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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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おつきあい③~苺と直樹 編~

目のわった蒼井さんの顔が怖くなって僕は苺さんを見た。

苺さん()僕を見て軽く笑い、それが僕には“(「まあ、)人の余裕(任せておきなさい」)”に見えてくやしくなる。

お兄ちゃんは()()苺さん(「お兄ちゃんの彼女」)も大人で、だけど僕は子供で。


「三郷野さんは直樹君(「ダメ男」)の事で“何か”ないかしら?」


蒼井さんの“何か”はお兄ちゃんの悪いところを指しているのは分かっている。ホントは僕がお兄ちゃんをかばうつもりだったけど、余計よけいな事ばかりを言っていたみたいだ。僕はお兄ちゃんのお世話が出来て“うれしい”という話しだったのに蒼井さんは小学生の僕に甘える高校生の直樹君(「お兄ちゃん」)の話しと見ていたようで冷たい怒りが離れていても感じられた。

そう言えば蒼井さんには言ってないのが、もう一つ(ひとつ)あった。お兄ちゃんが三日分みっかぶんの食費を一日いちにちで使った日からお兄ちゃんのお母さん(「叔母さん」)お父さん(「叔父さん」)がいなくなる時は僕が一度いちどあずかってからお兄ちゃんにお小遣こづかいみたいに渡すようになった。確かに最初は僕もそれはどうかと思っていたけど、


「司くん、司さん、司さま。」


って甘えるお兄ちゃんが可愛かわいくて気にしなくなっていった。


「もう、お兄ちゃん。仕方ないなぁ。これっきりだよ?」


ってお兄ちゃんにお小遣いを渡す僕は“奥さん”っぽくない? なんて思って()()()()しながらお小遣いを預かったお財布から出す僕。もちろん、お兄ちゃんが使い込んだ分は僕がやりくりしてどうしようもない時は僕のお小遣いから足して。

……あああ、言わなくて良かったぁ。もし言っていたら


「そう、やっぱり直樹君(「クズ」)ね。」


って副声音(「本音」)主声音(「建前」)が混ざった蒼井さんの言葉しか思いつかない。


塵芥(「クズ」)クズ(「護美」)箱に捨てないとね。」


と言う蒼井さんの怖い笑顔が思い浮かぶ。

……ホントに言わなくて良かった……。


「直樹の事で、ね……?」


苺さんが蒼井さんの問い掛けにゆっくり語りだして僕はハッとした。今から苺さんが言うのは僕の知らない(「いない間の」)お兄ちゃんだ。僕がいない間、お兄ちゃんは何をしていたんだろ? 苺さんとはどうやって出会ったんだろ? 僕は僕の知らないお兄ちゃんを知っている苺さんにうらやましい気持ちとにくらしい気持ちを両方持ちながら苺さんの話しを聞き出した。





「直樹と初めて会ったのは大学のサークルの新入生の歓迎かんげいパーティの中だったわ。」


私は直樹と初めて出会ったパーティを思い出していた。

私が女友達とペア(「男女組」)を組み男装して会場を歩いていた時、黒服、シルクハット、黒のサングラスをつけたコスプレまがいの背の高い男がいきなり私の腕をつか


「司! こんな所でなにしてんだ!」


怒鳴どなってきたのが直樹だった。印象的ではあっても良い感情の持ちようがない初めての出合いは私の反撃の左のストレートが直樹の顔面がんめんにめりこみ、直樹は鼻血を吹き出し倒れ見ていた友達が直樹の鼻血を見て悲鳴をあげてパーティ会場をさわがした所で終わった。

ついでに私の大学デビューも、この時の一撃(「ストレート」)で“女帝にょてい”と呼ばれるようになり……終わった。

私がダイエットの為にしていたボクササイズの効果がダイエットだけでは終わっていない事が証明されたのが唯一ゆいいつの成果だっただろうか。

次に直樹に会ったのはお昼の学食の中だった。

パーティから三日みっかたち、私が他の大学生から“女帝”と呼ばれている事を、パーティで私のパートナーをした女友達から教えられた私は不甲斐ふがいなくも一撃でしずんだ狼藉者(「直樹」)を散々《さんざん》こき下ろして女友達に愚痴ぐちっていた時に直樹はあらわれ私の目の前で、いきなり土下座した。

お昼である。

学食の中である。

私の他にも大学生はたくさんいる学食の中である。

学食には教授や助教授(「教える側の立場」)もいたし、大学の事務の人も、ごくわずかだけど安い学食を食べに来た一般の人もいる中である。

私の目の前で土下座した男が誠心誠意せいしんせいい、謝っている、その事は分かったけど時も場所もわきまえない態度たいどについ「ふざけんな! 消えろ!」と叫んだ私はバカだった。けどいくら「やめて」とか「分かった」とか「場所を換えて」とか言っても通じないヤツ(「直樹」)にイラついてしまったのだから、仕方無い……と、思う。

