おつきあい①~蒼井と赤谷 編~
僕は蒼井さんが床に手をついてガックリと項垂れたのを見て勝ち誇った。胸を張り片腕をひとさし指を伸ばして「貴様の敗けだ」とでもいうかのように蒼井さんに向けて出来るだけ高い目線からふふんと鼻を鳴らす。
苺さんはそんな僕を半眼で見ていたが……胸の辺りを見た時に物凄い目つきになったけど、特に何も言わないで、というか小さいため息をついて僕に訊いてきた。
「それで蒼井さんの恋人ってどんな人なの?」
苺さんの言葉に空寒い副声音を感じたけど事実だしな……。
「バカタ……ぅん、赤谷、はね。」
いつものようにバカタニと言おうとしたら蒼井さんが睨んできたので慌てて言い直し、僕は仲間が集まったあの時の事を思い出した。
女神に拐われてついたゲームの中。混乱する僕に女神は言った。
「ここから南に村を3つ越えた所にある町に貴方の仲間になる“勇者”達がいます。まずはそこを目指すといいでしょう。その後は仲間と力を合せ“魔王”を倒すのです。私も微弱ながら各神殿に託宣を出して貴女方の力になりましょう。」
まだ、小学生だった僕にも分かる“変な話”。
なんで初めから“仲間”と一緒じゃないの?
なんで僕が“魔王”を倒すの?
なんで女神が直接助けないの?
なんで女神がいるのに“魔王”がいるの?
なんで? なんで? なんで?
ツッコミどころが多すぎて思考が追いつかない。声がでないまま口をパクパクさせた僕の何を勘違いしたか
「大丈夫です。魔王を倒したあかつきには貴女を元の世界に戻すとお約束しましょう。」
“約束”って言葉にこんなにも怒りを覚えるなんて。
女神は言いたい事を言うと光に変わって消えてしまった。僕はその間にいくつか質問をしてここが“ゲームの世界”と同じである事を確信してしまう。
だって“ステータス”や“アイテムボックス”があるんだよ?
僕は嫌々《いやいや》だけど女神に言われた通り町に向かった。この時はお兄ちゃんも来ているって思っていたから早く会いたかったから。
僕が“女の子”になった事に気づいたのは迂闊にも女神がいなくなってからだった。それに気づいた時の事は思い出したくもない。ただ“女の子”はトイレの時、下に向けないと大変って事。
そんな最悪な旅をしてやっと町についたらお兄ちゃんはいなくてバカ……赤谷が僕を見て
「ロリ巨乳kitaaaaっ!」
「ボクッ娘kitaaaaっ!」
「男の娘kitaaaaっ!」
「属性3つを融合。ロリっ娘巨乳シスターに進化っ! ふおぉぉぉっkitaaaaっ!」
……これが、バ……赤谷との初めての出合いだった。
赤谷は赤い短髪で線の細いイケメンで細いのに筋肉がついているイケマッチョな外見だけど、赤谷の魂の叫びを聞いた蒼井さんや他の女の子はススッと気持ち悪そうに距離をとったのが笑える。
この時の蒼井さんの赤谷への印象は最悪だったはず。
赤谷はこの後もなにかと僕にちょっかいを出してきて、“仲間”で一番年下の僕を蒼井さんが守ってくれるってのが一連の流れになった頃、赤谷が蒼井さんにボソリと言った。
「俺、年下好きだから、蒼井さんに気にしてもらえるのはうれしいけど……。」
「だっ! 誰が気にしているのよ!」
「いや、蒼井さんがいい人なのは分かるけど。蒼井さん、きれいだし、目がかっこいいし、立ち振舞いはりりしいし、さすが大人って感じだし。そのくせツカサタン達にいじられているとこはかわいいしね。」
「か、可愛い? 綺麗?」
「けど、俺の好みはツカサタンなんだ。意識してもらえるのはうれしいけど、ごめん。」
「だ、誰が意識しているのよっ! なんで私が振られた風なのよぉーっ!」
言葉と裏腹に、蒼井さんはこの時から赤谷を意識しだしたのは僕達が見ていた。
ある村を魔王軍から救った時、赤谷に助けられ惚れ込んだ村長の娘が着いてきた事があった。
ある淫謀に巻き込まれ没落した貴族を救った赤谷に惚れた貴族の娘が着いてきた事があった。
ある暗殺者が赤谷に娘を託し依頼主に逆襲しようとした時、赤谷は暗殺者もその娘も護り依頼主をこらしめた時、「好きになっちゃった」と着いてきた事があった。
その度に不機嫌になっていく蒼井さんを宥めながら赤谷ふざけるなって思っていたけど。
魔王軍の計略に引っ掛り敗走した後。あの時から蒼井さんと赤谷は急に仲が良くなって、何があったか教えてくれないから何かあったんだろうけど、教えてくれないなんてつまらないよね。
いきなり村長の娘と貴族の娘と暗殺者の娘に私が“正妻”って宣言して毎日楽しそうにケンカしだしたり、堂々《どうどう》と赤谷の世話を焼き始めて僕達みんなは“砂糖を吐いた”り。
あの時、何があったのかな~?
