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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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悪夢の終わりと破滅の始まり3

2月23日、更新しなおしました。

中途半端な状態で投稿しまして申し訳ありません。


まだ、早朝だというのにすでに熱い陽射ひざしが部屋に入ってきている。俺はカーテンと窓をけて部屋の中に風を入れると


「……勝った。」


万感ばんかんおもいを込めてつぶやいた。

今まで部屋に置かれていた姿見(「かがみ」)廊下ろうかすみに移動している。昨日は長風呂もひかえ早めにめずらしくパジャマを着て寝た。勿論もちろん、目覚まし時計を用意してから、だ。用意するだけではなく時間をセットして枕元まくらもとに置くことも電池切れしていないのを確認する事も忘れてはいない。

その結果。

俺は司達が来る前に身だしなみをととのえ余裕ありげに部屋にこもった空気を入れ替えている。


「早起きって……素晴らしい。」


俺は過去二回、司と蒼井さんをはだかで“お出迎え”した。初めは「いきなり来たし仕方ないよね。」といった態度だったが二回目は「そういう趣味?」と言われてしまった。

なるほど、そう言われるのも仕方がない。だが、三度目はない。

勝利の爽快感そうかいかんった俺は思わず笑い声をあげた。


「くっくっくっくっ……ふわっはははは。」


笑って、自分の笑い声で我にかえって咳払い。俺はなんでこんなにテンションが高いんだ。

少し落ち着いた俺は視線を感じて振り向いた。


「……朝から怪しく笑うのが趣味しゅみなのかしら……?」

「ごめん、お兄ちゃん。さすがに……ちょっと……。」


ふぅ、と息を吐いてあきれている蒼井さん。

俺の顔を見て一歩下がった司。

俺は恥ずかしさのあまり顔を両手で隠してうずくまるしかなかった。




司や蒼井さんと話し合うのもこれが三回目。

最初は話し合いにすらならなかった。二回目は意味も分からずに終わった。そして、三回目の今日は事前情報を確認する事から始まる。今まで司が変わった状態で戻ってきて、その事でいっぱいいっぱいだったから最低限の事だけ聞いていた。しかし今回、司の世界に行くにあたり聞いておこうと考えたのだ。正直、今更聞くのもな……と思っていたんだが、この()()()()を上手くこなすには必要な事だろう。そう思い直してみたんだ。


女神が拉致らち誘拐ゆうかいをして魔王討伐用の勇者達を送り届けたのは“英雄物語”というMMORPGの舞台となった竜咆列島(「ドラゴロア」)と呼ばれる群島の南西に位置するオゥルボウル大島だった。

大島と言っても“小大陸”の呼び名が有るほど広大な島だが、妙なこだわりを持った女神は7人の勇者達をオゥルボウル大島にある魔王軍の進行をかろうじてしのいでいた7つの国に分配すると魔王に


「私の勇者が貴方を倒しに行きます。」


と宣戦布告。

魔王はオゥルボウル大島に元々8個ある国のうち“オゥルボウルの食料庫”と呼ばれていた北の国を滅ぼし拠点としていたが女神の言葉を受け残り7国全てに魔王軍を進駐し個別に勇者を殺そうとした。

結果として魔王軍のこの動きが勇者達を中心とした7国の連合軍結成のきっかけになったのだが魔王討伐後、女神からこのくだりを聞かされた勇者から英雄にランクアップした英雄達は合流するまでの苦労(「あれこれ」)を思い出して涙した。


「魔王を必ず倒すと宣言したかったのです。」


魔王を倒し英雄となった勇者達にめられた女神は不貞腐ふてくされて答えたそうだが、女神の余計な一言が魔王軍の大侵略だいしんりゃくの原因になった事を思うとやりきれない。

魔王軍の主力は魔人や獣人であったが、魔王はオゥルボウル大島全域に勇者討伐の軍を進行させる為に、滅ぼした国の国民も多数動員した。島で唯一ゆいいつの百万の人口があった、この国は国民のほとんどをこの侵略戦で失ったうえ、魔王が倒されたのちの魔王軍同士の勢力争いの内乱状態で数万人まで人口が減ったと言われている。

本来なら魔王軍を殲滅せんめつする好機こうきなのだが勢力争いは魔王軍のみならず連合軍にも存在した。

魔王が討伐される前は魔王の圧力があり、かろうじて機能していた“連合軍”だが魔王討伐後は、それぞれの国の思惑が連合軍を縛り上げ動きを制限させる。そして連合国同士の手柄の取り合い。結果、連合軍は事実上、崩壊ほうかいしているとの事。

人類は何をしているんだ。

魔王を倒した英雄達は国にとっての“都合の良い操り人形”を回避かいひする為に報酬ほうしゅうを受け取らずに逐電ちくでんする……はずだった。

女神より“もとの世界に戻る神器”を受け取り各々《おのおの》帰郷ききょうしていた時。帰郷の為に一人で行動していた“聖女(「司」)”はとある神殿の大神官にだまされプリンドル王国という小国の神殿にらわれてしまった。

帰郷したものの居場所いばしょが無く戻ってきた英雄達は神殿に閉じ込められている司を見て救出を決意。神を騙る権力者(「神殿」)より我が儘な権力者(「国家」)権力(「力」)の方が強い事を調べあげると魔王軍との戦いの後遺症こういしょうあえぐ小国で金と名声を駆使し貴族になった。

しかし、貴族になったのが英雄達の代表として赤谷だけで、他の英雄達は赤谷の従者扱いで爵位無しという予想もしなかったケチ臭さ。おまけに領地になった土地は魔王軍大侵略の最初の頃に壊滅させられた港湾都市こうわんとしで建物は壊され、住民は殺され、領地は塩を撒かれ。さすがにこれは無いだろうと問い詰めるも国王は自国の有力貴族の顔色を伺ってばかり。挙げ句は「勇名高き彼らだからこそ。」等と丸め込まれる始末。小国を選んだのは自分達とはいえ蒼井さん達は“開いた口がふさがらない”。

