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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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戸惑いだらけのメインパート24

素直に言えば「負けた」とは思った。

僕には蒼井さんの“お兄ちゃんを排除はいじょする言葉”を否定ひていしきれなかった。

僕が“こちらの世界”に帰ってきてうれしかった事はお兄ちゃんにまた会えた事ぐらいで、知らない間に“彼女(「苺さん」)”がいて告白したら玉砕ぎょくさいしてやっぱり諦めきれないって開き直ったら格の違い(「彼女の強さ」)を見せつけられて、けど、お兄ちゃんは僕になにもしてくれなくて。

だから蒼井さんの言葉に何も言えなくなった。それを苺さんは


「だからどうしたの。」


一言ひとことで蒼井さんをだまらせた。


「それでも好き。」


って言い切った。


「全部分かっていて一緒にいる。」


すごい宣言せんげん

僕みたいに“何もしてくれない”からねるんじゃ無くて“何もしてくれなくても”その事を受け入れて「好き」って言う苺さんに。


「負けた。」


たった三つ(みっつ)の文字が。

僕の“お兄ちゃんが好き”っていう言葉を。

堂々と立って蒼井さんを見る苺さんが。

脇役わきやくのように横で見てるしかできない僕を。

打ちのめす。


「……分からないわ。……本当に分からない。あなた(「三郷野さん」)がそこまで好きになるのが分からない。」


こめかみを押さえるように手を当てた蒼井さんは理解出来ないと頭を振った。


「理屈じゃないんです。私にとって好きは好き。……司さんが直樹を想っているのと同じように。」


蒼井さんの前に立った苺さんは、そう言いながら何も言えない僕に笑いかける。その“笑顔”のちからに、強さに、僕は後退あとずさりしそうになって。

けど、僕は。


「負けていられない。」


口の中で言う。

僕は男だった。お兄ちゃんも男だ。だから分かっていた。まだ小学生だった僕にだって分かっていた。

男同士じゃ“結婚”出来ない事は。

いつかはお兄ちゃんの恋人を見て奥さんを見る事になってつらい想いをするって分かっていた。

ずっと、ずっと、そう思っていた。

けど、“女神(「バカ」)”のせい(「おかげ」)で僕は女になった。

黙って見ていなくてもよくなった。玉砕したけど僕の想いを伝えたし、諦めきれないから、また伝えるつもりだ。何回、伝えて何回、断られても。

蒼井さんが何を言ったって。

苺さんを押しのけたって。

僕は男じゃ無くなったんだから。

諦められる筈がない。


「僕はお兄ちゃんが好き。……たぶん、苺さんがお兄ちゃんを好きって想っているのと同じくらい。」


僕は背筋せすじを伸ばし神殿で信者に見せる“聖女”の笑顔を苺さんに向けて宣言する。今、僕が出来る一番の強い笑顔。

そうだよ。負けられない。

さっき、「負けた」って思っておいて勝手な話しだけど。


「司君、そんなに好きなの?」


ため息なのか呆れて言葉が出なかったのか大きく息を吐いて蒼井さんが言った。

僕はうなづいた。


「当たり前だよ。蒼井さんが赤谷(「バカタニ」)を好きなくらい僕もお兄ちゃんが好き。」


いまだに蒼井さんが赤谷のバカを好きって()()()()()。ちょうど僕と苺さんがお兄ちゃんを好きって分からないのと同じように。


「赤谷君を“バカタニ”って言わないようにって言ったわよね?」


蒼井さんが僕の言葉に反応して顔色を変えた。僕達、“七英雄”で面倒な交渉を一手いってに引き受ける蒼井さんの弱点と言っていい“赤谷(バカタニ)”。


「……あら。蒼井さんは好きな方がいるのね。」


ニマッと苺さんが笑った。これは僕がなんでこんな話しをしたのか苺さんにも通じたんだろう。


「私達の話しだけじゃなくて蒼井さんの話しも聞きたいわ。」


この瞬間に攻めていた蒼井さんは受け側になった。

強引ごういんな話しの置き換え。だけど、僕も苺さんも、お兄ちゃんをい()める蒼井さんに不満を持っていたって事。

例え、お兄ちゃんが悪くても。好きな人を馬鹿にされて怒らないでいれる程、大人じゃ無いし反撃しない程やさしくは無い。


「蒼井さんの彼氏っていうか未来の旦那さんは。」


苺さんに教えるふりをしながら蒼井さんに赤谷のバカな所を思い出させる。


「司君っ。ちょっと、待ちなさい。」

「最初に僕を見て“YES、ロリータ。YES、タッチ”って叫んだ“紳士”のなり損ないなんだ。」

「うわあっ!」


蒼井さんの止める言葉にかぶせ、あの時の気持ち悪さを思い出して思いのほかちからがこもって、言う。

思ったとおりの苺さんの悲鳴のような声。

そして。


「なんで()()()()と付き合ってるんですか? え? “未来の旦那さん”? ()()()()()()()()()()ですよ?」



苺さんの一言(「攻撃」)に蒼井さんはがっくり頭をおとした。

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