戸惑いだらけのメインパート11
更新が遅くなって申し訳ありません。
就活を甘くみていたのは事実だった。
先輩方が言う、「大学で学んだ八割が役に立たない。結局はアルバイトの経験が一番役に立つ。」の“呪いの言葉”は今、実感している。
面接では俺が何という大学より、大学で何をしていたかを重視していた。俺が大学でやったと言えば真面目に講義を受けて司を探して彷徨き彷徨く金がなくなればバイトをしていた……就職では“大学は真面目に講義を受けて当たり前”。それ以外に何をしていたのかを聞いてくる。答えられない俺が就活に失敗するのは当然だった。将来もなかったのが不味かったのもある。俺は司を探す事に全てをかけすぎていた。元々環境が厳しくなっていく農業に一石を投じたい、と専攻した筈だったのにいつの間にかそれを忘れていた。
結果。
「今回はご縁が無かったようです」の手紙は数十枚と重なり俺は色々悩んでいたのだった。
大学で得た智識を生かさず普通の企業に就職かいっそやりたかった農業を土地を買って自己流で始めるか。アイドルグループも出来たくらいだから俺も出来るだろう、大学の智識もあるし……。
現実はそんなに甘くなく今の農業は昔からのやり方を更に改良していて実地でも俺なんかの出る幕はなかった。
司が帰ってきたから将来的な事を暫く忘れていたが大学の三期目の始まりという、まだ時間はあるにも関わらず焦っていた俺は蒼井さんがさしのばす手を両手で握り返していた。
大学にいるのであれば誰だって、この手は離せないはずだ。
“貴方が必要なの”
その一言は殺し文句だ。例え蒼井さんの微笑みを見たとしても。
「僕、お兄ちゃんの将来が心配だよ。」
黙って見ていた司の言葉が耳に痛い。
―司も大人になればわかるさ。
俺が何をしようと思っても、まずは土地柄を確認しなければ方針が決められない。
分かっているのは港が近くて農地に海水を撒かれているという事。これに関しては、ここが“日本”というのが実に大きい。日本は周囲が海で囲まれた島だ。つまり海の害の対策は他の国より進んでいる。塩害に強い植物も取り寄せやすい。
豚伯爵だかなんだが知らないが俺の目が黒い内は思い通りになると思うなよ?
俺は勝つべくして勝つ。
「……お兄ちゃん、聞いてる?」
独り燃え上がっていると司がジトッとした目で睨んでいた。
「お兄ちゃん?」
聞いていない事を確信しているだろう、司はむぅ、と頬を膨らませて男と分かっていても可愛くて抱き締めたくなるのを堪えきれない。だが男を抱き締めるのは俺が嫌だ。強い衝撃と緩い否定の妥協点が司の頭をポンポンする事だった。
司は目を丸くして固まっていたがポンポンしていた俺の腕を掴んで自分の頭に固定すると融けそうな笑みを浮かべた。
「エヘヘヘヘ。」
「貴方達っ! いい加減にしなさいよぉ!」
蒼井さんが吠えた。
「いいっ? 直樹君。今、話しているのは貴方にとって重要な話しなのよっ? それを“頭ポンポン”なんて……赤谷君はしてくれないのに。私の目の前で、憧れの“頭ポンポン”。」
だいたい、赤谷君がいない私の目の前でベタつくか? 常識疑うわ。
ぶつぶつ言い始めた蒼井さんを横目に司に小声で話しかける。
「“頭ポンポン”が憧れって、蒼井さんは三〇過ぎだよな?」
「僕達が蒼井さんを“正統派ヒロイン”って言う理由だよ。……少女趣味って言うか純粋培養って言うか夢みる女の子って言うか? なんか可愛いよね?」
「イヤイヤイヤイヤ、いくらなんでもアラサーが何を言っている、つうか……。」
「お兄ちゃん、女の子は何時までも女の子なんだよ? お兄ちゃんが蒼井さんに変な事、教えたら僕達、みんな怒るからね?」
「…………ハイ。」
真剣な顔で言う司に俺は素直に頷いた。
斯くして蒼井さんの純情は司が守っているのだ。けど少女趣味な三十代って意外と多いよね。
蒼井さんが落ち着いたのは暫くたってからだった。それから改めてこれからの事を話し合って領地へ行く事になったのだが。“魔法”で一瞬にして行けるという訳では無かった。向こう側では“魔法”は攻撃する力、壊し砕く力か、もしくは回復、癒しの力としての両極端にしか使われていない為にその他の利用方は考えられていなかった。便利な魔法は一からつくるしかないが術式を組み替えるのはかなり繊細で先進的な感覚を持たないとできないらしい。
領地迄は神殿から馬に乗って約4日かかるとの事。つまりこちらの時間も同じように過ぎると言う事は往復含め一週間ちょっと帰ってこられないという話でもある。大学の講義をサボってまで行く価値はあるのかと言うと。
有るに決まっている。
行くしかないだろ?
ってか。
行かないの? じゃあ、いつ行くの。今でしょ。
有名な一言が脳内を駆け巡りその事しか考えられない状態になる。
―司を窮地から助ける
―蒼井さんからの「貴方が必要なの」
―異世界への旅
俺、胸の高鳴りが止まらない。
「僕、本当にお兄ちゃんの将来が心配だよ。」
司が年に見合わない大きく深いため息をついた。




