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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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悪夢の終わりと破滅の始まり11

昨日は父さんに風呂に放り込まれて、長々と自慢話なのか自虐話なのか分からない話を湯船に浸かったまま聞かされた。結果、また部屋のベッドに裸で寝転ばされる事になったのだが、今までと違うのは出入口の鏡は部屋の外にあって見られる心配が無いって事。安心して着替えが出来る。そう考えながらパンツを履くために片足立ちになった時、


「お兄ちゃんっ。おっはよーっ。」


元気に司がドアを開けて、固まった。司の後ろには、何時ものように蒼井さんがいたが、ため息をついてあさっての方を見ている。

しかし司は初めの頃の両手で顔を隠した可憐さ、2回目の呆れた顔の可愛さが全く無い無表情な顔で片足立ちでブラブラしている俺のをジッと凝視して


「お兄ちゃんのお兄ちゃんって大人な感じだね。」


ツツゥ、と赤い液体を鼻から流しながら言った。

神様仏様どっかの偉い人様。俺の司が一般人から離れて(変態になって)いく件についてお教えください。

どうしたらいいでしょうか?

とりあえずパンツを上げた俺は半裸(パンいち)のままでさめざめと泣くしかなかった。





「エヘヘヘ。ごめん。」


司はこんな軽い性格だったろうか? 口の端からちょっと舌を出して上目使いで笑う司に今更ながら首を傾げて考えるが答えは出なかった。

今朝のドタバタから時間はたち昼前には苺さんも来て父さんと母さんに挨拶をしている。今日の予定は苺さんを向こうの世界に連れていき世界観というか植生を見に行くのが目的だ。

蒼井さんによる向こうの世界のレクチャーを軽く受けた後、ようやく姿見の前に立つ。


「直樹? 本当にこの鏡に入れるの?」


なんの変哲もない姿見の前で苺さんが、緊張を隠せない強張った声で触ろうとしては止めてを繰り返し助けて欲しそうな目で俺を見る。


「大丈夫だよ、ほら。」


俺の代わりに司が答えた。そのまま鏡に手を入れ鏡は波打ちながら手を受け入れる。司は尚も鏡に腕を突き入れてやがて顔、首、身体と鏡に埋めていく。最後に両足が鏡に吸い込まれると細波さざなみがたっていた鏡の表面がいで鏡の向こう側に司が笑顔で映りこんだ。

司は笑いながら俺達を呼ぶように手を振っているが今おこった事が理解できない苺さんは石像になったように動かない。

だが、言ってもいいだろうか。どうなるのか知っている俺も司が鏡に入っていくのを下手なホラー映画より怖く感じていた。初めて見る苺さんなら尚更なおさら、怖かっただろう。

司がなにか口を動かし手招くのもホラーでよくあるような演出に思えるし、焦れた司が手を伸ばして……金属製の鏡から生身の腕が生えてくるのは何回見ても慣れない。


「ヒィ、ヒィ、ヒゥ、ヒュ、フッフッフッフッ。」


目を大きく見開いた苺さんは鏡の前で浅い呼吸を繰り返し固まっている。そんな苺さんを生えた腕は掴み


「キャアアアァァァァああ!」


擬音をつけるとすれば「ドプン」だろうか。鏡に引きずり込まれた苺さんは鏡の向こうでへたりこんでいて、司は困った感じに笑ながら話しかけていた。


「ま、慣れるしかないわね。」


特に言葉を残す事なく蒼井さんが鏡に入っていき。

俺は苺さんが持っていくのを忘れたリュックを片手に自分のリュックを背に鏡に入った。


「なおきなおき、どうゆうことよかがみっていつからどあのかわりになったのかがみってうっすーいきんぞくとがらすで、できてるのよはいれるわけないじゃないなのになんではいれるのよ」


壊れたように息つぎもほとんどしないで言い続ける苺さんの頭に軽くチョップをいれると口が止まってプツンと電源オフ。そして再起動。グルグル回っていた目に光が灯り、何事もなかったように立ちあがり


