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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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悪夢の終わりと破滅の始まり9

僕とお兄ちゃん達がいる、お兄ちゃんの部屋は和室の8畳であまり大きい部屋じゃない。壁の一方は、お兄ちゃんの趣味(「こだわり」)の“映画館のような音響(「ホームシアター」)”に天井から床までめられて、その向かい側には二人掛けのソファ。窓側にはシングルベッドがあってベッドとソファの間に勉強机と椅子のセット。廊下と部屋を仕切るスライド式のドア(「ふすま」)は窓の対面になっている。

ちなみに隣のナナカねーちゃんの部屋は同じ大きさだけどドアは普通のドアノブをひねって開ける洋式のドアだ。お兄ちゃんが引きこもった時の経験を生かした蹴飛けとばして入り易いドアとの事。お兄ちゃんのお義父さんが、お兄ちゃんに向かって意味ありげに語っていた。

何が言いたいかというとお兄ちゃんは苺さんと専門的な事を言い合ってタブレットを見ていて、ナナカねーちゃんと蒼井さんはお兄ちゃんの悪口で盛り上がっている。そんな中、僕はどっちにも入れないで、さっき持ってきた飲み物を飲んで茶菓子をかじって見かけは“まったり”させてもらって。


お兄ちゃんつまんないよー。ひまだよーっ。


言ってみたいけど僕がややこしい事をしてめんどーな事になったって、自覚が出来たので自粛。


けとなー。お兄ちゃんも気づいてくれても良いと思うんだけど?


僕の為にいろいろ考えてくれているお兄ちゃんに、ちょっと理不尽な事を言葉にしないでぶつけて、小さくため息。


やっぱりお兄ちゃんと苺さんってお似合いなんだよなー。けど僕だってお兄ちゃんの為に女になったんだし、あきらめる事出来ないんだよなー。


リビングでナナカねーちゃんに言われた言葉が頭をよぎる。


「司にとって三郷野さんは邪魔者かもしれない。けど三郷野さんにとっても司は厄介者なのよ? 付き合っていた二人の間に入りこんだ厄介者。どんなに泣いても良いけど、その事は忘れないでね。」


女じゃなければあきらめたのに。

仲良く言い合っているお兄ちゃんと苺さんをグラスで隠して、ズズッと麦茶を飲んだ。





これからの予定を苺さんと立てていた俺は不意に打たれた肘鉄に悶絶もんぜつする。


「あ、ごめん。入っちゃた。」


小声で謝ったのは妹の七歌だ。ただ、文句を言おうとした俺に七歌は、目で合図をしてきた。七歌の目線を追っていくと俺のベッドにちょこんと座った司が所在無しょざいなげに窓の外を見ていた。手に持ったグラスには麦茶が入っていたはずだが今は氷しか入っていない。

俺のたいして大きくない部屋に5人もいるのに司だけ話に入って来なかったらしい。普段らしからぬ司の態度に


「あたし、ちょっと言い過ぎたかもしれない。」


七歌が反省はしていないが後悔している声で言う。七歌が司に何を言ったのか知りたい気もするが、今までの実績から必要な言葉だったのだろう。


「わかった。後でな。」


“何を言ったのか教えろよ”の部分は言わなくても七歌なら分かる。チラリと苺さんと蒼井さんを見れば、苺さんは苦笑い。蒼井さんはムスッとした顔で、そっぽを向いた。


「司。司もこっちにいる間にやっといた方がいい事があるんだけどな。」


司に声をかけるとのら猫のような素早さで振り向く。


「なに? お兄ちゃん。」


機嫌良く咽を鳴らすネコ()。しかし、まだ警戒しているのか近づいてこない。


「いやな……叔父さん叔母さん(司の両親)の事だ。」


俺の一言で司の纏う雰囲気が変わった。いきなりピリピリしだした司にどう言ったものかと悩み、


「うーん、どうしようか……司がその気にならなきゃろくな事になりそうにないからな。待った方がいいのは分かるんだ。」


司に近づく俺の背中に突き刺さる3人の視線。やっぱり少し早かったろうか。


「だが、俺は叔父さんと叔母さんに司が無事に帰ってきたって言いたい……んだがな、上手く説明が出来そうにないんだよな。」


俺だって、司がゲームの世界に入りこんで、女の子になって戻って来た事を納得するのに時間がかかったしな。無理矢理、向こうの世界に連れていっても信じてくれるなんて思えないんだよ。


「だから、公園を散歩している叔母さんに会って様子を見てみたい。」


正確には、叔母さんは司を捜して一日中歩き回り帰り際、良く遊んだ公園による、という生活を続けているからやつれてしまっている。前に司が帰って来たばかりの時に、司は公園で叔母さんに会っているのだが叔母さんが司に気づいた様子は無くて、司も一言挨拶しただけだった。その時、司は「今はこれでいい」って言っていたが、俺はずっと気になっていた。


「会って、て。気軽に言うけど、気軽に会った結果を考えなさいよ!?」


やっぱり、七歌は止めてくる。


「……やっぱり、早かったか?」

「当たり前でしょ? 会ってあなたの息子は女の子になって成長して帰って来ました、そう言って信じてくれるとおもうの?」

「まあ、だよな。俺も、それを考えていた。」

「そう思っているなら、もう少し考えて言いなさいよ」

「あー……俺もそう思っている。」

「あんた、なめてんのっ?」


実は考えていたものの、今、ここで言うつもりはなかったんだよな。ただ、落ち込んだ風の司を見ていたら叔母さんなら何とかしてくれるんじゃないかなって思ったんだ。


「ま、まあ、司。考えて置いてくれ。俺も父さんと母さんに相談してみる。なんか司の事で動いているみたいだからな。」

「……気づいていてたんだ……。」


俺が司に言った言葉に七歌が失礼な呟きをしていた。

気づいていたさ。つい最近だけどな。本当に俺ってやつは鈍すぎる。

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