司がいないとは言え英雄6人という戦力を、ここまでざつに扱うとは思ってもいなかったそうだ。小国なら自分達の抑止力が無かろう(「好き勝手できる」)と思っていたが小国過ぎて“魔王を討伐した英雄達”という存在がどんな理不尽なモノなのか分からないらしい。

ともあれ、一度この国の貴族になったからには「気にくわないので辞めます」とは言えず、貴族になっていきなり反抗する事も出来ず司を神殿から身請けする為に領地をなんとかしようと前向きになったのだが。いかんせん領地が領地(「領民すらいない」)である。本来ならこんな時は“賢者”がいい知恵を出すのだが、“賢者”をもってしても即効性のある提案が出来なかったそうだ。


「こんな時こそ“内政チート”の出番なんですけどね。」


そう言った彼は領地内の塩漬けになった土を全部入れ替えとか水浸しにして、しばらく放置とか。塩分に強い雑草を撒き少しずつ土地から塩分を抜く等の方法を提案したが、司の身請けを急がなければならない理由と王命により今年の冬の年末の貴族が集まる“社交界”までに結果を出さなくてはならなくなった。


「……“魔法”でどうにか出来るんじゃないですか?」


そう、古今東西ここんとうざいこんな時には魔法の出番だ。妙に威圧している蒼井さんに、おもわず敬語っぽく尋ねてみれば苦笑いと共に


「この世界では魔法は“害する技術(「戦争の道具」)”でしかないのよ。」


つまり、女神の力を借り受けて行使する神聖魔法以外は魔王との戦いや国同士の戦争にしか使われていない、との事。蒼井さんが、こちらに一時的に里帰りした時に見た本にあった“生活魔法”は“目からうろこ”な概念だった。そして、この世界に戻ってから“賢者”と開発したものの使う魔力量が多すぎて誰でも使える魔法ではないそうだ。現状そんな感じなので“魔法”での“内政チート”や“生産チート”みたいな事が出来ない。女神から渡された“鏡”を使った話し合いで打つ手のなくなったところで司が俺の事を言い出した。


「お兄ちゃんなら大学に行っていて、こーゆう事も分かるはず。」


この時点では司は俺が大学に入っている事は知らない。それなのに司は俺が大学に行っている事を疑っていなかった。

俺は父さんが殴り飛ばして大学入試させたあの頃を思いだし初めて感謝する事に。

あの時、父さんが司がいなくなって部屋に引きこもった俺を殴り飛ばし


「司くんが見たら悲しむ。」


そう言ってくれていなかったら今はなかった訳だ。大学では司に似た女性の苺さんにも出会えたし、その上、司が困っている事態に助け船を出せるぐらいに知識もついた。

司。ようやく俺、お前に“恩返しができるよ”。




私は司君の様子を見ながら誰にも知られないようにため息をついた。明け方に吐いてそれから寝ていない司君は、こっちに来る寸前に回復魔法を自分にかけ直して目の下の隈や憔悴しょうすいしきった顔つきをいや一見いっけんは元気っぽい。しかし実は空元気も良いところ。時々ふらついているし“悪夢”の影響えいきょうは、そんなに早く抜けない事は分かっている。

私としては今日の話し合いは延期するつもりだった。しかし、何故か司君は延期を嫌がり無理してまで来ることになったのだ。司君が来たかった理由は……まあ、初めて見るような甘えた司君を見れば分かる。本当にあんな泣かせてばかりの子の何処がいいのか……。

司君の様子がおかしいのにはあの子(直樹君)も気づいていて私に訝しげな目を向けて来るけど、司君が言わないなら私が言えるはずがないじゃない。まあ、軽く肩を竦めてみせたら黙って司君をフォローしていたのは評価しても良いわね。

けど、ね?

駄目なのよ、あなたじゃ。司君は利用価値の高い“聖女”なの。性別の変わった司君は、こっちの世界では生活していく事は困難。ならあちらの世界で生きていくしかない。そんな状況で王族、貴族、神殿、魔族、他国の有力者、全てが司君を狙っているの。神殿内に囚われて、そういった勢力から距離を置けたのは皮肉な僥倖ね。

だから。

あなた(お子様)じゃ駄目なのよ?

成人式(二十歳)過ぎたのに司君に寄りかかっている、あなたじゃ。お互いに寄り添う、こっちでは理想的な関係でさえ駄目。必要なのは強い力を持ち司君を護れる権力と一生苦労させないだけの財力。信仰を一身に受ける司君の相手に相応しい知識力、礼節を持ち合わせ、それでいて、それらに溺れないだけの鋼の様な精神力と、司君が寄りかかってもびくともしない、大樹の様な存在力。草原で吹く柔らかなそよ風の様なさりげない優しさや山を見上げる如くの志しの高さ。それでいて疲れた身体を休め傷ついた心を癒す海のごとき包容力。全てを兼ね揃えてようやく候補ぐらいになれるのよ?

あなたじゃ無理。まだ司君に守ってもらっている、あなたじゃ。

私は、これからの司君を思い重苦しいため息をついた。ほんの少しでも司君がつらい思いをして欲しくないのに……。

司君を何回も泣かせたあの子には、もう期待はしない。司君が今どんなに辛い思いをしているのか考えもしない、あの子。司君には悪いけど見限らせてもらうわ。

そして相応しい相手を見つけてあげる。

この国唯一の侯爵家に“麒麟児”がいるわ。あの男なら……。

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