
お兄ちゃんと苺さんはいきなりの僕の言葉にポカーンって顔をしている。二人のその顔を見ていたら。
あ、ちょっとスッキリした。
「あー……。まあ、放ったらかしにしたのは悪かった。」
お兄ちゃんが声をかけてくれてる。けど僕は顔を上げる事が出来なくて両手で顔を隠していた。
お兄ちゃん達がお昼ごはんを食べていたのはここだった。この建物は小屋と言っても山頂にある女神の言葉を聞く為にある祈祷所に行く前の休憩所で待機場所で神殿長や大神官が定期的にやってくる“山頂に一番近い神殿”でもある。つまりある程度の人数でも対応できるように執務室付きのキッチンと食堂のキッチンと別れて二ヶ所ある。
なんでお兄ちゃん達は朝ごはんや晩ごはんを食べる食堂じゃなくて僕の部屋の隣り合わせの、ここでお昼ごはんを食べていたのでしょう?
言われて気づいたんだけど僕はお兄ちゃんと距離おこうとしてた。……で、実際、距離おいていたんだけど一緒に食卓についても「忙しい」とか「神殿に行かなきゃ」とか「暇なお兄ちゃんと違って僕、仕事があるの。」って言った記憶がおぼろげに……。
や、だって毎日いじめられて毎日イチャイチャ見せられてリヤ充爆発しろっ! って思ってたんだもん。つい爆発する事ってあるよね。
何となく時間をずらしてごはんとか用事も無いのに神殿に行ったり祈祷所で女神に恨みごとを叫んだり気になっているのに気にしてないふりして「二人っきりにしてあげなきゃ」とかおせっかいしたくなって後から「僕、なにしてんだろ……」とか思っちゃうよね? ね? そうだよね?
誰にいうともなく言い訳するけど僕のやった事って
「かまわないでって言ったのにかまってもらえなくて怒りだした。」
恥ずかしいよぉ。
絶対、僕の顔赤くなってるよ。
「よしよし、かわいいわよ? ツカちゃん。」
土日の休みを利用して様子を見に来たナナカねーちゃんが僕と一緒に応接の長椅子に座って頭を撫でてくれる。
「司君にも、そんな所があるって安心したわ。」
珍しくお昼に領地から戻ってきた蒼井さんがもう少しわがままでもいいのよ? って言いそうな顔でナナカねーちゃんと逆の方に座ってポンポンと背中を叩いてくれている。
ナナカねーちゃんも蒼井さんもありがと。けどかえって居たたまれないからもう忘れてください。
向かいの席で苺さんが声を出さずに笑っていて、お兄ちゃんはなんかウロウロしてた。
僕がお兄ちゃん達に指を突きつけた時、ナナカねーちゃんと蒼井さんは執務室に来てた。そこに僕の「フジュンイセイコーイ禁止」の叫びが響き、そんな暇があるわけない事を知ってる蒼井さん、僕が言う事かよってナナカねーちゃん、ともに大爆笑。しばらくして我に返ったお兄ちゃんがいろいろセツメーしてくれて苺さんが時々補足のセツメーしてくれて
「あー……。まあ、放ったらかしにしたのは悪かった。」
先程の言葉につながるのです……恥ずかしいよぉ。自分で言った事も忘れて八つ当たりしたのも、お兄ちゃん達が何でここでお昼していたのか気づかないのも、時間をずらしてお昼する僕に合わせて今ここにいる事も、暴走して勝手に自爆して恥ずかしくって顔を上げれなくなっているのも、全部ぜーんぶ、恥ずかしい。
「ま、ツカちゃんはまた後でからかうとして、どうなの、あんた。そっちの方は。」
頭を撫でるのをやめてナナカねーちゃんがお兄ちゃんに訊いた。って言うか、まだからかうつもりっ? その前にツカちゃんって小学校に上がる前のあだ名で呼ばないで。
「ああ、七歌の言う通りだった。反対派がいるのは予想していたけど賛成派の中に反対というか中立層がいるのは予想外だった。」
「やっぱりね。あたしはそう言うの嫌いだけど、どんな集まりにも必ずいるのよ。付和雷同というか長いものには巻かれろっていうか、自分の意志が無いのが。」
お兄ちゃんが答えて、得意そうにナナカねーちゃんが無い胸をはる。最近は食生活が変わって日本でもステータスって言われているらしいけど……とナナカねーちゃんと苺さんをチラリ。苺さんは“モデル体型”って言える。……ナナカねーちゃんは中肉中背、これといって特長無いのに。
ガツッ。
視界がぶれてグラングランした。一瞬何が起こったのか分からなかったけど遅れてジワリと痛くなってきた頭に手をやって、コブが出来ているのでようやく分かる。
「ってか、スッゲェいってぇんだけどっ!」
いきり立つ僕をナナカねーちゃんは懐かしそうに見つめ
「あら、大事な話をしようとしているのに余計な事を考えるからよ?」
と澄まし顔でクスクス笑い。僕が更にナナカねーちゃんに文句を言おうとしたら
「司も七歌も聞いてくれ。これからの事を話すぞ。」
報告をまとめて方針を決めるのは、僕達の場合はうん、イヤだけどリーダーは赤谷だ。けど、僕のリーダーはお兄ちゃん。お兄ちゃんの言う事は全てに優先される。例え頭がジンジンしていてもねーちゃんにやり返せなくてお腹がグツグツしていても。お兄ちゃんが撫でてくれたらどうでもいい事さ。
“痛いのいたいの飛んでけ”っと擦ってくれたお兄ちゃんの手の暖かさに顔がヘニョってなった。
ナナカねーちゃんがつらそうに目をそむけた事も蒼井さんが苦虫をかみつぶした顔になったのも知ることも無く。