私は手を床について、赤谷君の言うところのOr2の姿のまま司君の話しを聞いていた。
普通はOrzで最後はz何だけど2の曲がりが女の子ッポイからこちらを使えばいいって言ってたのが嬉しい。女の子扱いされなくなってから“ウン十年”こんな事にも喜んでしまう私だけど。
司君の話しぶりでは赤谷君はいかにもダメ男に聞こえるけど本当はそんな事無いわ。ただ少し悪戯が過ぎるだけ。
赤谷君の魅力は、司君にはまだ理解出来ないみたいね。
赤谷君はさらっと「綺麗」とか「可愛い」って言ってくれるし私だって言われたら意識しちゃうじゃない? 性格だって司君が言うほど悪くないし見た目もいいんだから。だから……女の子が寄ってくるのよね……。あの娘達の方が年が赤谷君に近いし好みにも近い。タイプじゃない年上の私は諦めて見ているだけだったのだけど。
私達が魔王軍の計略に引っ掛りバラバラに逃げる事になったあの時、私は魔王軍に囲まれて死ぬのを覚悟していた。そこに赤谷君が助けにきて大怪我を負いながら辛くも脱出して、けど赤谷君の怪我は思った以上に悪くて魔王軍から隠れた洞窟で応急手当てをしたのだけど、私は攻撃魔法しか覚えていなかったから、傷を焼いて止血するぐらいしか出来なかった。そして赤谷君は出血と火傷のショックで体温が下がっていき、そんな彼に私が出来ることなんて私自身で温める事しかなかった。
いつ、魔王軍が私達を見つけるか分からない中、赤谷君までいなくなったら、なんて不安で何年ぶりかで泣いた時、目を覚ました赤谷君が
「ありがとう、蒼井さん。」
私を見て笑った顔が可愛いくて。
私の胸の奥からキューンってして。
私の目から零れ落ちた涙を指で拭ってくれた赤谷君に。
気がついたら私はガックリ床に手をついた姿から、立ちあがり仁王立ちで身振り手振りを交えて語っていた。
魔王軍をやり過ごして洞窟から出た私は“諦める”のを諦めたわ。もう、自分に嘘もつけなかったし我慢もできそうになかったから。あの娘達に「年増」って言われても赤谷君が私を好きになればいいのよって開き直って“あの手この手”で迫り魔王を倒した日に結ばれたわ。
赤谷君は私を抱き締めて
「蒼井さんだけは特別なんだ。」
って言ってくれるのよ?
司君がタイプって言っているのに、こんなに年上な私を掴まえて
「守られているだけじゃなくて俺が蒼井さんを守る。」
って言うのよ?
「俺が蒼井さんを幸せにする。だからついてきてくれ。」
って言われたらっ。
もう、私はもう赤谷君のものなのーっ!
…………。
……。
私は司君と三郷野さんが“聞くんじゃなかった”といったげんなりした顔を向けている事に気がついた。
何よ、司君。“ちょろいん”って何よ?
なにか言いたい事でもある? 三郷野さん。胸焼けしたってなにそれ?
いい、私と赤谷君の話しはこれからなんですからね?




