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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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悪夢の終わりと破滅の始まり8

僕がナナカねーちゃんと茶菓子ちゃがしと飲み物を持ってお兄ちゃんの部屋に入ると、なんか雰囲気ふんいきがおかしかった。

苺さんはお兄ちゃんから少し離れた場所でさびしげな顔をしていたし、蒼井さんはれたような怒ったような感じになっていた。そのクセ、お兄ちゃんはスッゴクいい笑顔になっている。


「おう、司。領地の件はまかせておけ。」


一階のリビングのお兄ちゃんからは考えられないぐらい明るい調子でお兄ちゃんが僕に言った。けど、もう蒼井さんと話して、お兄ちゃんに任せる事になっていたんだけどな?

変なタイミングで言ってくる、お兄ちゃんの勢いに負けて


「う、うん。よろしくお願いします?」


聞き返すような答え方になってしまった。

お兄ちゃんがなやんでたのは僕の事だったから、ある意味、解決した今、気持ちがたかぶって明るくなるのは分かるけど。……う~ん。

ふ、と気づくとナナカねーちゃんからドロドロした黒い気があふれでていた。や、実際に見れる訳じゃなくて、雰囲気ね、ふんいき。

ナナカねーちゃんは全員ぜんいんの飲み物を乗せたおぼんを持ったまま器用に片手で目頭めがしら


「また、あんたは……。」


お兄ちゃんが悪い、というニュアンスで呟いた。

流石さずがに、この微妙びみょうな空気に気づかないのは、お兄ちゃんをもってしても無理だったみたいで


「……えっと……俺、またなんかした?」


僕とナナカねーちゃんを見て不安げにいてきた。

うん。今来たばかりの僕達が分かる訳ないね。

だけど、ナナカねーちゃんは深く暗い声で


「あんたがなんで分からないか分からない。」


僕と部屋に来て、何も分からないはずのナナカねーちゃんは、そうやって答えた。


「いい加減それくらい自分で気づきなさいよっ。ほら、あんまり酷いから司も呆れてるじゃない。」


ナナカねーちゃんは横目で僕を見ていた。けど僕はお兄ちゃんが何をしたか分からないから、呆れてなんか無いよ?

お兄ちゃんも僕を見て言葉に詰まった顔で頭を掻いていて。


「司。なんか分かるなら教えてくれないか?」


珍しく、お兄ちゃんが僕に“教えて”とお願いしてきた。僕は、お兄ちゃんがしおれているのを見て、例えようの無い感情が胸の奥で、わき上がり()えるのを覚る。無理矢理、言葉にするなら「きゅ~うーん」。だけど、僕もナナカねーちゃんの「気づきなさいよ」に頭をひねるのみ。こんな時は“聖女”をして培ったスキル“もっともらしい事を言って誤魔化す”の出番。それは話の流れ人の動きの違和感な所を指摘するスキル。今で言えばそれは。


「お兄ちゃん、もっと考えて?」


叱る時の癖で人差し指を立てて言うと、お兄ちゃんは部屋の中……蒼井さんと苺さんを見た。特に僕の言葉に驚いた顔の苺さんをジッと見た、お兄ちゃんは、


「……ごめん。苺さんをないがしろにしたつもりは無いんだ。」


自分で答えを見つけて苺さんに謝って、それを見た蒼井さんの目つきが少し緩んだ所を見ると正解だったみたい。僕はふう、と安堵あんどの息を吐いて。


「あんたも分かってなかったのね。」


ナナカねーちゃんは低い声で僕にだけ聴こえるようにボソッと呟く。

ナナカねーちゃん、なんか恐いよ?