そして、翌日よくじつから私は“女王様”と呼ばれる事になる。

三度目は私の女友達を介して呼び出された近所のコーヒーチェーン店だった。

流石さすがに学習したらしい男が初めて自分の名前を名乗ったのがこの時で、土下座する事もなく落ち着いて謝ってきたのもこの時が初めてだった。


「ただね。直樹は“俺の()みたいな男の子”に似ていたからって言ったのよ。弟よ? お、と、う、と。いくらパーティに男装していったって言っても私、女よ?」


おまけに実際に会った“()みたいな男の子”は金髪碧眼(「外人」)の女の子で黒髪黒眼の私とは全く違う。唯一、同じなのは髪の長さが短いくらい。後は背の高さといい、胸の膨らみといい正反対だ。あの時の直樹の言葉はいったい……。


「私が行方不明の従弟に似ていてパーティであんな事をしたのは分かったわ。けど、その後の事を考えた時、私は貴方を許す事は出来ない。」


“女帝”も“女王様”も誰のせいでついたあだ名かしら?

それは今も私は許していない。付き合いを始めて彼氏彼女の関係になった今でも思い出すと怒りが湧いてくる。当時の私も怒りにふるえながら精一杯(せいいっぱい)の冷静さでそう言った。

そのまま私と直樹の接点は無くなったはずだったのだが。

女にしては背が高く胸の薄い私だが、「そこがいい」と言ってくれる人が出てきたのだ。いつも何がおかしいのかヘラヘラして女に嫌がられる(「罵られる」)のが「大好物(ご褒美です)」だと言っていたその男はストーカーとして付きまとい私は精神的に追い詰められていき。

そこに出てきたのが直樹だった。

私の友達が直樹に連絡をとったらしい。友達は直樹とストーカーが共倒れになればいい、ぐらいの気持ちで連絡したようなのだが直樹はストーカーを蹴飛けとばし自分が傷害罪(「前科一犯」)になるのも構わず交番に連れて行った。最終的にはストーカーが罪を認め厳重注意で終わったのだが直樹のそんな所が気になり始めて。

ストーカー騒ぎが終わった後、私の父親が退学させて連れ戻そうとした事があった。その時にも直樹は私を助ける為だけに父親と対決して。

その後もあの事とかあんな事(「いろいろあって」)とかあって隣にいるのが当たり前になりなかなか言ってくれない直樹にしびれを切らした私が告白。直樹は雰囲気イケメンで私のようにいろいろあったライバル達がいて、ライバルを押し退けるのは大変だった。


「私から告白した時、直樹は言ってくれたわ。“俺もずっと前から”って。」


私は軽く笑って司さんを見た。

司さんは昔の直樹を知っているかもしれない。けど私を好きだって言ってくれたのは今の直樹よ?

私にとって司さんの保護者らしい蒼井さんに直樹の良い所を見せる意味はない。直樹の良い所は私が知っていればいいから。

私にとって司さんの旅に直樹を同行させる意味はない。直樹と司さんをける事には意味は有るけど。

だから、私は司さんを笑って見た。

司さんには悪いけど直樹の事でどんなに仲が良くなっても直樹の事があるから私達は敵同士(「ライバル」)なの。




僕はふたたび軽く笑って僕を見る苺さんにとりあえず笑って返した。

味方みかただと思っていたら敵だった件。

苺さんが僕に軽く笑っていたのは蒼井さんにお兄ちゃんの良い所を教える自信があるからじゃなく、蒼井さんに分かって貰わなくても良かったから。しかも、お兄ちゃんを落としているようにみえて両想いをアピールしてきてる。

そして、蒼井さんに向けて言っているようでホントは僕に向けて言ってきた。

この女郎(「苺さんめ」)

怒るのも泣くのも平然とするのも負けた気がする。なら笑い返すしかないじゃないか。

苺さんはお兄ちゃんと両想いかも知れないけど、それで諦めるなら僕はこんな事(「泥沼」)になって無いんだよ。お兄ちゃんに選ばれる人が決まるまで僕は諦めない。




(「蒼井」)は二人が熱く見つめ合うのを呆れて見た。

二人が直樹君を語る事で私が見落としたあの子の“良い所”をみつけるつもりだったが、司君は苺さんを味方だと思って誘導にひっかかり直樹君の悪い所をアピール。苺さんは自分でも言っていた通り“だからどうしたの、私は直樹が好き”っていう態度をとって司君を牽制けんせいしている。

かやそとな私は、どうしようかと悩んで。

……まあ、苺さんが言っていた“直樹君の困った事があると助けにくる”性格は赤谷君に似ていて悪い感じがしない(「良いかもしれない」)。それは認めてあげよう。

それにしても、と私は思う。

人の事を“ちょろいん”とか言っている癖に自分も充分“ちょろいん”じゃない?

自覚無いのかしら。

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