「直樹、遅かったわね? あら、私のリュックも持ってきてくれたのね。」


何事もなかったように言って、何事もなかったようにリュックを受けとる。


「うわぁ、苺さん……それはない……。」


司の声。


「三郷野さん。あなたはこっち側(常識人)だと思っていたのに。」


蒼井さんの声。

二人ともに残念な響きのある声だった。


「うぅ~、今のなし! 忘れてっ。」


顔を真っ赤にした苺さんが涙目になりながら取り乱しているのは、ものごっつぅ可愛らしいです。




「これがこちらの世界(異世界)。」


俺達も見た窓から外の風景を見ながら苺さんが感慨深げに呟いた。そこから見えるのは12個の神殿のような建物とその向こうに見える街らしき建物群。山の中腹にある一層立派な建物は、山全体を神域とした神殿の中心になる大神殿で神殿長が、隣接のきらびやかな建物に神官を束ねる大神官が住んでいる。本来なら“聖女”である司も大神殿の奥にある聖女宮という場所に住める筈だったのだが“聖女”に対する防犯と山頂近くの方が“女神”の神託を受けやすいと取って付けた理由でかなり離れて険しい山頂近くの山小屋が司の住む家になっている。山小屋と言っても石造りの大きめの建物で神殿長が山頂で祈りを捧げる際の休憩所でもあるから粗末な扱いではないとはかろうじて言えなくもないのだが。


「たぶん、信者達と離す以上に司君を逃がさない、私達を近づけない、それが理由ね。」


蒼井さんは沈んだ声を出して言った。その声の調子に外を見ていた苺さんも驚いて振り向き


「今、なんで司君がこんな所に住んでいるのか、疑問に思ったでしょう?」


俺はそんなに分かりやすいのだろうか。蒼井さんは俺の顔を見て、


「司君を利用しようとした神殿は、大きい影響力に持てあまして囲い込む事しか出来なかったのよ。私達も神殿にいることで余計なちょっかいが無くなるのであれば最善ではなくても最悪ではない、なんて考えてしまって。」

「けど、おかげで窓からの景色はいいよ!」


蒼井さんはまだ何かを言いたげな顔をしていたが、司は蒼井さんの言葉を切って見返した。

数瞬、睨み合う二人。

目配せ合う俺と苺さん。


「……ま、司君が、そう言うのなら。」


引いたのは蒼井さんだった。話は終わったとばかりに出入口に行き、いきなりドアを開けると


「あなた達。そんな所にいないで入って来なさい。」


誰かを呼び込んだ。


「エヘヘ。お兄ちゃんの好きなメイドさんだよ。」


司は今のやりとりが無かったかのようにふるまう。それは苺さんの時と違い、聞かれても答えないと態度で示しているようで。俺と苺さんは、もう一度目配せで語り、


「あら、直樹? メイドさんが好きなの?」


苺さんはウフフッと笑い顔で訊いてきた。

あれ? 今、目で言ったよね? 司の隠しごとに今は触れないでおこう、て話たよね? 後で捕まえて絞ってしまおうって決めたよね? 言葉にしなくても目で語り合えるなんてかなり親密な顔感じだよね、俺達分かりあってるよね?


「うん、お兄ちゃんは、巨乳のメイドさんがはだけて(肌色増量)上目使いしてるのが良いみたい。」


イヤアアアァァァァッ!

司、お前なにいってんのぉっ!

しかも司はローブのような服でも分かる胸部装甲を持ち上げて実演までした。


「こーんなかんじ?」


上目使いに悪戯っぽく笑う司は確かに可愛いが。スレンダーでりんとしている苺さんは目尻をピクッ。


「あら、可愛いわ司さん。もう少し背があったら完璧ね。」


顔の前にかかる髪を優しく払い背筋を伸ばして凛々しい笑いを浮かべた苺さんが大人の余裕を見せつけ、司の顔が一瞬、いや、刹那の間、ゆがみ元に戻った。


「……エヘヘヘヘへ……。」

「……ウフフフフフ……。」


こえーよ。冗談抜きにこえーよっ!

司! お前はそんなキャラじゃなかったろう?

苺さん、金持ち喧嘩せずが信条だったろう?

二人とも、なにやっているんだよ。

この時、俺は気づいていなかったが入り口では蒼井さんが呆れていて、司が言うところのメイドさん達は司と苺さんの迫力に圧されてか卒倒しそうだった。


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