「それでは直樹君のプランを見せてもらいましょうか。」


蒼井さんの言葉にお兄ちゃんはうなづいて薄い板状の機械を取り出した。ノートぐらいの大きさの板にはカラフルな色で丸い円や棒グラフ、細かい文字で説明が書いてある。


「これが噂のタブレットね? 私がいた頃に、これが有ればプレゼンも楽だったのに。」


お兄ちゃんは「正確にはタブレットにもなるノートパソコン」と言って意味もなくグラフをおっきくしたり小さくしたりした。どうも指で摘まむようにしぼめると小さく、拡げるようにすると大きくなるみたいだけど、意外に新しいものが好きな蒼井さんは何となく得意気なお兄ちゃんを徐々に剣呑な目つきで睨んできている。

さすがにお兄ちゃんを止めようと声をあげかけた時、「パシッ」と良い音をたて苺さんがお兄ちゃんの頭を叩いて。

ようやく蒼井さんの目つきに気づいたお兄ちゃんは蒼井さんに機械を渡して、説明を続けた。


「この稲は塩を撒かれた土地でも成長できるくらい強いのね?」

「強いというか水田で米を作る方法というのが塩の対策をしやすい方法ですね。干拓地でも稲作が出来るくらいですし。」

「でも、この稲も特殊な稲なんでしょう?」

「稲は市販されていない、研究中のものですね。詳しく説明をすると明日になっても終わらないので割愛かつあいしますが、イネ科のよしが塩水に強いことから稲と勾配して造られた稲です。」

「それで、あなた達はデータを取りたい、という訳なのね。」

「実験レベルでは収穫はできました。味は今のところ“一級米には及ばない”レベルですが食べて支障がでる程ではありません。」

「だから環境を変えて試したい、そういう事なのよね。」

「それだけではなく、天候の違いにも注目したい所です。日本でも北と南では環境も取り巻く自然も明らかに違いますから。……失敗できないのは分かります。なので今回はビニールハウスを利用する水田としない水田、塩害の影響が少ない場所での水田の3パターンで試します。稲の作付は麦の数倍以上になりますから農地を3つに分けても収穫量は確保できるでしょう。」


お兄ちゃんが蒼井さんに説明しているけど、やり取りが怖い。まるで騎士同士の打ち合いのような話し合いに僕は何も言えなかった。


「どちらにせよ、あなた達が現地で様子を見ながら作業する必要がある、そういう事ね。」

「現地では直樹がしゅになります。私はデータを分析して指示をする方ですね。」

「あら、それじゃあ、三郷野さんは現地入りはしないのね。」

「いえ、私も最初は現地のデータを分析する必要がありますから、一緒に伺うつもりです。」


お兄ちゃんと苺さんの中では役割が決まっているようで、今度は苺さんが蒼井さんに言ってくる。

お兄ちゃんと苺さんの攻勢(プレゼン)に蒼井さんは暫く口を閉じていたけど、やがてフッと軽く息を吐いて


「そうね。直樹君がこっち側のメインになるのは気に入らないけど、この話は進めて大丈夫そう。」


蒼井さんが降参と両手をあげた。

それからはお兄ちゃんと苺さんと蒼井さんが実務の話をして、ナナカねーちゃんがもうすぐ夏休みだから、そこに合わせてと注文をつけ、それじゃ遅すぎるとお兄ちゃんが答え。

僕が何も言えないうちに予定が決まっていく。


「七歌さんの休みに合わせて土日に三郷野さんと直樹君が現地入りしてある程度育った苗を植える。夏休みの頃から直樹君が現地で収穫までいる。」


決まった話を蒼井さんが、まとめてお兄ちゃんと苺さんが予定を更に詰めていった。二人は何のデータを何時とるかとか、現地で何から進めるか、とか時期かわ遅いとか、まだ間に合うとか言い合って僕が間に入れそうにない。

蒼井さんはナナカねーちゃんに緩衝になるようお願いしていてナナカねーちゃんも了承している。

そして当事者の僕は何もする事が無かったりして、しかも僕がややこしい事をしてしまったから今が有るわけで。……話し掛けつらくなって黙って飲み物と茶菓子を楽しんだ。

なんか、みんな仲良く話してるから寂しくなったりはしてないよ? ホントダヨ?

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