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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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悪夢の終わりと破滅の始まり16

僕は大神殿の中で膝まずいて拝んでくる人達を何時もの顔で見渡した。僕の作ったこの顔が、ここの人達には“慈悲深い聖女の微笑み”に見えてるんだというから違う意味で笑いたくなる。わざわざふもとの街から一時間はかけて大神殿まで登って来ている、この人達には悪いけど僕はこの世界の人に優しくする気持ちは無い。

そりゃ、元の世界に戻すって約束があったから、つらい思いをこらえて“魔王”ってヤツを倒したけど。あんなに邪魔して言い掛りつけられて苦労させておいて“魔王”を倒したら、身勝手に“英雄”とか言われて“聖女”の称号まで押しつけられて、“女神のしもべ”扱い。世界を救ったのは事実だから言われてもいいけど“しもべ”ってなんだよ。

みんなで“魔王”を倒して、しぶる“女神”に、やっと約束を守らせて向こうに帰れるってなって、赤谷と蒼井さんと橘さんが先行隊で先に帰った時に、お兄ちゃんの事を考えながら街をぶらついていたら偉そうな筋肉が街中で土下座するような勢いで頭を下げて


「異界に帰られる“聖女”に最後のご挨拶をしたいと存じ上げます。」


なんて言われて断りきれず、ノコノコ行った神殿では“明るい笑顔”の人びとが僕を見て膝をつき、“お礼の言葉”をかけてきたから驚いたのと少し罪悪感がわいてきた。


やめてよ、僕はあなた達の為にやった訳じゃないんだ。

お兄ちゃんがいる元の世界に戻る為に頑張っただけだから、勘違いしないで。


そう言いたかったけど次々話しかけてくる人達の勢いに押されて何も言えない内に綺麗なお姉キャラな女の人が三人、目の前に出てきて両手を広げて優雅な礼をして。貴族のようなというか貴族だった訳なんだけど、その三人の熱意とその場の雰囲気と勢いに負けて「帰らない」宣言をしてしまった僕はホントにバカだった。

神殿に残ると言った時の大神官が“してやったり”顔がうざかったけど、この時までは“僕を必要としてくれた”人達に、あんなに横槍を入れられた事も忘れて嬉しくって、いろいろなものを我慢しようと思っていたのに。

この世界はやっぱり、あの“女神”が創った世界だった。

“信者”との面会の後、神殿の中の一室なのに、やけに豪華な部屋で神官達に威張り散らしたり、女神官の体を触りまくっていた着ている服は立派な丸い顔と体の男に会わされて


「俺の妻としてやるから貴族の仕来りを覚えておけ。」


ブクブク太った男は僕に言ってジロジロ見てきた。僕も女になってしばらく経つから男の目が僕自身を見ているのではなくて女として、そして商品として見ているのに気づいた。気づいたけど、どうすればいいのか分からなくて。固まって動けなくなった僕をニヤリと気持ち悪く笑って見た男は僕の教育係兼監視役で女の人を三人、紹介した。

青ざめた顔の三人は、“信者”達とともに僕を縛りつけようとした三人で。


「お布施を頂きたいのですが。」


大きい体の筋肉が両手を揉み擦るように太った男に言う。筋肉の言葉に太った男がめんどくさく懐から袋を取り出し床に投げ捨てた。袋からは金色に輝くコインが数えきれないぐらい溢れて散らばり、筋肉がヘラヘラ笑いながら拾っている。

バカだった僕も、ここまでされれば分かる。わかってしまう。


「いいか、“聖女サマ”を逃がすな。」

「分かっておりますとも。ここは山の中腹にあたるうえに麓は信者どもが住む街がありますからな、知られずに逃げるのは無理でしょうな。」

「しかし、仮にも魔王を殺した者だろう。それだけでどうにかなるのか? わしの妻を逃がすような事があればどうなるか分かるな?」

「……わ、分かっておりますとも……信者どもにも“聖女”がいなくなることがあれば、この世の救いはないと言い聞かせておりますからな。これで逃がすような事があれば、その信者ごと殺して“聖女”への戒めとしましょう。よもや先に会えた“信者”どもを見殺しにするような事は“聖女”である限りありますまい。」


僕が固まっている間に勝手に言い合っていた筋肉と豚が自分勝手な理屈を捏ねまくっていた。


さすが女神(アレ)の創った世界の住民だ。


僕はそう思っていたけど、まだ余裕はあった。お兄ちゃんのいる世界に戻ればこんな世界の住民なんか知らないって思ったから。

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